第18話 Go it separately

「で、近藤さん、リーシャはどちらに? それにピノキオは結どうなりましたか?」


 二つ目の協議が始まるまでのインターバル。スクリーンの前で待機しながら美洋は室長である近藤に尋ねる。

 リーシャはこの仕事に美洋を誘っておきながら彼が大会に関する説明を聞いている間に姿を消していたのであった。


「ああ。リーシャ君にはまた別件で動いてもらっているんだ。これと同時並行で対処しなきゃいけない問題が出てきてね」

「俺はそっちに行かなくてもいいんですか?」


 電子の事件であれば間違いなく自分の方が役に立てるという自負がある美洋。だが近藤は首を振る。


「いや、それは気にしないでいい。美洋君はこっちに集中してくれ。リーシャたちに任せたのは戦闘の可能性がある件だ」

「戦闘?」

「ああ、今美洋君にはゲームに参加してもらっているだろう?」

「はい」

「そこでだ。今回の運営がマッドティーパーティーが関わっている可能性があることは先ほど美洋君にも伝えたな」

「はあ」

「そこでだ、リーシャ君たちにはそちらのサーバー元を叩きに行ってもらっている。当然ピノキオもだ」


 ピノキオ、という言葉が近藤から紡がれる。


「ピノキオはもう直ったのですか? 随分と壊されていたとハイドから聞いていますが……」

「なんとかね。リーシャ君にしては随分と余裕がなかったみたいでボディのほうはボロボロだったがね」

「ぼろぼろ……」

「だがピノキオに内蔵されている記憶保管領域、その部分には打撃による損傷が届いていなかったからね。そして記憶保管領域さえ残っていればあとは簡単だ。ウイルスに汚染されたタイミングはわかっていた。となればその前後におけるシステム異常を修正し、ウイルスを除去。そして部品の修正さえしてしまえば何とかなる。まあ、もともと壊されるなんて想定してなかったんだけどね……」

「なるほど……」


 その時だった。スクリーンの方から音声が流れてくる。


『美洋君! そろそろ第二競技が始まるよ! まだプログラミングの準備しないの?』


 声の主はハイド。とても上機嫌であり、この大会を楽しんでいるのがよくわかる。


 スクリーンに意識を向けなおした美洋に近藤が耳打ちする。


「ハイド君は楽しんでいるみたいだ。このまま楽しんでもらっても構わん。だが美洋君これだけは覚えておいてくれたまえ」

「……なんですか」


 ハイドに気取られないように聞き返す美洋。


「今回の件、裏にマッドティーパーティーがいると考え、私は動いている。優勝者に与えられるといわれている景品もろくなものではないだろう。なんとしても確保してもらいたい」

