刃は夜闇に煌めく-3/3

 訪れた花街は一見すると賑わっているように見えた。道を照らすための街灯に火が灯されていたし、それぞれの娼館の前では客を求める娼婦たちが煽情的な服装で踊りながら手招きをしている。

 女を求めた男たちも多く、店先で腰をくねらせる女に品定めの視線を向けていた。けれども実際に店に入ろうとする者は多くない、皆および腰になっていた。それというのも警邏をする盗賊たちのせいである。


 客である男たちは警邏をしているのが組合に所属している盗賊であると知る由はない。けれども盗賊連中の多くは剣や棍棒などの凶器を身に帯びており、それを隠そうとしていなかった。しかも女たちを求める男たちに向けて鋭い視線を投げかけているのである。

 そんな中、いざ女を買うための一歩を踏み出す度胸のある男は中々いない。街路を歩く人の姿は多いものの、娼館から漏れ出てくる嬌声は小さなもので、賑わっているとは決して言えなかった。


 こんな花街の中を歩いていると、ブレトはどうにもいたたまれない気持ちになって来る。女との色事に興味がなく、花街に訪れた経験が少ないというのもある。だが何よりも盗賊たちの目だ。

 ただ歩いているだけだというのに殺意の籠った視線が突き刺さって来るのである。中には脅しを掛けているつもりなのか、わざとらしく音を出して獲物を見せびらかしてくる者もいる。

 荒事に慣れているブレトですら辛いというのに、平穏な暮らしを過ごす市井の人々からすれば耐え難いものがあるだろう。


「あれって営業妨害ってやつになるんじゃないでしょうかねぇ……」

 神経を張り詰めさせている盗賊連中に聞こえぬよう、ブレトはぼそりと呟く。その隣を歩いているカブリは、うむそうだな、と頷いた。

「本末転倒というやつではないかな、こうもひりついた空気があっては誰も女を買わないだろう。それに件の辻斬り犯だって出てこなくなるだろうな。まったく頭にきているのはわかるが、これでどうして捕まえられると思っているのか不思議になってくる」

 はぁ、とカブリは溜息を吐いた。


 娼婦を買う男が少なくなればカブリにも影響が出てくる。カブリの今の仕事は用心棒で、客が娼婦に狼藉を働かないように睨みを利かせる務めである。極端な話をしてしまえば、いなくても娼館の経営は成り立たないでもない。

 というわけで客がいなくなってしまえば巡り巡ってカブリの仕事は無くなってしまうかもしれないのである。もっとも、カブリだっていつまでも用心棒をしているつもりはないのだが、次の銭稼ぎを考えるのが面倒くさいというところがあった。

「面白半分興味半分……好奇心だけでやって来ましたが、この分だと満足できることは無さそうですねぇ」

 ブレトは思わず欠伸を吐いた。物々しいだけで事件が起こりそうな気配はない、苛立っている盗賊共の姿を見れたのは気持ち良いが、それ以上の収穫は望めそうもない。


 不謹慎なのは承知しているが、今すぐここに辻斬り犯が現れて欲しいというのが本音だった。

「帰るか?」

 カブリに言われ、ブレトはそうですねと頷いた。

 そして踵を返して振り返ると、そこに小柄な男が一人立っていた。男は覆面で口元を隠し、両腰に小振りな剣を佩いている。彼はブレトとカブリを睨み付けた。

「俺たちに何か用か?」

 威圧的な低い声で問い掛けつつ、カブリは剣の柄に手を掛けながら一歩前へと進み出る。


「あぁあるとも、体は小さいが俺も心得がある。お前たち二人の歩き方は只者ではない、相応の修練を積んでいると見た。だが、ここは人目がありすぎる。少し場所を移して話がしたい」

 そうは言うがこの小男の放つ雰囲気は話し合いを求めているようには感じられなかった。今すぐにでも二つの剣を抜き放って斬り付けてきそうな気配がある。しかし、彼が言うように人目が多い。

