第21話 復讐の決意

食事を済ませ、僕らは秘密基地に向かうことにした。

玄関を開け、団地を出るときに空模様を確認する

朝に比べて、天候は晴れから、少し曇りが見える。


しかし、夏の暑さは相変わらずで、少しムシムシとした感じを肌で感じ取っていた。北海道にしては珍しくムシムシした感じの暑さだった。


僕と薫は二人で秘密基地に向かうことになった。

莉乃は疲労もあり、友達との約束があると言う理由で今日は来れない様だ。


莉乃は「いってらっしゃい」と笑顔で手を振る。

僕らは「いってきます」とリュックを背負い扉から外に出た。


団地下の公園まで行くと薫は

「今日は蒸し暑いね~」

と珍しくタオルで顔を拭いていた。


僕も蒸し暑さから汗が顔から汗が滴り落ちる。その顔をタオルで拭く

「そ、そうだね。」

僕は汗を見られるのが恥ずかしい気持ちになっていた。


歩いて1時間くらいの距離の秘密基地、僕らは色々会話をしながら歩いて行った。

これからの秘密基地の事、糖尿病について、薫の両親についてなど、話は弾んでいった。


歩いている間も、汗は止まらず、タオルで顔を拭きながら向かっている。

すると、昨日、愛実と会った道に辿り着く、遠くから確認して、すぐ愛実の存在に僕らは気が付いた。


薫は

「あれ?あの子、またあそこにいる」


「うん、どうしたんだろ?」


そして、僕らは彼女に近づいた。


表情をチラッとみると、すごく暗く何か悩んでいるように見えた。


薫は再び、そんな彼女に声をかけた。


「佐々木さん?」


「・・・」


愛実はこちらをチラッ見るも、返答はなかった。


それを見て異変を感じ取ったのか、薫は不機嫌そうな顔で


「ったく、無視ですか・・・」と言う


すると愛実はゆっくりと口を開いた。

ぶるぶると震え、僕らを睨みつけた

明らかに昨日よりも機嫌が悪そうで、僕らの元に彼女は歩み寄る


「あんた達には関係ないって!言ってるじゃない!何?文句あるの!?やる?」


愛実は明らかに興奮して、けんか腰になっていた。

さすがの僕もこの愛実の行動には恐怖を覚えた。


そして、僕はやはり、緊張し心臓がバクバクしている。


そんなことお構いなしに、薫はけんか腰の彼女を相手にムッとした表情を浮かべていた。


「やるって?」

静かにそう答えると、薫も強気な姿勢は崩さず、愛実を睨みつけた。


すると、愛実は負けずと薫に歩み寄り、今にでも殴り合いの喧嘩をするんじゃないかと思うほど、迫力があった。


薫と愛実は睨み続けている。それを見て僕は『怖い』と感じていた。


しばらく睨み合いが続いた、まるで、目で会話しているそういう風に見えた。

僕はタジタジとしていて、それを見守ることしか出来なかった。


すると、ようやく薫が口を開く

「あんたに負けるほど軟じゃないよ?」

明らかに喧嘩まで発展する発言に僕はハラハラしていた。


「ふーん。あたしにそういう口聞いたこと後悔させてあげるよ」

そういうと、薫を思いっきり握りこぶしで殴り掛かってきた。


しかし、薫はそんなパンチなど、いとも容易く左手で受け止める


「これ、パンチのつもり?」とニコっと笑う


(は、始まった・・・やばい、何とかしなきゃ・・・)


薫は、右手を広げ振りかぶる。

(やばい、思いっきりビンタするつもりだ。)