「……わかってますよ。俺に依頼した時点で察してます」


〇〇〇


『レディース! エンドゥ! ジェントルメーン! ただいまより! 第二競技! 【ヒット・アンド・アウェイ】始まるぜ!!』


 今度、スクリーンに映されたのは円形のスタジアム。色とりどりの髪色のキャラクター達がまばらに並ぶ。

 そしてその中央に真っ黒なシルエットのピエロがうやうやしく礼をあする。


 ハイドが原寸大の大きさであるとすると半径は二キロメートルほどだろう。そのなかで周りを見渡す各々のキャラクター達。


【ルールは先ほど説明した通り! というわけで諸君にはまずこれだ!】


 真っ黒なピエロが指を鳴らす。ぱちんと響く音とともに各キャラクター達の目の前が光り、キャラクター等身大のハンマーが現れる。


【では第二競技! スタート!】


〇〇〇


「いまごろ美洋さん何してるかな」

「気になるのですか? マスター」


 日本のとある県。人通りの少ない国道を一組の男女が歩いていた。


「だ、だってぇ。せっかく美洋さんに会えたのに私たちはすぐに別任務だよ? 不安になっちゃうじゃん」

「確かに美洋殿に近藤室長が説明している最中に私たちは出動命令が下りましたからね。ところでそろそろ目的の位置が見えるはずです」


 二車線の道路を歩いているのはリーシャ、そして彼女の相棒であるピノキオだ。


「はーい。わかったよ~。それにしてもピノキオ、動けるようになってよかったね」

「ええ、おかげさまで。まったく、確かに動力部分を破壊してしまえば動けなくなりますがそれをほんとに実行するとは思いませんでしたよ」

「それをいうなら国の最新鋭のロボットのくせに敵の術中にまんまとはまった上に私だけじゃなくて美洋さんやハイドちゃんまで襲いだす野蛮なロボットとは思わなかったよ」


 嫌味に嫌味で返すリーシャであった。

 彼女たちの目的は今現在美洋たちが参加している電子世界競技大会。その発信源と思われる場所だ。


「……コホン。それはそれとしまして。あれですね」


 形勢が悪くなったことを察したのかピノキオはわざとらしく咳払いをすると遠めに見えた建物を指さす。


「あれなの?」


 見えたのはドーム状の形をした巨大な建物。その周りは高い塀でおおわれておりざっと十メートルはあるだろう。


「はい、現在進行形であそこから巨大な電波と熱反応が感知できます。電力の供給源はおそらく近くの水力発電からくすねているのでしょう」

「なるほどね」


 状況の確認をしながら二人はその建物に近づいていく。


「あっれぇ? シャッター降りてるじゃん。ピノキオ、やっちゃってくれる?」

「シャッターを蹴破る位あなたには朝飯前でしょうに」


 呆れたようにピノキオはため息をつきシャッターの取っ手に手をかけて、一気に引き上げる。


「はい、開きましたからさっさと入ってください」


 ピノキオがシャッターを引き上げその隙間にリーシャは潜り込む。



 が、


「はいは~い。ありがと……ね……」

「マスター? どうかされまし……」


 先に中に入ったリーシャのお礼の言葉が知りずボミに消えていく。


 そして何かあったのかといぶかしみ、部屋に入ったピノキオもしりすぼみに言葉が消える。


 二人の目の前に広がる光景は長く続く廊下。それに至る所に見える横に続く扉。内部の構造が入り組んでいるであろうことがよういに想像できる。


 そして


「どうやら大当たりみたいね……」

「そのようですね……」


 夥しい数の、そしてどこかでみたことがあるようなロボット群であった。右に左に、縦横無尽に荷物を運んでいる。


 二人がそのおロボットを見たのはつい最近、マッドハッターに誘導されショッピングモールで動いていたロボットと同じ型だ。


 違うのはその腕が銃の形をしておらずアームとなっていることくらい。殺傷用ではなく荷物運搬用なのだろう。


 そんなロボットたちのうち、一体が二人をとらえ怪しく光る。


 そしてそれに続いて他のロボットたちも動きを止め、侵入してきた二人に視線を飛ばす。


「ピノキオ……」

「わかってます、マスター」


 どこからともなくウィーーン、という音が響いてくる。その数は次々に増していき、リーシャとピノキオの目も音源を視界にとらえる。


 荷物を放棄し、アーム型の腕を高速回転させ、まるでドリルのように回転させていた。


「乗り込むよ!」

「了解です! マスター!」

 

〇〇〇


「ふむむむむ、侵入者は二人……男に女……。だえどこれはどっちも美洋君ではないはずだ」


 手元にある写真とリーシャたち江尾見比べながら白衣の男はうなる。


「えぇと。侵入者が美洋君でない場合の対処法はと」


 そして次にタブレットを指でスクロールして目的の文章を探す。なにやらメールらしく事細かに「この場合はこう」「〇〇が来たら××を実行」などと書かれている。


「え~と、あったあった。さすがは我らが女王ジキル様。誰が来ても対応してくれるようにしてくれているなんてなんとありがたいことか」


 指を組み、祈りを捧げるように黙祷したのち、男は目を見開く。


「よぉし! 吾輩の製造したロボット群! かかれぇ!」

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