語られぬ者達の行方

痕跡を追って

 「……はぁ、この想区にも手掛かりは無しか。

 そもそもあの人達は何でこうも唐突に居なくなったりするのかなぁ。

 まぁ嘆いていても仕方ないか……。


 ん?昨日の話の続きが気になる?

 あぁ、それはまた今度話すよ。……他愛もない昔話なんだけどね。

 さぁ、次の想区に向かおうか……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シャルル・ペロー。

 今現在、僕たちが接触出来た唯一の創造主の名だ。


 かつての災厄の魔女との戦いの後、グリムノーツのメンバーと調律の巫女一行の行方が分からなくなった。

 僕は彼からそう聞いている。

 と言っても僕は元々調律の巫女達の話はグリムノーツの彼らからしか聞いた事は無い。


 何でもその中にはワイルドの持ち主も居たらしい。

 災厄の魔女、モリガンも元々はワイルドだったらしいから、もしかしたら関係があるのかもしれない。


 そう思った僕は、グリムノーツのメンバーと調律の巫女一行の痕跡を探す事にした。

 ……のだが。


「うーん……。どうにも手掛かりなしと言うか、そもそも僕と彼らとの縁が希薄だからか全くと言って良いほど関わりのある想区に着かないな」


「ねぇ、そろそろ次の想区に着かない?」

「あぁ、もう少しだとは思うんだけど……」


 霧はそろそろ晴れそうなのだ。

 次の想区では何か手掛かりをつかめると良いんだけど……。


「お、着いた……ってあれ?ここは……」


 僕達がたどり着いた場所は城の様な物が二つほど見える場所。

 それぞれが赤と白に塗られているから、恐らく「鏡の国のアリス」の想区。

 もしくはそれに近しい物語の想区だと思う。


「それにしても、僕達はこれで何回ぐらい『アリス』の想区に着いたんだろう……。

 レイナ・フィーマンはアリスに憧れていたっていう話を耳にはしたけど……」

「ちょ、ちょっと!私には縁が無い想区かも知れないでしょ!?レディをじろじろ見るなんて失礼ね!?」

「あぁ、ごめんごめん」


 一応口では謝るが内心では今回も彼女……アリスがらみの想区なのでは?と言う疑問が拭えない。

 調律の巫女達や創造主達に関係する想区には中々たどり着けていない。

 せめてあの兄弟に関係するような想区であれば何かあるかもしれないが……


「……ん?あれは?」


 誰かが向こうから走ってくる。

 慌ただしい様子で、焦っているようにも見えるが……。


「わぁぁぁ!!何で女王になってもこんなに走らなきゃならないんですかぁあ!!」

「んん?あれは時計ウサギか?それにしては黒い色の服を着ているけど……」

「あ、そこどいて下さい!!急いでるんです!!」

 

 一歩ずれた僕たちの前を猛スピードで時計ウサギが通り過ぎていく。

 とても慌てた様子だったし、何かあったのだろうか?


「追ってみる?」

「そうだね、行こうか」


 僕たちは事情を知るために走り去ってしまった時計ウサギを追う事にした。


 ◇


「何だお前ら!この城になんか用でもあんのかぁ!?」


 時計ウサギを追いかけて赤の城まで着いた僕たちは奇妙な光景を目の当たりにしていた。


「……あれ、何で金太郎がここに?それに格好まで大分違うし……」

「あ?お前ら何で俺の事知ってんだ?お前らの顔に見覚えはねぇが……」


 てっきり『アリス』の想区かと思っていたのだけれど、何故王城の門番に金太郎が居るのだろうか?

 そもそもここへ来る道のりも途中から砂漠に代わっていたし……


「……とすると、ここは一体どんな想区なんだ?」

「さっきから何ブツブツ言ってやがんだ?怪しいな……さてはお前ら悪党か!?」

「え!?いや、そう言う訳じゃ……」

「問答無用!!かかって来い、このドサンピンがぁ!!」

「人の話を聞いてくれないかなぁ!?ちょっ、危ない!!」


 何やら僕がブツブツ呟いていたせいで勘違いされてしまったらしい。

 向こうはもう刀を抜いてこちら目掛けて構えを取っている。

 多少手荒になるが、いったん落ち着いて貰わなければ……


「いやぁ、想区に入って最初にイマジンで応戦することになるのがヒーローだとは思いもよらなかったな……」

「もう、はっきりと否定しないからそうなるのよ」

「ごめん。アリスは金太郎の足止めをお願い出来るかな?」

「わかったわ」


 僕は持っていた一冊の本の頁を開く。そこには何も書かれていない。

 だが、書かれていなくとも確かにはそこに存在するのだ。


 (僕が語りし物語の偶像。物語の中の英雄ヒーロー達。君たちの力、少しだけ貸してくれ!!)


