第11話 空気

やがて、私達は入校してからしばらく一緒に先生・紺野さん・村田さんとランチを食べに行く仲になった。


村田さんは基本的に気まぐれなので参加しない日もあるが、先生と紺野さんとは一緒にランチを食べに行く日々が続いた。


「今日は、先生何処に連れて行ってくれるんですか?」と私が訪ねると先生はキョロキョロしながら「えーと、あっちの方にお値打ちなランチが食べられる店があるんですよ」といって連れて行ってくれた。


その日は、先生と紺野さんと私の三人だった。「村田さん、今日はいないねぇ」と言うと紺野さんが渋い顔をしていた。


「村田さんって、突然びっくりするような質問をするから面白いのになぁ」と私が言うと紺野さんはボソッと「もっと、あの人空気読めるといいんだけどって思いますけどね・・・。正直、何て回答していいかわからない事を言われても・・・。」と低い声で答えた。


いつも紺野さんはニコニコと笑っているし、人の話も否定せずに上手に合わせる人だけど本当は心の中で色々と我慢している人なのかもしれないと思った。


「でも、村田さんって自分の心に正直だと思うんですよ。だから、心に思った疑問が自然と口に出ちゃうんじゃないかなって思うんです。」と私が言っても、紺野さんは困ったような顔をして俯いてしまった。恐らく、紺野さんは少し村田さんみたいなタイプが苦手なのかもしれない。


先生は「でも、ああやって思っていた事を正直に人に言えるってのはいい事ですよね。」とフォローしていたものの、心の中では色々と考えているような複雑な表情をしていた。先生は、村田さんに質問をされるといつも困ったような顔をするので、正直何て答えていいかわからない質問ばかりふっかける村田さんには困っているのかもしれない。でも、先生という立場上村田さんのいい所を探して褒めようとしているような気がした。


私は、先生・紺野さん・村田さんの三人のやり取りを見ていると村田さんのように思った事を素直にどんどん質問していく人って男性から疎まれてしまうのかな?と思った。


でも、私は恐らく村田さんは心の中で思っている事をすぐに言葉で伝えないと気が済まない人なのだろうと思う。疑問点はすぐに解決しないと気が済まない人なのだろうけど、一度自分の中に飲み込んで考えてから答えようと考えないタイプなのだろう。生きていく上で悪い事じゃないのかもしれないけど、紺野さんは「そういうのは、社会の常識で黙っていた方がいいって事もあるから」と吐き捨ててしまった。


段々、私達は「このランチ会、いつまで続けようかな?」といった空気を醸し出すようになっていった。先生も、紺野さんも段々みんなでご飯を食べに行く事に乗り気じゃなくなってくるようになった。


やがて、どちらともなく「今日は、弁当屋さんにお弁当買いにいこうと思って」と誰かが言い出すようになり、ランチ会は終焉を迎えるようになった。

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