第20話 Break time
結局【皇帝】とハイドの第二競技での戦い、それに決着はつかなかった。
その前に終了を知らせるベルの音が鳴り響き残り生存者が規定の人数となったことを皆が知る。
『命拾いしたな、国の犬』
『誰が犬か! このテロリスト!』
周りには聞こえない声でお互いにやり取りをしてハイドはその場を去り、意識を現実世界へと戻す。
「美洋く~~ん!! 勝てなかったよお……って、なにしてるの?」
そして現実で目を覚ましたハイドは立ち上がると横にいたはずの美洋に視線を向ける……が、そこに美洋はいない。
『あれ?』と思いながらぐるっと首を回すと美洋たちが座っていたスクリーン前のソファ、その後ろで情報管制室の職員全員が集まって難しい顔をしていたのだ。
そして当然、その集団の中央には、捜し中の人物美洋がいるのであった。
「おはようハイド。どうだった……と聞きたいところだったけれどその様子だと察してるらしいね」
「聞いてないよ!? 今回もマッドティーパーティーが出てくるなんて!」
ハイドは怒っていた。理由は一つ、美洋がハイドに情報を伝えていなかったからだ。
ハイドが聞いたのは【この大会で優勝すれば豪華賞品が手に入る】というもの。
たが、彼女はその退会の裏にマッドティーパーティーがいることに気がついた。いや、確信と言うほどでもなかったかも知れないが卓越したプログラムであった【皇帝】を相手にしてそう考えたのだ。
そしてその予測は美洋の反応で肯定された。
「うん、言ってなかったどね。今回の大会はマッドティーパーティーの企画した物の可能性が高い。言わなかったのは確信もなかったのとハイドには楽しんで貰いたかったからだ。関わっていないのであれば普通に楽しいはずのゲーム大会だからね」
「むぅ……」
ハイドのため、という好意を示され強気に出れなくなってしまう赤髪の少女。
そこに室長である近藤も割って入る。
「まあ、気づいてしまったのならしかたのないことだ。それにマッドティーパーティーがいることが確定したのならハイド君の協力は必要不可欠。そして、大会に優勝しなければならないことに違いはない」
「そうなんですけど……」
何か納得のいかないハイド。美洋はこれ以上説明するより今回の事件の説明をした方が賢明だと判断して話を切り替える。
「ハイド。改めて謝る。隠していてすまなかった。だけどそれは一旦おいといてくれると嬉しい。今回の犯人は早急に捕まえないと厳しい」
「厳しい? 私がいても?」
少し驚いたような発言をするハイド。だが、実際に先程の電子世界での闘いは互角であったとのことは誰よりも実感しているためすぐに言い直す。
「そっか…、そうだよね……そうか……あのキャラクターが……」
「ああ、間違いない。そしてハイドと等レベル以上の出力、或いは機能を有していると思われる。エルデロイドではないだろうけどAIとかだろうね」
「私より上?」
気に障ったのかハイドの言葉に棘が含まれる風に感じる美洋。だが、動じることなく説明をしていく。
「いや勿論ハイドが一番だよ」
それで満足したのかハイドも追及を止める。
その様子をみた美洋は半紙をハイドにも共有するべく、机の上で職員たちが眺めていた紙を美洋はハイドにも見せる。
それは第一競技の【皇帝】の順位であった。先程美洋も確認した低順位。
「え? 第一ではこんなに低かったの? でも……いや、そういうこと……」
驚きこそしたが次の瞬間には納得の表情の表情を浮かべるハイド。美洋もそれが正解であることを伝える。
「そうだ。【皇帝】は恐らく進化、或いは成長していくタイプのAだI。或いはそれに類するもの。第一競技で低かったのはまだ生まれたばかりの赤ん坊AIだから。そして」
「私レベルになったのは第一競技と第二競技の間で強くなったってことだね……」
「しかし……やつはどうしてこれだけ早く進化することができたのだ? ハイド君は大容量の計算装置こそ持たないがそれでも我々が作れるレベルの技術力の二世代くらい先はいっているはずだぞ」
「いいえ、そうではありません」
たが、美洋とハイドが辿り着いた結論に近藤が待ったをかける……が、美洋は考えを、その答えを口にする。