 警邏をしている盗賊連中はもちろんの事、ただの客も店頭に立つ娼婦たちも三人を見ていた。喧嘩は当然として、殺し合いをする覚悟はカブリにもブレトにもある。だが場所が悪い、悪すぎる。


「構わんぞ、口だけでなく鋼を使った話し合いでもな」

 男はカブリの言葉にたじろぎ、とりあえず戦うつもりがないということを主張するためか、両手を背中へと回した。カブリもこれに応じて、柄から手を離すと彼と同じく背中に手を回す。

「では付いて来い」

 歩き始めた男の後に二人は大人しく付いていった。この男が組合に所属している盗賊の一人だということはとうに分かっていることだった。そして辻斬り犯の嫌疑を掛けられた事も承知している。

 反論するのは簡単なことだったが、したところで信じてもらえないのも明白なこと。とりあえずは相手の言うことに従うのが最も平和に事を終わらせる近道であろう。


 男は入り組んだ細い路地へと入っていき、少し進んだかと思えばまた別の路地へと入る。それを何度か繰り返されるとカブリもブレトもすっかりどこにいるのか分からなくなってしまった。

 ただわかるのは花街からも目抜き通りからも離れているという事。辺りには人の声も気配もなく、星月の明かりすら満足に届きはしない。もしかすると、このまま盗賊組合の本拠地へと連行されるのではないだろうか。


 そんな不安を胸に抱き始めたところで、小男は足を止めて不意に振り返った。

「すまない、思い違いをしていたようだ」

 と、慇懃に頭を下げられた。謝罪されるとは思えなかったため、ブレトもカブリも驚いてしまい、すぐに言葉を返せなかった。

 どうしたものかと逡巡している間に、小男はさらに続ける。

「俺はナジーク、人には言って欲しくないが盗人だ。その技量を活かして街を賑わせる辻斬り犯を探してくれと、ある所から頼まれているんだ。お前たち二人がそうではないかと思ったが違ったな。もしそうなら、幾らでも襲う機会はあったんだ。なのにそれをしないのは犯人でないという証拠、お前たち二人の事は仲間に伝えておくから遊びを楽しんで欲しい」


 それでは、と言い残してナジークは去ろうとする。そこを、ちょっと待って欲しいとブレトは手を伸ばして引き留めた。この求めにナジークは怪訝な顔をしながらも素直に応じる。このナジークという男、盗賊の割には礼儀があるようだ。

「あなたも名乗ってくれたので私も名乗りましょう、私はブレトといいます。隣の男はカブリです、私たちもその辻斬り犯を捕まえたいと考えています。どうでしょう、手を取り合いませんか?」

 そうは言ったものの、ブレトからナジークに提供できるものは何もない。ただナジークというより、盗賊組合の持っている情報を手に入れることが出来ないだろうかと考え、彼を引き留めたのである。


 ここで情報を得られるのならば占めたもの。しかしナジークは渋い顔をして首を横に振る、そんな気はしていたが簡単に引き下がるつもりもない。そこを何とか、と頼み込んだがナジークは困り顔を浮かべるだけで何も教えてはくれなかった。

「悪いが俺にそこまでの裁量はないんだ、お館様から止められていてね。ただ迷惑をかけたのは事実だから、娼館の割引券を渡しておこう。そういう風に言われているんだ」

 ナジークは懐から二枚の札を取り出した、文字が書かれているは分かるが暗くて読めない。盗賊の言うことを頭から信用しすぎてはならないが、本当に割引券なのだろう。


 だがブレトはもちろんのこと、カブリも受け取る気はない。そもそもこの二人、金を使って女と遊ぶ趣味はない。そんなことをするよりも、例えば噂の辻斬り犯を追い掛けているほうがよっぽど楽しかった。

 なので要らない、と突っぱねるのだがナジークは受け取らせようと札をぐいぐいと突き出してくる。互いに譲らず二進も三進もいかなくなり、段々と意固地になり始めた頃、ブレトはある事に気づいた。


 視界の中に映る精霊の数が少ない。いつもならそこら中に踊るようにたゆたっている精霊たちがいない、物陰に潜んでいるというわけでもなさそうだった。こういう時はただ事でない事態が近づいているのを経験から知っている。