 僕の思いに呼応して、二人のイマジンが現れる。

 一人は蒼髪の少年。もう一人は金髪の青年。


 イマジン。それは創造主の心を写す鏡、創造主の意思の結晶。

 創造主の力が強ければ強いほど、彼らはまるで意思を持っているかのように動く。

 彼らはいつも僕を助けてくれる、心強い英雄ヒーローなのだ。


「何だぁ!?いきなり人が現れるだと……。さてはお前妖怪の類だな!!」

「だーかーらー!!違うんだけどなぁ!?」

「嘘つけ!!人間がどこからともなく人を呼びだして操る訳ねぇだろうが!!」

「な……、操ってるとは心外だなぁ!?僕は別に二人を操ってるわけじゃ……」

「あぁもう!!良いから早く倒して正気に戻すの!!今言い争ってる暇は無いの!!そこ分かってるの!?」

「ぐぬぬ……、行くよ、二人とも!!」

 

 イマジン達は力強く頷く。

 彼らは互いに連携を取って攻撃を躱しながら金太郎の動きを鈍らせていく。

  

「チッ!!金色の奴が早ぇし、蒼色のが鬱陶しいな……」


 基本的に僕のイマジンは前衛一人と後衛が一人のペアになっている。

 二人が隙を作ってくれるのを僕が魔法で抑える作戦だ。

 ……我ながら情けない作戦ではあるんだけれども……。


「チィッ……!!」


 刀と剣の鍔迫り合いで金太郎の方が押され、体制が崩れている。

 今がチャンス……!!


「そこだ!!」

「クッ……、調子に乗るなぁぁああああああああああ!!」


 不味いな、今のではパワーが足りなかったみたいだ。

 お陰で取り逃がし、距離を取られてしまった。


「この……クソがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!」

「!?」


 遠距離からの雷を纏った超速度の突進。

 あまりのパワーにイマジン達は吹き飛ばされてしまう。どうやら狙いは僕のようだ。


「……やっぱり凄いな。これほどの力を持っているなんて!!」


 僕一人であったなら対処は不可能だったが……


「……!?グッ、いき……なり…体が……重く……ッッ!!」

「ほら!!今がチャンスでしょ!?この魔法は長く維持できないわ……!!」

「あぁ!!」


 間一髪のところでアリスの魔法が金太郎の動きを止めた。その隙に僕はイマジンの力も借りて金太郎を拘束する。


 ……でもこれで話を聞いてくれる様になるかな……。


「クソ!!とっとと離しやがれぇぇぇぇぇえええええ!!」

「あぁ、やっぱこうなるか……」


 動きを拘束してもどうやら聞く耳は持ち合わせていなさそうだ。

 むしろ拘束を振りほどこうと暴れている分、厄介かもしれない。


「うーん……困ったな、どうし……」

「はぁっ!!」

「ぐぇ!?」


 ……何か今、金太郎が変な声出したんだけど?


「……アリス、今何をしたんだい?」

「ちょっとだけ気絶してもらっただけよ?」


 爽やかな笑顔でサラッと言ってのけるアリス。

 気絶させるって、どれだけ強く殴ったんだろうか……。

 とりあえずもう拘束は外して良いかな。この状態じゃ話のしようも無いし……。


「む、外が騒がしいと思ったが……わらわの城に何か用か?」

「おやおや、金坊がのされちまってるじゃないか」


 ……。ブドゥール姫に酒吞童子か、これ本当に何の想区なの?

 でも好都合かもしれない。この二人なら話は聞いてくれそうだ。

 そう思った僕は二人に事の成り行きを説明するのだった……


 ◇


「成程ねぇ。まぁ、金坊は少しアレな所があるからねぇ……」

「す、すまねぇ……俺の早とちりだった」

「フム……。調律の巫女達の情報を探しているのか。確かわらわの城にその様な者達の名が記された書物があった気はするが……」


 何やら手ごたえはありそうだ。

 どうやらこの想区はカオスヒーローの想区らしく、かつてレイナ・フィーマン達が訪れた事がある想区のようだ。

 僕が違和感を感じた時計ウサギ、金太郎、それと目の前のブドゥール姫ともう一人のカオスヒーローがこの想区に住んでいるらしい。


「その、彼らに関する手掛かりを見せて頂く事は出来ますか?」

「それが今は少しばかり面倒なことになってな……。それを知らせる為に先ほどカオス・時計ウサギがわざわざ此方まで駆けて来た訳だが……」

「そ……そうなんですよぉ。実はですね、私たちの他に一人王様が居るんですけど、その人が急におかしくなってしまって……。お陰で私の城に住んでる人たちまでおかしくなって私が来る破目になったんですよぉ!!」


 この想区でも大変なんだな、時計ウサギ……。

 それにしてもその王様と言うのは一体誰なんだろう?


「フフフ、僕を呼ぶ声が聞こえる……」

「え!?」

「な、貴様どこから出て来た!!」


 どこからともなく僕らのいる場所に現れたのは……


「僕は愛の伝道者!!ヨリンゲルッ!!君たちにも愛の素晴らしさをじっくりと語ろうじゃないか!!」

「……時計ウサギ、君が言っていた王様って彼の事かい?」

「そうです!!」


 僕が指差す方向に居たのは、これまた黒い服を身に纏ったヨリンゲルだった。


「……何やら面倒くさいことになりそうね」

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