第5話 弁当の時間+1
体育が終わりウトウトしながらもつつがなく二限、三限、四限を終えた。
そして、お昼時である。
「陽す――ああ」
ついいつもの癖で陽介と呼びかけ口を塞ぐ。が、もうあの二人の姿は教室にはなかった。いいことだ。狙い通り、狙い通り。
それじゃ、俺も弁当を食おうか。今日は静かな昼食だ。
カバンから弁当を机の上に出す。
「…………」
あれ? 今、お昼の時間だよな? 食ってもいいんだよな?
弁当包みをほどき、箸を出す。二段式になっている弁当の蓋を外して、弁当を広げる。周りを確認。
教室に残っているのは、机をくっつけている女子のグループが一つ、男子の集団が一つ。そして、お一人様がポツリポツリと数名。中には読書少女、先川穂乃もいた。てか、あいつ本読んでんじゃん。飯食わないの?
というか。
一人のやつ、全然飯食って無くね? 自習してるやつもいるし、スマホいじってるやつもいる。四限目が終わってもう、十分が経とうとしている。昼休みは四十五分あるので、まだ余裕はあるが、一人のやつは誰も食べていない。え? なんか一人のやつは何分まで食っちゃいけないルールでもあるの?
「……知らなかった。ボッチ飯がこんなにやりづらいなんて」
いや、十中八九気にし過ぎなんだろうけど……。
「あ……」
「あ……」
なんて視線を彷徨わせていると廊下から教室に入ってきた優紀と視線が合う。ト
イレ行ってきたのかな? いや、違うか。なにやら疲れているようだ。
「ん?」
と、俺と視線の合った優紀は何やらぱぁっと表情を輝かせて……?
「宇民!」
かと思えばすごい勢いで寄ってきた。その手にあったのは、弁当!
「うおっ、お前、まさか便所で飯を……?」
「違うよ!」
「嘘つけ! じゃあなんで弁当持ってんだよ」
「こ、これは」
「便所飯じゃなければ、お前はただ便所に飯を持って行っただけってことになるぞ!」
「違うよ! 意味が変わらないよ、それ! こ、これは、その……」
「なんだよ、はっきり言えよ」
「だから、さそ……とわ……んだよ!」
「え、何? 全然、聞こえねえぞ」
「だから、さそっ……けど……れたんだよ!」
「だから、これは……誘ったんだけど断られたんだよ!」
頬を紅潮させて叫ぶ優紀。
「……へ?」
その衝撃の告白に。
「な、なんかわりぃな。……その、お前もいじめられてるのか?」
ちょっと悪いことをした気になってしまう。その、大変だよな。強く生きようぜ。
「いじめられてない! ……よね?」
ツッコミつつも疑問形になる優紀。不安になったのだろう。
「いや、知らないけど。なんだ、その、一緒に飯食うか?」
「……うん」
正直、食べ始めることすらままならなかった俺の提案を優紀は恥ずかしさからかどこか決まりが悪そうな表情で受け入れた。
弁当。
それは時にそれなりの話題の種になる因子である。
それは持ってきた弁当か、或いはコンビニで買ってきた弁当か。
自分で作ったのか、親が作ったのか。
和食か、洋食か。
様々な種類があるそれは、それなりに話題となる。ただ、他人との違いがあるのなら、の話である。
そして、この場において、それは――特に話題をもたらさなかった。
俺の弁当と優紀の弁当。
普通に親に作ってもらい、和食とも洋食ともつかない昨日の残りやお惣菜、冷凍食品のおかずとご飯。
珍しい料理もなければ特に何の変哲もない弁当。
「…………」
「…………」
一緒に食うか? と言ったもののここに話題はなかった。
だた黙々と飯を食い続ける優紀と俺。
あれ? これ、一人よりも気まずくね?
何か話題は、話題は……。思えばまともに話したのは今日からだ。
「あ、あー……えっと、お前はそのなんでそんな可愛いんだ?」
「――へ?」
「あ、いや、なんでもない」
すぐに失言に気づき訂正。
男相手になんで可愛いんだ? はないな。あと、今、ものすごい殺気を感じた。
「……悪い」
「……だ、大丈夫」
またも訪れる気まずい空気。
「か、可愛い、か。やっぱりそう見えるのかい?」
ポツリと呟かれた優紀からの言葉。
「え…………まあ、そうだな」
少し重さを伴った呟きだったが、微妙に答えに困った。
「はあ。可愛いから、なんだよね、多分」
「……は?」
「友達がさ、出来ないんだよね、僕」
語り始めた優紀。
「こんなこと、嫌われ者の宇民にしか言えないんだけどさ」
「おい」
さりげなく酷いこと言われたよね、今。
「いや、宇民と違って全く友達がいないわけじゃないんだよ? ただ、その友達がペアとか組んでくれないんだよね」
「え、俺、お前に嫌われてる?」
「今日だって、なんか女子と弁当食べてるお前を見たいとか言われてさ。意味わかんないよ」
「ふーん」
正直、悩んでるのは分かった。
見た目が可愛いから男友達が出来ない、と。
…………なんか女子が聞いたら普通に自慢だって思われそうだな、くらいしか感想がない。というか所々棘があったせいか、なかなか親身になれないんだよな。
「まあ、女友達つくればいいんじゃね?」
結果、そんな答えしか出せなかった。あまり考えてはいないが反省もしていない。
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