 自然と目だけでなく、耳と鼻に神経を集中させる。生臭さと金属の匂いがあった。とつとつ、と小鳥が歩いているような物音がする。その音はナジークの背後から近づいてくるようである。

 今は夜、鳥なわけがない。考えるよりも早く動いていた、ブレトは札を持つナジークの手首をつかむと彼を地面へと引き倒す。その直後、ナジークの立っていた場所に刃の軌跡が描かれた。


 剣を振るった黒ずくめの何者かは不意の一撃を避けられた事にたじろいだ様子。これは好機である、素早く隣を見たがカブリは気づいていなかったらしい。目を見開いているが、その手は剣へと伸びている。しかし遅い、彼に任せてはいられない。

 ブレトは素早く短剣を抜き放ち闖入者へと飛び掛かり、その肩口に切っ先を突き立てようとした。だが空を切る、不意を突き返したというのに避けられていた。並みの技ではない、これが噂の辻斬り犯だと確信する。

 反撃を受けぬように素早く体勢を立て直して後ろへと飛び下がった。この時にはもうカブリが愛剣<狼の爪>を抜き放っており、ブレトと入れ違いに辻斬り犯へと向かっていく。


 ブレトはその背を見送りつつ、混乱のために立ち上がれないでいるナジークを抱き起してやった。

「一体なにがどうしたってんだ!?」

「噂の辻斬りがやって来た、んでしょうねぇ。ナジークさんは助っ人を呼んで来てください、私は土地勘が無いので時間がかかります」

 話している間、ブレトはカブリと辻斬りの二人から目を離さなかった。向かい合っている二人は切っ先を向け合いながら動いていない、というよりも動けない。双方共に相手の技量を既に見極めており、隙を伺い合っている状況だ。


 だがそれも長くは続かない、ブレトの言葉と状況を見たナジークが足音もなく駆け出したからである。すぐに盗賊組合がここに殺到するだろう、そうなれば辻斬り犯の命脈は立たれたも同然となる。

 斬りかかるべきか背を向けて逃げるべきか、その逡巡が辻斬り犯の剣先に現れた。これを見逃すカブリではない、素早く踏み込み首を目掛けて突きを繰り出す。しかし、これは受けて巻き取られてしまいカブリは姿勢を崩してしまった。

 辻斬り犯は素早く身を翻して走り出す、足音はない。どうやら裸足であるらしい。決して逃がしてなるものか、ブレトは走り出してその後にカブリが続く。


 複雑に入り組んだ路地を駆け巡る、広いミルドナイト=フスのどの辺りを走っているのか分からない。けれども花街から遠ざかり、市街の中心部から離れて行っていることだけは分かる。それというのも左右に並ぶ建物は低いものへと変わり始めていたからだった。

 額から汗を噴出させ息を乱れさせながら逃げる背中を追い続ける、不意に月明りが眩しく感じられた。そこはミルドナイト=フスの端の端、富から縁遠い貧民たちの住む区域であった。

 辻斬り犯は止まらない、ブレトとカブリは止まれない。木造の掘立小屋とも呼べぬ襤褸小屋の合間を縫うように走る犯人を追いかけ続け、ようやく止まったのは墓場のようだった。そこいらに盛り土があり、盛られた土の上には墓標と思しき板切れが突き立てられている。


 立ち止まった辻斬り犯はゆっくりと振り返ると顔を隠していた黒い布を取り去った。精悍な青年の姿がそこにあり、瞳は殺意で燃え上がる。逃げられない、と諦めたわけではない。この場所でブレトとカブリ、二人を始末するつもりだ。

 二対一、数の上ではこちらに分がある。挟み撃ちにしてしまおう、そう考えて動こうとしたブレトをカブリが制止した。

「あ奴は卑劣な殺人鬼、なれどこうして相対を覚悟したならこれは決闘よ。ブレト、お前は下がれ。剣に不慣れなお前は足手まといだ、ここはこのカブリ一人で充分よ。なぁにすぐに片は付く」

