早期

「中沢くーん!中沢くーん!生きてますかー?」

 ところは再び資料室。


 中沢が寝言をぼそぼそといった。

「世界の……全ての……信仰心が、私に……集まっているぅ⤴︎」


 馬場と竹下と長沢が中沢をこの時から軽蔑した。


「彼なりの世界に入り込んでいますね……」

「そっとしておいてあげまsh……」


 だーんという音と共に中沢がスタンドアップした。

 中沢の座っていた椅子が後ろに飛んだお陰で長沢の脛は重傷を負った。


「いっっってーーー」

「おっと、お前、大丈夫か?

 まあ警察官、脛をちょっとぶつけたくらいで泣くな。」

「いやあ、よく寝ました。おはようございます。」

「うううう……いったーーー」

「君、登庁時間は過ぎているのですからそのくらいの時間にはせめて起きてほしいものです。」

「ちょっ、お前、涙出ているぞ。出血してないんだから大丈夫だって。」

「あれ?服がコーヒーの匂いがするな……」

「中沢くん、起床するときも周りを見るようにしましょう。」

「そうです!私、長沢大介は警察官として模範的な……忍耐をっ……」

「カオスとはまさにこのことですねぇ。」

「ああ!」

 中沢が叫ぶとしずけさを部屋は取り戻した。


「…………クリーニング屋さんに行ってきます。」

「職務時間中ですよ。」

 中沢は窘めた。


「しっかりとした服があってこその、職務です。

 そもそも私たち、捜査権がないとかなんとか言われるのがオチでしょ。」

「馬場さんが許可を出してくださいましたよ。」

 竹下がそういうと中沢は驚いた。


「これまた、なぜ?」

「ちょっとな………いろいろ、考えて。」

 馬場は言葉を濁した。


「では、捜査始めましょう。

 中沢くん、行きますよ。」

「あ、ちょっと…………」

 二人が出て行くと馬場と長沢が残された。


「馬場さん、本当はなぜ捜査権を与えたのですか?」

「いやまあ、ちょっとな………」

「教えてくださいよ。何年間相方やってきたと思ってるんですか?

 僕が調べたらすぐわかっちゃいますよ。」

「調べてもお前はわからないだろ」

「確かにそうですね。僕、事件解決したことなんて殆どありませんでした。」

 二人は少し笑ったものの、また静まりかえった。


「………俺はもう、年だから。な………?」

「馬場さん……?」


「気にするな。おっしゃ、俺たちも行こうじゃねえか。」

 二人は竹下と中沢を追いかけた。

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