第1話 黒き森の魔女

「「おんぎゃあ! おんぎゃあ!」」


瘴気が漂う黒き森の中心でボロボロの布に包まれた赤ん坊が2人、放置されていた。

鳴き声に魅かれたのか、赤ん坊を取り囲むように次々と集まり始めた餓えた狼達。

だが。 暫くして、狼達は何かに恐れをなした様に森の奥深くへと消えていった。


「全く。 これで何度目になるのか…赤ん坊をこんな森の中で捨てるとはな。 いったい命を何だと思っているんだ」


全身真っ黒のローブに身を包んだ人物は深いため息をついた後、何かを唱え始めた。


「許せ、罪なき子らよ。 私にはこれ位の事しかお前達にしてやることはできない。 せめて痛みを感じる事無く、苦痛を感じる事無く―――安らかな”死”を。 ソウル・デス…」


「「…………」」


ゆっくりと瞳を閉じた赤ん坊はそのまま息を引き取った。

その後、ローブの人物は赤ん坊を抱き抱え一言。


「次はこんな世界ではなく…もっと平和な世界で生きるといい。 ゆっくりおやすみ」


―――――――――――――――――――――――


それから数時間。







「お、おい? どうなっている?」


1人の赤ん坊を土に埋めた私は、目の前の光景に驚きを隠せないでいた。


「みゃ? きゃははは!!」


「ん!? ん!?」


思わず二度見を決め込んだ。

そいつは私の顔を見るや否や、何食わぬ顔で微笑んだのだ。

駄目だ。 今まで無かった現象のせいか、流石の私も頭が混乱している。


ありえない。 この私がまさか”魔法”を掛け忘れていたというのか?

否。 断じて否。

そんな初歩的な失敗を私がする筈ない。

が、しかしだ。 長旅のせいで疲労困憊のあまり、たまたま失敗したのかのもしれない。


そうと決まればもう一度”ソウル・デス”をこいつに掛けて。


「ソウル・デス」


よし成功だ。

瞳を閉じて安らかな――――


「みゃ? きゃはは!」


おい、どうなっている。



――――――――――――――――――――――――――


帰宅した私は重い腰を下ろして、深いため息をついた。


「この…”アルメイア・ウイッチクラフト”が赤ん坊1人に後れを取るなど。 ありえん…おまえ、一体何者だ?」


そう告げた私はテーブルの上に置いた赤ん坊の頬を指で小突いた。


「きゃきゃきゃ!」


「ふっ…そんな事をお前に言っても、解らないか。 しかし驚いた…魔法を全て受け付けないとはな」


赤ん坊の供養を済ませた私は、この赤ん坊に死を与える魔法を何度も掛けた。

流石の私も”攻撃魔法”を赤ん坊に向けて放つ日がこようとは思いもしなかった。

が、結果はこの通り――――謎の見えない壁の様な物に遮られ、私の魔法は相殺されてしまったのだ。


傷一つ無く綺麗な状態、まるでこの赤ん坊自身が何か強力な力に守られているような、そんな気がした。

と、そんな悠長に考え事をしている場合じゃない。


「まさか、家に連れ帰ってしまうとは…私も何をしているんだ」


何を血迷ったのか、私はこの赤ん坊を自宅へと連れて帰ってしまった。

こうして、この”黒き森”に赤ん坊を捨て置く事は珍しく無い事だ。

魔力を持たない子供を平気でこの森へ捨てる――――それが普通で当たり前の事。

私はその罪のない者達を哀れみ、せめてもの手向けに”死”を与える。


そうしてきた―――いや、これからもそうする―――それが私―――私なのだが。

いくつも気になる点が多すぎるせいで、こいつの事が気になって仕方ない。


何故魔力を有していないお前がこの森の瘴気に侵されていない?

魔法が効かない理由はなんだ?

おまけに”私と同じ黒い髪”…お前も私と同じ”呪われた存在”なのか?


「ふっ…そんな事を聞いた所で、何も答えてはくれない―――いや、答えられない…か。 ふふっ」


ん?


「!?」


ほんの数秒前の事を思い出し、私は目を見開いた。

私が…笑った?

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