 カブリはブレトを後ろへと下がらせた。剣は既に抜いている、その切っ先を辻斬り犯へと向けて構えをとる。


「我が名はカブリ、ダンロンの山に生まれし剣士である。背後から襲い掛かり命を奪うその凶行、見捨てては置けぬ。本来なら無言で切り捨ててやる所だが、こうして相対したのも何かの縁よ。礼儀として名を聞いてやる」

 辻斬り犯は応えずに構えると足を擦ってカブリとの距離を詰めはじめる。互いの間合いの中へと入るが、どちらも剣を動かさず二人の切っ先が触れ合い小さな音を立てた。


 それが合図となり二人は同時に剣を振り上げた。

 初撃は辻斬り犯の方が早かったが、カブリはこれを受け流すと即座に反撃の突きを繰り出す。必殺の一撃として放たれたものであったが、辻斬り犯の技量は高く半身になってこれを躱していた。

 そこから一合二合と剣がかち合う。暗い墓場の闇の中、白刃の軌跡が幾重も重なり火花を散らした。

 腕前はほぼ互角と見て取ったカブリは攻めるのを止め、受けに徹することにした。無理に攻めたてずとも時間を稼げばナジークが盗賊仲間を連れてやって来る、それまで辻斬り犯を足止めしてしまえば勝利となるのだ。


 もちろん辻斬り犯もその事は分かっている。烈火の如く攻め立てるが、受けに徹するカブリの守りは堅固であり、凶刃は掠りもしない。そのうちに焦りが出て、剣にもそれが表れた。

 ほんの僅かな鈍りであったがそれを見逃すカブリではなく、下段から剣を振り上げて辻斬り犯の手から剣を跳ね飛ばした。返す刀で左肩から右脇腹まで斜めに切り付ける。

 鮮血が噴き出し、瞬時に血だまりが出来上がった。即死ではなかったが誰の目に見ても明らかな致命傷、辻斬り犯の命の灯は消えたも同然である。その目は一瞬だけ見開かれ、彼は地に両膝を付いた。同時、宙を舞っていた剣も落ちた。


 勝負は決していたがカブリは剣を構えたまま、辻斬り犯から視線を逸らさない。うな垂れていた辻斬り犯だったが、不意に顔を上げた。その両目から頬にかけて涙の筋が出来ている。

「カブリと言ったか……一つ、頼みがある。卑劣な男の戯言として捨て置いてくれても構わないが……俺の死体を、髪の一房でも良い……その墓の、隣に埋めてくれ……」

 辻斬り犯の言葉は途切れ途切れにそう言いながら、一つの墓を指さした。その墓は真新しいもので盛られた土は高く、墓標もまだ綺麗なものだった。


 カブリは彼に返事をせず、刃に付いた血を振るい落としてから剣を鞘へと納める。それと共に、最後まで名乗らなかった辻斬りの犯人の体がくずおれた。おそるおそるブレトは近づき、彼の首に指で触れた。脈は無い、事切れていた。

「死んでます。この人に頼み事されてしまいましたけれども、叶えてやるんですか?」

 振り返りながらブレトは尋ねた、カブリはブレトを見ていなかった。名も無き男が指さした墓を見ている、カブリの表情は見えず何を考えているのか伺い知れない。


「その墓が気になるんですか?」

 ブレトも気になって墓へと近づいた。他の墓と比べて変わったところは何もない、ただの墓である。墓標として突き立てられている板に書かれている名前を読もうとしたが、深まった闇の中、黒い墨で書かれた字は読めなかった。

 カブリはブレトの問いに答える気配がない。じいっと墓を見つめて、考え事をしているようである。


「そのお墓、何かあるんですか?」

 もう一度尋ねながら、また墓を見た。なんの変哲もない墓である、せいぜいが他と比較して新し目であるということぐらい。だというのにカブリはその墓から視線を離さないでいた。