「いたでしょう、この大会の中に。世界中から集まった一流のプログラマーたちが。恐らくそれらをコピー、模倣を繰り返した結果ハイドに対して意思表示するほどになったと思われます」
〇〇〇
「はあ、はあ、なんなの……こいつ」
「先程のロボットとは違うようですね」
扉を蹴破った先の部屋、そこでリーシャは膝をついていた。出血などはないものの顔からは疲労の色が隠せない。
そしてその相棒であるピノキオもまた、体をギシギシと動かしながら正常に動くことを確認する。その表情からは思うように戦えない苛立ちが垣間見える。
二人の正面、そこに居たのは先程の足がキャタピラーで出来たロボットたちとはまた違う、完全人型のロボットだ。その存在は恐らくエルデロイドであるピノキオやハイドに近いものがあるだろう。
無言に、部屋の扉を蹴破って侵入してきたリーシャとピノキオに対して恐れることなく立ちはだかり、その攻撃を攻撃を尽く耐えたのだ。
その人形に表情などはない。マネキンのような体に無表情の目。だが今はそれが逆に恐怖心を煽る。
リーシャとピノキオが部屋に侵入してきた直後こそ二対一という数の有利性も有りリーシャ達が押していたようにも思えた。だが、いつの間にか動きを読まれ、反撃してきたロボットの足がリーシャの腹部を捕らえ、ピノキオの脇腹に決まったのであった。
膝をついているリーシャに一歩、また一歩と近づいてくるロボット。体を動かすことに支障がないことを確認したピノキオがその行く手を阻むように立ち塞がる。
ピノキオとて、戦闘用に作られたロボットだ。相手の実力を計測し己が叶う相手ではないことを把握している。
それでも彼は立つ。
「リーシャ、お逃げなさい。あなただけでも」
「ピノキオ!?」
ピノキオの言っている意味が分かったのだろう。リーシャは目を見開きピノキオを見つめる。
だが、リーシャが逃げるまもなく、目にもとまらぬ速さで目の前の敵ロボットは動く。ピノキオは身構え、ロボットであるにも関わらずリーシャが逃げ切れることを祈りながら最期の時を迎え……
なかった。
まさに敵ロボットの腕がピノキオに襲いかかる瞬間、動きが停止したのだ。
「ん?」
「あ、あれ……?」
突然敵の動きが止まったことに動揺を隠せないリーシャとピノキオ。だが、隙は隙。ピノキオは絶好の好機と捉え動きの止まった敵ロボットの動力炉があると思われる部分、人間でいう頭、胸部、腹部を殴ってくり貫く。
力無く倒れる敵ロボット。呆気に取られながらもリーシャは状況を理解するとピノキオに対して指示を出す。
「ピノキオ! 万が一に備えて四肢ももいでおいて! それができたら後は放置! この施設の秘密と情報を貰いに行くよ!」
「はい、我が主」
直後、ピノキオの腕が一閃、二閃、三閃、四閃、五閃……と煌めく。四肢と、指示にはなかった頭部を胴体から切り離す。
作業が終わると二人は既にロボットから離れ、彼が守っていたであろう奥の部屋の探索に入る。
「こいつは……一体なんだったのでしょうか。私だけならともかくマスターもまとめて倒すなど……おおよそ人に作れるものとは思えませんね……」
奥のの通路を進みながらピノキオは思ったことを告げていく。だが、その予想はリーシャも建てていたからしく珍しくすぐさま
「ピノキオ、私のことを過大評価しすぎだよ。しかし……さっきのロボットが異常なのは機械音痴の私でも分かる。人型であったことにも何か意味あったのかもしれないし……」
「ではとりあえず、先程のロボットの情報を集めながら施設爆破のための準備に入ります」
目の前にロボットが再び現れる。だが先程のように人型ではなく両手がそれぞれ銃ドリルの形を取る、という部屋の外にもいるロボットと同じタイプだ。
速やかに、相手が発砲する前にピノキオは動き、彼が動く度にロボットたちの銃を装備した左手は地に落ちる。
「まだこんなにいましたか……。しかたありません。闘いましょう」
「任務達成遠そうね」
先へ先へと進む二人。だから気づかなかった。先程首を落とされたロボットの口が動いていたことに。
「第三競技が始まる……」
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