カオス・ヨリンゲル


「……なんか全体的に黒い服着てるけど本当にヨリンゲルなのかい?」


 彼もまたこの想区に存在するカオスヒーローの一人だろうか?

 それにしてはカオステラーの様な雰囲気を放っているんだけど……。


「あぁ、恐らくそれは間違いないだろう……。だが……」


 カオス・ブドゥール姫はやや表情を曇らせる。

 先ほどの話ではヨリンゲルがおかしくなったと言っていたが、この状態が彼にとっては普通のはずなんだけれど……。


「……ん?君達は見ない顔だね?どこから来たんだい?いや、それよりも君達もラァァヴを信仰しないかい?」

「え……。いや、ちょっとそれは遠慮しておこうかな?」


 ヨリンゲル絡みの問題は何かとこじれ易いからね……。

 ……ん?そのこじれる要因のヨリンデが居ないのはなぜだろう?

 そんな風に思っていると不意に嫌な感じの気が放たれる。

 僕がそれに気が付き目を向けると、負のオーラを放っていたのは先程までにこやかに僕と話していたヨリンゲルだった。


「……何故ラァァヴを信仰しないんだい?ラァァヴはとても素晴らしい物なんだよ?神聖で汚されること無く、誰にとっても不変の物なんだ。なのに君は何故ラァァヴを信仰しないんだい?仕方ない……」

「なっ!?」


 いきなり早口で呟きだしたかと思うとヨリンゲルは負のオーラを撒き散らすと同時にヴィランを出現させ始める。


「君達もラァァヴの虜にしてあげよう!!」

 

(やっぱり彼はカオスヒーローでは無くカオステラーの方だったか!!)


 最初に感じた違和感はやはり当たっていたらしい。

 とは言えこの想区自体が特異な存在であり、彼がカオスヒーローである可能性は十分にあり得たかも知れなかったのだけれど……


「それよりも彼を止めなければ……」

「わらわも加勢しよう。自分の城の周りで好き勝手にされるのは癪に障るのでな」

「私もやりますよ!?あの人のせいで私が迷惑するんですから!!」

「時計ウサギ……。貴方本当にどこでも大変ね」


 どうやらカオス・ブドゥール姫とカオス・時計ウサギが手伝ってくれるようだ。

 なんだかアリスがカオス・時計ウサギに憐れみの眼を向けているのが気になるけど……。


「仕方ない。私達はそこら辺のを相手しておくよ。ほら、金坊もやるんだよ」

「あぁ!?なんで俺が雑魚どもを相手しなきゃなんねぇんだよ!!」

「はいはい、そう言うのは後で」


 カオス・金太郎と酒吞童子は二人で大量のヴィランを相手するようだ。

 カオス・金太郎は不満なようだけど。


「フハハハ!!ラァァァァァァァァァヴ!!」


 カオス・ヨリンゲルは杖を構え、魔法を放ってくる。

 全員魔法で相殺したり、盾で防いだり、剣脊で弾き飛ばしたりでダメージは無いが、それでも今の一撃でカオス・ヨリンゲルがどれほど強い力を持っているのかがわかる。

 さらにカオス・ヨリンゲルの近くにはメガ・ヴィランまで現れ始めた。


「おっ!!あいつらならやりがいありそうだな!!」

「はぁ……。あのデカいのは金坊に任せて大丈夫だ。アンタたちはあの妙な王様を止めてきな」

「わかった」


 メガ・ヴィランを見てカオス・金太郎は一気に突っ込んでいった。

 一気に間合いを詰めての一振りでメガ・ヴィランを吹き飛ばす。その隙に僕達はカオス・ヨリンゲルへと距離を詰めていく。


「ラァァァァァァヴ!!」

「くっ……」


 カオス・ヨリンゲルは身軽に飛び回りながら僕達の攻撃を躱し、その合間に魔法を放ってくる。

 中々見事な身のこなしで、一向に捕まえられそうにない。


「アリス、さっきの魔法はまた使えるかい?」

「無茶言わないで!?あれはそもそもこの状態じゃ使える様な物じゃないのよ!?」

「ごめん、冗談だよ」


 さて、困ったな。どうしよう。

 さっきから僕のイマジンにも協力して貰っているのだけど、それでも上手くいかない様だ。

 広範囲で動きを制限出来る様な技は、僕も彼らも持ち併せてはいない。

 そもそも僕に至っては近付かなければ届かない程、拘束魔法の範囲は狭い。

 

