第7話

 担任は「なぜこんなことをしたのか」「どうして彼女に対してなのか」「自分がされたらどう思うのか」「他にも仲間がいるのか」など問い詰めてきたが、どれに対しても僕は「わかりません」と下を向いて答えるだけだった。最初は諭すような担任の言い方もやがては苛つきを帯び、早口になっていくのをおでこのあたりで感じた。担任の隣に座っている彼女の目線はずっと僕の方にあって逸れることはなかったが、僕を見ているような、見透かしているような、もはや見ていないような、空虚な眼差しだった。

 しばらく沈黙が続いたが、やがて教室の外からパタパタと足音が近づいてき、勢いよく戸が引かれ、窓ガラスが張り裂けそうな音がした。息切れし、瞳孔の開いた母親の姿がそこにあった。母は担任と彼女の目を見た後に、僕たちの机のまえに跪いて「大変申し訳ございません」と額を地につけた。そして担任が頭をあげるよう促して漸く居直ると、母は座っている僕の頭を掴んでその場に立たせ、口を真一文字に結びながら僕の頬を平手で打った。先程の窓ガラスよりも強く甲高く響いた。母の顔は涙と鼻水で化粧が崩れ、後にも先にもあんなにも醜悪で悲しい母の顔は見たことがなかった。

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少女のランドセルは緑色だった 蝦蟇ヶ淵下戸 @gamagabuchi

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