Shut your eyes
古風なろうそく、古風な敷物、古風な装飾。
時代を逆さに飛び越えて迷い込んでしまったかのような広間が僕を迎えた。
城の中は、昼間だというのに薄く陰っていて、ひやりとした石の冷たさが感じられる程だった。
見上げると、数える程度しか無い窓から差し込む乏しい光を、白い石造りの壁が反射し、手助けしているようだ。
急ぎ足の二人に遅れないよう小走りになって広間を通り抜けると、まるで洞窟のように細く、幅の狭い小さな通路が現れた。
等間隔に吊るされたカンテラだけが頼りの、どこか牢獄のようなイメージさえある廊下には、カンテラと全く同じ数の扉が片壁にズラリと並び、無限に続いているかとさえ思われた。
怖気付いた僕の手を、ギャレットがそっと引く。
「怖がる事は無いよ、すぐに慣れるさ。」
不安そうな僕の顔を覗き込み、ギャレットは微笑む。
ギャレットの笑顔には、誰よりも人を和ませる力があった。
僕は後にそう確信する事となる。
「ここが僕らの部屋だよ。」
「ギャレットとダニエルの?」
同じ形をした扉を目眩がするほど通り過ぎ、やっと到着した突き当たりの扉の前で、ギャレットは漸く止まった。
「いや、そうか、説明していなかった。ジュリアン、君の部屋でもある。」
「同室なの?」
僕はダニエルを見上げる。
ダニエルがそうだと頷くと、味方を得たように心強く感じられた。
見知らぬ地でのまだ見ぬ生活も、彼らと共に過ごせるのなら、なんとかやって行けるかもしれない。そう安堵した。
「そうだね、説明していなかった。僕とダニエルが3年生。君ともう1人の1年生で、この部屋を使うんだ。」
ギャレットは僕を振り返ってそう言うと、ふう、と息を吐いてドアノブに手をかけた。
カンテラの光が、ギャレットの影を強く扉に落としている。
「あと、『天国』ではファーストネームしか名乗ってはいけない。」
ダニエルが付け足すと、ギャレットも頷く。
「そう、ここでの僕はただのギャレット。彼はただのダニエル。君はただのジュリアン。」
「先にもう1人の1年生が到着しているが、ファーストネームしか名乗ってはいけない。」
僕はこの時、それをさして重要な事とは思わず、されど破る気もなく、理解出来ないまま頷いた。
ダニエルが僕の頷くのを見ると、これで良し、とまたギャレットを見る。
そしてギャレットは、漸く部屋の扉を開いた。
風と共に僕の目に飛び込んできたのは、光に透けた少年の姿だった。
その部屋の窓は大きく、窓辺に片手を乗せて立つ少年に、覆いかぶさるような光を浴びせている。
細かに観察しなくとも、浮世離れした美しい少年だという事が理解出来た。
僕は、釘付けになってしまったかのように、そこを動けずにいた。
時折強く吹き込む風が、薄いレースのカーテンを踊らせて、彼と僕との間を時折隔てた。
「やっと来たの、ジュリアン。」
彼はそう口にして、そっとレースのカーテンを捕まえ、それをぬいぐるみのように抱え込むと、クスリと笑った。
その赤い唇が僕の名前をなぞった時、僕が感じたのは、他に例えようのない、どこか不気味な恐怖そのものだった。
何故この時の僕が恐怖を感じたのかは、未だに説明する事が出来ない。
そして、彼の金色の視線が僕の視線と絡んだ瞬間、その恐怖は霧散した。
僕は彼を、疑うこと無く本物の天使だと思った。
これが僕と、ディエゴの出会いだった。
アイスフォール 野分 十二 @iamjuni
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