「仕方が無い、わらわが動きを制限する」

「え?あぁ、お願いするよ」


 そう言うとカオス・ブドゥール姫は杖を掲げカオス・ヨリンゲルに狙いを定める。

 するとヨリンゲルの周囲に巨大なリングが浮かび上がる。


「何だい?こんなものでは僕のラァァヴは止められ……」

「わらわの前に跪け!!魔人の邪輪ジンニーズ・リング!!」

「んんっ!?」


 リングから放たれる強力な魔力の流れによって、カオス・ヨリンゲルは身動きが取れずにリングの中央まで引きずりこまれていく。


「こ、こんなもの……ラァァヴの力で……」

「どっせいやぁぁあああああ!!時計落としクロックフォール!!」

「ぐはぁ!?」


 カオス・ヨリンゲルの必死の抵抗も虚しく、リングの上空からカオス・時計ウサギが巨大な時計の盾と共に落下してくる。

 それに押しつぶされる形で、カオス・ヨリンゲルも落下した。


「ぐぐぐ……」

「さぁ、観念なさい!!」


 盾をどけようとしているが、上手く体が動かない様だ。そのまま捕らえられると思ったが、


「ラァァァァァァヴ!!」

「キャッ!?」


 どうやら一気に魔力を放ち、爆発を起こして盾から抜け出してしまった。


「……。なるほど、今の僕では君達にラァァヴを強いる事は出来ない様だね……。でも僕は諦めないさ!!君達がラァァヴの虜となるまで、何度でも君達の前に現れよう!!それでは、また会おう!!」

「待ってくれ!!」


 僕は、抜け出したカオス・ヨリンゲルを逃がすまいとイマジンと共に迫る。

 だがカオス・ヨリンゲルは僕達が触れるよりも早くどこかに消えてしまった。

 彼は自分の考えを人に強制するような性格では無かったはずなのに、一体どうしてしまったんだ……。


「あ?お前らあいつ逃がしちまったのか?」

「ハハハ!!まんまとしてやられた様子だねぇ?」


 どうやらカオス・金太郎と酒吞童子はヴィランを倒し終わったようだ。

 カオス・ヨリンゲルが居なくなった影響か、新しくヴィランが発生してくる様子はない。


「不覚だったな……。まさかあの状態から逃げられるとは」

「あー、もう!!あの爆発でお尻打っちゃったじゃないですか!!」


 険しい顔をするカオス・ブドゥール姫と怒るカオス・時計ウサギ。


「どうする?すぐにでも追った方が良いかしら?」

「そうしたいところだけど……。どこに行ったのか見当もつかないしな……」

「わらわもあの者が何処へ向かったかは分からぬな」


 カオス・ヨリンゲルが何処へ向かったのか分からずに途方に暮れる僕達。

 

ザッ、ザッ、ザッ!!


 ……何だろう?城の前の砂漠を誰かが走ってきているのだろうか?

 だんだんとその足音が近付いてくる。


「あ、あのっ!!さっきヨリンゲルがここに来ませんでしたか!?」


 僕達が声の聞こえた方に目を向けると、その声の持ち主は先程まで僕達を襲っていたカオス・ヨリンゲルの恋人、ヨリンデだった。

 彼女は大体の想区で所謂ヤンデレと言う性格らしいのだが、どうもこのヨリンデからはそう言う雰囲気は感じ取れない。

 僕達は彼女にさっきまでの経緯を説明する。


「……ヨリンデは、彼が何故ああなってしまったのか心当たりはあるかい?」

「いえ……。元々ヨリンゲルはそんなにラァァヴを押し付けるような事はしなかったわ」

「そうか……」


 彼女もヨリンゲルがカオステラー化した原因は分からないらしい。


「とりあえずわらわの城に入ると良い。ここで立ち話をするよりかは有意義な話し合いに出来るだろう」

「そうか。じゃあお言葉に甘えて。ヨリンデも来てくれるかい?」

「あ、はい」


 結局僕達はカオス・ヨリンゲルの居場所は分からないまま、カオス・ブドゥール姫の好意で一度彼女の城へ入ることになった。

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