epilogue

 あれから、僕は当て所ない旅を続けている。

今まで語ってきたのは、もう遥か遠い昔の話だ。

二人の友人を失い、行き場所さえも失った僕は、生きることも、死ぬこともできず、ただ彷徨い続けるしかなかった。

 自分の罪を決して忘れぬため、そして今もどこかで戦っている彼らのことを忘れぬため、僕はこうして一編の物語を書き上げた。しかしこれを語ることは、贖罪ではない。ただの自己満足で身勝手なままごとだ。

 時折、旅の途中で幸せについて考える。どうしてこの世界は万物が幸せに生きることを許さないのだろう。セルマや、レヴィや、ニルスのように、救いのない道へと進む者を容認するのだろう。

 世界はあまりに理不尽だ。だから人間は身勝手にならざるを得ないのかもしれない。いや、これもまた身勝手な考えでしかない。

 未だに僕はあのときの答えを見つけられていない。僕は何をするのか。何をしたいのか。何をすべきなのか。すぐ目の前にあるはずの答えを、まだ見つけられずにいる。もしそれが見つかったら、もう一度ニルスに会いに行こう。そんな無意味な妄想を重ねる自分に思わず笑みがこぼれた。

 さあ、次の町へ行こう。この旅路はどこまでも続いている。

胸の傷痕に手を当てる。真ん中にぽっかりと空いた穴。これが僕の生きる唯一の理由だ。こんなことを思うのもまた、独りよがりな現実逃避なのかもしれない。

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訣別の痕 紙野 七 @exoticpenguin

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