第21話 Fake strategy

「第三競技が終わって残り八人……そろそろ手がつけられなくなるぞ……」


 皇帝がマッドティーパーティーのプログラムだと断定して既に三時間。美洋たちは第三競技を終えて再び情報管制室の中で作戦会議をしていた。


 現在、残っている選手は八人、その中でハイドは現在総合点で一位通過。美洋みなみも三位で通過していた。


 そこまで見れば順調に優勝に近づいていると言える。なにせ最初の情報管制室の目標は一位となってリークされた【世界を改変しかねないもの】を回収することなのだ。それだけであればハイドを参加させておけば安泰であった。


 だが、そこに【皇帝】と言う存在が美洋たちの前に立ち塞がる。制作者は不明。にもかかわらず、とんでもない速度で成長し続けるという明らかに別次元のプログラム。並みのプログラマーでは話しになるわけがなくマッドティーパーティーが絡んでいることは濃厚だった。


「そのようだ。だが、美洋君にハイド君。二人が揃って八位以内に入っているのは同時に喜ばしいことであると言うべきだろうね」


 その情報管制室の職員でもっとも偉い人間、近藤が心底安心しているように美洋の言葉に返す。ちなみに情報管制室の職員から送り出した他の参加者は既に狭き門である生き残りを賭けた勝負に負けて退場となっている。よほど疲れたのか今は会議にも参加せずにぐったりだ。


 だが、安心している近藤たち職員とは違い美洋とハイドの表情は余りよくない。


「近藤さん、全く安心できません。皇帝は危険すぎます」


 確信を持って断言する美洋。その横でハイドもウンウンとうなずく。


「危険……確かに、あれだけの技術力を持つプログラマーだ。ハッカーとして我々のところに攻めてきたりしたらとんでもないことになりそうーー」

「そっちじゃないです! 成長し続けるんですよ! その心配もありますけどそれどころじゃなくなっちゃいます! そのうち大っきくなったら国一つ簡単に乗っ取っちゃうことができるかもしれないんですよ!」

「な……」


 流石にそのスケールの問題は考えていなかったのか驚きの余り口が塞がらない近藤。

 美洋がハイドの説明に付け加える。


「はるか遠い未来だと思います……というか信じたいですけどね。でもこれだけの速度で他者の模倣、再現、発展までしているとなると……」


 美洋の手に握られているのは第三競技の結果だ。1位はハイド……ではなく皇帝であった。


 今回は一定の広さを持つフィールドに隠された宝をどれだけ集めることができるか、という趣旨のものであった。


 そのため第二競技よりもさらに複雑さが増しているのだが……


「先程の第三競技、皇帝は最初こそ動揺でもしているかのようにふらふらと動き回っていました。しかし、始まって数分が経つ頃には周囲のキャラクターのプログラムの動きを解析、しただけではなくその目的まで探り当てそれを自身の行動に反映していました」

「ふむ……となると解析の速度が上がっているということかね?」

「いえ、恐らく速度そのものは変わっていないかと。第一競技でも恐らく他のキャラクターたちの動きを即座に解析、分析し、再構築したのでしょう。第二競技、第三競技のように。あの試合で皇帝の順位が低かったのは競技の形式によるものです」

「ん? 確か単なるレースだったと思うが……それが何か関係あるのか?」


 第一競技の内容を思い出しながら近藤は美洋に尋ねる。


「はい、例えばですけどオリンピックで徒競走をやるとします。しかし、記録で1位を出せる人でも何秒も遅れてスタートしては1位を取れない、と言うわけです。事実第一競技に関しては皆団子状態でゴールしています」

「なるほど……。では美洋君、それが危険だというのならばどう対処すれば良いんだ? 今現在リーシャとピノキオにこの大会のサーバー元を攻撃して貰っているのだが交戦中のせいか、電話に出てくれない」

「対策はあります。そしてこんなプログラムは残しておいてはいけない、と私は考えますし、ましてやマッドティーパーティーが所持して良いものじゃない」

「だけど美洋君、あれ、今までにかなりの量の学習をしているよ? もしかしたらもう私じゃ手をつけられないかも……」


 ハイドが自信なさげに美洋に申し出る。実際第二競技では時間切れという引き分け。そして第三競技ではハイドを上回るスコアをたたき出した皇帝。ハイドが不安になるのも無理はない。


〇〇〇


「さあ! 最期の競技! それは【バトル・オブ・ストラテジー】! オリジナルルールによる将棋やチェスのようなものだと考えてくれ!」


 八人の最終競技参加者が円形に座っている。今回のゲームは今までとは少し違い派手な動きはない。いや、勿論盛り上げるための演出はあるのだが。


『まあ、言ってしまえば王様である自分を守るべく、そして同時に王様たらんとする人物すら切り捨てる非情さを各々のキャラクターたちが持っているかを競うゲームだ!』


 円形に並ぶ八人のその正面にチェスのような駒が次々と現れる。


『よし、全員確認したかな? 動かし方は簡単だ。今からちゃちゃっと説明してあげよう。たが、そこからは各々考えてくれたまえ』


 列車からドラゴンまで、生物無機物問わずの駒。そしてそれらから矢印が伸び、どう動くかを教えてくれる。


〇〇〇


「美洋君、今回の競技は一体……」


 スクリーンの前で近藤が美洋に尋ねる。


「どうやら今度はチェスのようですね……駒の動きは初めて見るものばかりですが。というか軍を動かすといったほうがいいかもですね」


 プログラムをいじりながら美洋が答える。


「軍?」

「はい、最後は駒を動かすプログラムを速攻で作れ、というものですね。駒の動かし方を間違えれば即失格。それにどれも初めて見る動かし方ですので戦略も含めて定石なども自分で、と言うことですね……」


 四苦八苦しながら一つ一つプログラムや戦略を組み立てていく美洋。ちなみに横ではハイドがいろいろと口出ししている。


「あ、美洋君、これだとこっちが動かなくなるよ」

「あ~、そう言う作戦ね。でもそれならこっち動かしてもいいんじゃない?」

「ありゃ? これ止まったまんまだけど良いの?」


 等々……。


「ハイド……。気が散るから少し黙っていてくれるかい?」

「え~、はーい」


 なお、ハイドが暇そうにしているのは今プログラムを作る必要がないためだ。何事も試合が始まってから熟考きたら良いのだ。(何故ならハイドは最初からプログラム)


「なるほど……しかしそれだと皇帝もかなり強いのではないかね?」


 近藤がハイドとじゃれ合う美洋に尋ねる。実際他の競技ではほんの一瞬で相手のプログラムを解析し、自分の糧としてきていたからだ。


 しかし、美洋はすました顔であった。


「いえ、確かに学習能力自体は脅威ですが既に弱点は掴んでいます」


 プログラムをいじる手を休め近藤の顔を見る美洋。


「皇帝は僕が壊しますよ」

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