「誰の墓なのだろうなと思うてな。墓標に名があるのかもしれんが、夜闇で読めん。しかし、人斬りにとっては特別な誰かの墓なのかもしれん」

「そりゃそうでしょうねぇ。髪の一房、とは言ってましたけれど本音では隣に埋めて欲しいってところでしょうし……。まさかとは思いますが、あれの頼みを聞く気ですか?」

 カブリは首を横に振った。


「いいや、流石の俺でも通り魔。しかも真後ろから人を斬り付けるような卑劣な真似をする輩の頼みは聴かん。ただなぁ、奴と剣を交わした時に悲哀を感じた気がしてな」

「はぁ……悲哀、ですか」

 振るう剣に気持ちが乗ることはあるだろうとブレトは思う。けれどもそれが相手にまで伝わるものだろうか、ましてや悲哀ときた。カブリの感じている物が何なのか、ブレトにはよくわからない。

 死体をどうしようかと、ブレトは骸を見下ろした。亡骸の目はぱっちりと開かれたままで、無念さを思えどカブリの言うような悲哀は感じられなかった。


 この手の死体は役人に伝えるのが本来だが、事が事である。娼館組合あるいは盗賊組合に引き渡すのが良いだろう、といってもこれを担いでいくのは気が重い。どうやって運ぼうかと思案していると、小さいながらも幾つもの足音が近づいてきた。

 路地からぞろぞろと、武器を手にした男たちが現れる。その先頭に立っているのはナジークだった。その姿を見て彼に助太刀を連れてくるように言ったことを思い出す。助太刀は不要となったが、これは助かる。

「二人ともまだ生きているか? ん、もう終わっているのか……?」

 気勢に溢れてやって来たナジークだったが、地に倒れ伏す男の姿と二人を見ると肩を落とした。それはナジークが連れて来た盗賊連中も同様である。


「おいナジーク! ちょいとこっちに来い、貴様なら夜目が効くだろう。この墓標に書いてある名前を読んでみせてくれ」

 カブリが声を張り上げてナジークを呼んだ。ナジークからしてみればよく分からない頼みだが、断る理由も特にない。言われるがままにカブリが指す墓標に顔を近づけた。

 盗賊の視力を持ってすれば夜闇の中で文字を読む事など容易いはずだが、ナジークは溜息を吐いて首を横に振る。

「こりゃ相当に学が無いやつが書いたに違いねぇ。汚すぎて読めたもんじゃないよ、ただなんとなくだが……女の名前のようだな。しかし旦那よ、どうしてこんなもんが気になるんだい」

「卑劣な辻斬りがだな、事切れる直前にこの墓に隣に埋葬してくれ等と抜かしよったから少しばかり気になっただけよ。だがもう気にならなくなった、後は貴様らの領分だろう。俺とブレトは帰る」

 そういう割には険しい顔を浮かべるカブリであった。そして駆け抜けて来た路地へと戻ろうとするので、ブレトは慌ててその後を着いてゆく。盗賊たちは二人の後姿を不思議そうにみながらも、追いかけてくることは無かった。


 無尽に張り巡らされた細い路地をどう駆けたか、なんてことは覚えていない。ただ適当に歩いているとその内に目抜き通りに出たので、二人はそこから<静夢亭>へと戻ったのだった。

 ブレトはカブリが斬った男が本当に犯人だったのか、ほんの少しだけ気になっていた。だがその後、娼館帰りの男が斬られることは無かったので彼が犯人で間違いなく、カブリとブレトには事件を解決したということで報奨金が渡された。

 こうしてミルドナイト=フスの花街を騒がせた辻斬りは終わる。平穏で、時折は喧騒が巻き起こる日常が戻って来る。けれども全く変化がなかったわけではない、カブリは娼館の用心棒を辞めてしまった。用心棒自体を辞めたわけではない、娼館の用心棒だけは務めなくなった、というだけのこと。

 ブレトはその理由を尋ねたことがある。カブリは「なんとなく、気に入らなくなった」そう言うだけで、決してそれ以上の事を語ることは無かった。

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蛮族とエルフ 不立雷葉 @raiba_novel

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