第12話 隣人

教室で勉強する日が数日続くと、やがて「毎日来る人」「遅刻する人」「来ない人」が現れるようになった。まぁ、欠席が多くなると退学になってしまうので遅刻する人でも息を切らせて「すみません」と言いながら教室に入る人も多い。


そんな中、ほぼ殆どの日を欠席して遅刻をしても動じる事の無い男性が1人いた。それは、私の隣人の片山さんだ。片山さんは、どんなに遅刻をしても「すみません」をいう事は絶対にない。


遅刻、早退も非常に多く、理由は「就職活動がありますから」「体の具合が悪いので」と様々だったが、表情は常に一定だった。あまりに表情がないので、感情が伝わりにくすぎて先生も困っていた程だった。先生はいつも「体、大丈夫ですか?」と伝えつつも内心「本当に病気なの?」と疑うような目で片山さんに声をかけていた。


「片山さん、今日も学校来ないね。」


片山さんは、集団面接の時に私の右隣に座っていた人だ。ややアトピー肌で、「体の調子が悪くて、仕事辞めました」と面接官にいった人だ。


正直、体の調子が悪いから仕事辞めたって言われても企業側としては「で?」って感じなんじゃないの?と思ったが、あまりにも細々とした声で面接官に伝えていたので本当に病弱なのだと思っていた。


「片山さん、本当に病気で休んでいると思う?こんなに来ないのおかしくない?」と主婦の吉田さんがため息交じりに呟いた。吉田さんの横で、苦笑いをする紺野さんは、あまり話題に関わりたくないように思えた。


「いや、体の調子が悪いって聞いています。でも、いくらなんでもこんなに休まれちゃうと困りますよね・・・。」先生も、重いため息をついていた。


「もし、片山さんこのまま欠席できる分の日数が足りなくなったらどうするんですか?」と紺野さんが聞くと先生は「うーん。学校の決まりですから、退校になってしまいますね・・・。」と困り果てていた。正直、先生側も欠席者が多くて退校者が出るのは先生の評価にも繋がるので困るのだ。


すると村田さんが思いついたように「確信犯ですよ、片山さん」としかめた顔で答えた。「確信犯?」と先生が不安そうに首をかしげると、「最初から、片山さん来る気ないんですよ」と怒った口調で答えた。


すかさず先生は「いや、さすがにそれはないですよ。やる気があって、頑張って授業を覚えたいって片山さんは僕に話していましたから。そんな筈、絶対・・・きっと、無いと思います。」と答えた。そうは言うものの、先生の顔は不安そうに青ざめていた。


「僕、一生懸命勉強したいって意欲あるんです。片山さんみたいな人が1人でもいると困ります。」ぶっきらぼうに答える村田さんの声は、怒っていた。クラスは村田さんの声でシーンと静まり返った。



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