第19話 Second game
「ふはははははは! ハイド様に勝てるプログラムなどあるものか~!」
円形の、実寸大に直して直径二キロメートルに及ぶコロシアム。その中で赤い髪の少女が縦横無尽に走り回る。
第二競技【ヒット・アンド・アウェイ】。ルールは簡単、自身が与えられたハンマーで敵をたたくだけ。
ルールは四つ。
1、敵をたたく
2、叩かれたら敗北
3、行動はすべて事前にプログラムすること
4、この競技は残りの人数が十六人になるまで続けられる。
よってこのゲームにおいて重要なのは【いかに敵に見つからずに近づき、叩き、そして一撃を加えたのち新たな敵に見つからないうちに再び潜伏する】という行動パターンをルールにもあるとおりプログラミングできるかというものである。
プログラマーたちはそれが説明されてから二時間しかない休憩時間、その間に各々のプログラマーが自作したものだ。
現在は試合が始まったためプログラマーたちもおとなしく見ているほかはない。
そしてだ。プログラマーの作戦は大きく分けて三つに分かれた。
一つは【潜伏】し、【敵に接近】し、同時に【周りの敵を索敵】しながら、敵めがけて【ハンマーでたたく】という複雑な行動をプログラミング。
二つ目は逆に隠れることに特化したプログラムを作ったものたち。試合が終わるまで隠れてやり過ごし、一つ目にあげた複雑なプログラム達が自滅、或いは共倒れになってくれることを祈ったプログラミングと言える。
そして三つ目、それを逆手にとって【隠れる】という行動をとったキャラクターを探す、というプログラムを作ったものたち。強敵からは逃げ、かといって国の代表として恥じないように一応は戦う道を選んだプログラム。
もちろんハイドはもともとプログラム。いつも現実世界で動いているかのような自由度で動き回り無双している。
彼女はじゃんけんのような関係性の中で常に有利なものを自分の行動として選んでいた。
隠れる相手は見つけ出し叩き、戦う相手は隠れて後ろから叩き、隠れた者を狙う相手はわざと隠れておびき寄せ叩く。
『おおっと! 第一競技でもデッドヒートデッドヒートを繰り広げてくれたハイド選手! この競技でもかなりの腕前を見せてくれます! 彼女に出会ったら最後! どんなプログラミングを施したキャラクターも一撃のもとにリタイアだ!』
盛り上がる司会、それに疑似音声の歓声(おそらく司会のピエロが流しているのだろう)が流れる。それと同時に画面の右には今まさにインターネットで観戦している人の感想やコメントが流れている。
・おいおい、ほんとにプログラムか?!
・さっき表情変わってる風にみえたんだけど……そこまでプログラミングしてないよね……
・俺、さっきから数えてたんだが今まで倒した二十人全部違う倒し方だったぜ……
・なんでもいい! ハイドちゃん可愛い!!
どうやら複数の視点を切り替えているらしく観客を盛り上げるためか敵を倒せば倒すほどフューチャーされるらしい。よってすでに二十人倒したハイドのカメラに映る割合はかなりのものだ。
また、ビジュアルもかわいらしいもの(本人としては美人を目指して現実のハイドを大人びて見せたかったらしい)であり男女問わずにかわいがられそうな外見である。
一方美洋はというと基本的に隠れてやり過ごす作戦だ。敵はハイドが倒すと考えて。
そしてハイドの方も周りには気取られないように美洋を守るように動いている。
「さあさあさあ! 私を倒せるやつはいないのか! 我はハイド! 次世代を担うものなり!」
どこの戦国時代の武将なのか、目立つ場所に陣取り、名乗りを上げるハイド。エルデロイドであることや製作者(美洋も知らない)の名前などは出さないが目立つには十分だろう。
そして、悲しいことにハイドの狙いは当たる。一つ、二つとキャラクターの影がうごめきながらハイドに近づいていく。
何故なら、この動いているプログラムは敵を感知したら、自身の持つハンマーでたたくべく隠れつつも近づくように作られている。
だが、ハイドの索敵能力と、その俊敏性の前には彼らの動きなどすべて把握したうえで反撃する。
一体一体が個性的な動きや攻撃フォーム、接近を試みるがいずれも発見され、即座に叩き潰されるのであった。
『ハイド選手、一体どんなプログラミングをすればあそこまで正確な攻撃が可能なのか! このまま三十人抜きか……お!?』
そして二十八人目、二十九人目を倒した時だった。まっすぐに隠れもせずにハイドに近づいてくるキャラクターが一体。
「お? 君が次の相手かな!」
電子の世界、視界のピエロも拾うことはないハイドの声。だが、どういうわけか
「肯定。我、皇帝。汝、我の計画の礎となれ」
と、いう返事が聞こえ、
次の瞬間、ハイドですら視認できない速度で襲い掛かってきた。
〇〇〇
「うわあ! 俺のゼットマンがやられたああ!」
「く……見ているだけしかできないのはもどかしいです」
「あと先輩……そのネーミングはどうかと……」
一方美洋たちが控えている情報管制室。第一競技を抜けた他の人員がちょうどやられたところだった。そのせいで後ろがざわめくがハイドからの情報が隠れていればいいとのんびり寝ていた美洋の耳朶を打つ。
『美洋君! 変なのいた!』
よっぽど慌てていたのか、美洋に届いた情報はそれだけ。だが、珍しく慌てた様子のハイドの声に美洋は体を起こし、何事かと状況が映し出されているスクリーンに目をやる。
そこに映し出されてたのは……
『おおっと! なんとハイド選手の三十人抜きを止めた! キャラクターの名前は……ありました! なんと! これはすごい! 彼の名前は【皇帝】! かっこいい! そのままハイド選手を倒すのか! それともハイド選手は皇帝相手に打ち勝つのか!』
そこに映し出されていたのは目にもとまらぬハンマー捌きで互いに一進一退の激しい攻防が繰り広げられていた。
互いに目立つことなどお構いなしに互いが互いの体めがけてハンマーを振り下ろす。
時に取っ手の部分で受け止め、時に打撃で迎え撃つ。
周りのキャラクター達も二体のキャラクターが戦っている、その漁夫の利を得ようと集まってきたキャラクターも複数いるがそのいずれもがその攻防に巻き込まれる形でリタイヤとなっている。
「なんだ……ハイドと互角のプログラム……いや、まだハイドのほうが勝っているか……」
その様子をみながら、美洋は自身のパソコンを起動する。第一競技においてのキャラクター【皇帝】がどのような行動をしていたのかを見るためだ。
ネットを立ち上げ、先ほど中継されていた動画を再生する。すると
「なんだこれ……」
美洋は絶句する。今現在ハイドと同レベルの動きを可能にするプログラムを作れる人物がどれだけの好成績を出していたのか気になったのだ。
だが、美洋の予想は珍しく外れた。
第一競技:皇帝:337位
美洋からしてとてもいいとは言えない成績。なのだが、彼は混乱しなかった。むしろ新しい選択しを思いつく。
「この大会の目的……。そうか、そういうことか」
その時、スクリーンからベルの音が鳴り響き、生存者数が百人を切ったことを伝えた。
「あいつが」
〇〇〇
「近藤室長から連絡が来ました。美洋殿は現在第二競技を終了、第三競技に進んだとのことです。おっと、追伸です。ハイドは第一競技、第二競技ともに一位で通過しているそうです」
「はあ! はあ! うるさい! あんたも戦いなさいよ! というか私にその追伸伝える意味あった?!」
銃撃音が響き渡る廊下、その中で置いてある荷物の陰に隠れながらリーシャと美洋は会話する。ガガガガと銃が荷物を削る音が響く。
「いえ、美洋殿の状況を尋ねられたのはあなたですし……ハイドの動きはあなたも気になるでしょう? それにあの程度の重火器、あなたならこの物陰から出て五秒であのロボットのもとまでたどり着き破壊することができるでしょう」
「その間に撃たれるっつうの!」
ピノキオの頭をはたきながらリーシャは考える、今の状況を打開するべく動き始める。銃を持つロボットたちの位置を確認すると荷物を前に正拳突きの構えを取る。
「はあっ!」
息を吐き、一思いに荷物を殴りつける。リーシャによって殴られた荷物は吹き飛び、狙い通り銃を乱射していたロボットに直撃する。
「よし! 行くよ!」
「了解です。しかし本当にあたりだとは……」
「なに? 自信なかったの?」
通路を走り抜けながらリーシャとピノキオは話し合う。手をドリルにして襲い掛かってくるロボットは蹴り、殴り、投げ飛ばす。
「いえ、もちろんこの場所が今美洋殿が参加している怪しげな大会の大本であることは確信していましたが、それとは別件です」
「別件?」
「はい、美洋殿が彼の姉、水城真希奈様の遺産、ひいては姉に関係すると思われている【マッドティーパーティー】の情報を集めているのは知っていますか?」
「も、もちろん。あ、もしかして今回のも」
「はい、今回の電子競技大会……ネーミングもどうかと思いますがまあ、そこは置いておきましょう。とにかく、この大会、不明すぎる点が多いです。主催者、ゲームのプログラム、資金、どれもわかりません」
「ま、まあ確かに」
頷きながらリーシャは走り、ピノキオも後を追って通路を走り抜ける。
「しかも日本のトップにリークされた情報は日本の国家を揺るがすというほどの代物。私の情報端末にも登録されていませんが相当な情報であると思われます。そしてさらにゲームの発信元は日本。となると」
「それなりの資金をもち、電子の世界でトップレベルの実力を持ち、国も相手にできるほどの集団……」
「正解です、そして現在、日本でそんな行動をしているのは」
「【マッドティーパーティー】ってことね」
「そういうことです」
リーシャがピノキオの結論にたどりつく。同時に、通路も行き止まりとなり隔壁が現れる。真っ白なウサギの絵がこれでもかというほど大きく描かれており存在感を放っている。
「ピノキオ」
「自分でやってくださいよ。まったく……」
ぶつぶつと言いながらもピノキオは隔壁の前に立ち蹴り破る。
「さて、対面ですかね」
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