僕は勇気を出して、愛実を庇うように飛び込んだ。






バチーン






僕は思いっきり彼女のビンタを受ける。かなり、衝撃が走り、ビンタされた勢いで、メガネが吹っ飛んだ。


それを見て、薫も愛実も驚いていた。


「ちょっと!なんでライトが間に入るのよ!」


薫は言う、愛実は呆然とした様子で立ち竦む


僕は静かに顔を上げ


「ダメだよ・・・」


と呟いた。そして、僕は薫を睨みつけた。


愛実はそんな僕を見て心配そうな顔をする


僕は薫の目を見て、真剣な表情で訴えるように見た。


彼女はそれを見て察したのか、素直に謝ってきた。

「ご、ごめん、私、挑発に乗ってた・・・」


その言葉を聞いて僕は安心した。


「ううん」


僕は笑顔でそう言うと、薫は心配そうにすりすりと頬に手を触れてきた。


その光景が、不思議だったのか愛実は

「あんた達って付き合ってるの?」と問う


僕らは顔を真っ赤にして

『つ、付き合ってないから!』と大声で言う


「ぷっ、クックックッ・・・二人で息合わせて、なにそれ、面白い」


愛実は腹抱えて、笑いを殺すように笑っていた。


薫はその姿を見て不思議に思ったらしく、彼女に問いかけた。

「どうして、そんなに押し殺した笑い方するの?」


それに対して愛実は、下を向き悲しそうな表情を浮かべ、しばらく声を発せないようだった。


彼女はその表情を見て、何かを察したようで、愛実の左腕に捕まった。

その行動に愛実は驚き、顔を上げる。


「今日は逃がさないよ。佐々木さん。じっくり話しようか!」


そういうと薫は強引にひっぱるように3人で秘密基地に足を向けた。

「ちょっと!痛いって!何するの!ってか、力強い!」


そうして、僕らは道を歩く、半ば強引に愛実も歩かざる得ない格好になる

彼女は慌てながら

「だめ!あなた!あいつらに目を付けられるよ!私に関わらない方がいいよ!」


「あいつら?」薫は問う


すると彼女は掴んでいる手を放した。


愛実は小声になり、呟くように話した。




「あのね・・・私、あいつらの奴隷みたいなものなの・・・」





その発言を聞き、僕は驚き問う


「えっ・・・奴隷・・・?」


「そう・・・奴隷だよ・・・」


それを聞いた薫は路地裏へと連れ出した。

ただよらぬ予感を感じ取ったのだと思う。


薫は真顔で、愛実の両肩を掴み目を見つめ

「佐々木さん?あいつらって誰?何されたの?奴隷ってどういうこと?」






「い、伊藤・・・達也・・・」







そういうと薫の表情が蒼白する。


これまで見たことがない表情だった。

次第に愛実の肩を掴む手に力が入っていたみたいで、彼女は痛がった。


「い、痛いって!」


肩にかかった薫の手を振り払う。

「伊藤達也って・・・それ・・・本当なの?」


薫の表情は絶望した顔をしていた。

僕はそれを見て


「誰?伊藤達也って・・・」と問う


薫はしばらく沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「涼介君の弟だよ・・・そして、私を悪戯しようとした一人・・・」


その言葉を発した瞬間、僕は思い出した。


小5の頃の喧嘩で、貴志と佐藤、そしてもう一人、当時3人のうちの一人、そいつだけは僕を殴らず、何も言わず、不気味に無表情でその光景を目にしていた人が一人いたことを


「あの時いた3人組・・・貴志と佐藤、そして無表情でいたやつだよね・・・」


僕は問う


薫は静かに頷く、そして、少し興奮気味に彼女は愛実に聞いた。


「なんで!?あの人、少年院に行ったんじゃなかったの!?」


情状酌量じょうじょうしゃくりょうって言ってたかな・・・それで、予定より早く出てこれたみたい。つい、この間出てきたらしいよ・・・」


薫は恐怖で顔が歪み自分の両肩を抱え、震え出しその場に座りこんでしまった。

「怖い・・・やだ・・・怖いよ・・・」


彼女はどうやらトラウマが呼び出されたようで震え出していた。


僕はそんな薫を見て

「薫ちゃん?」と声を掛ける


「ライト・・・どうしよう・・・」僕の目を見る。その目はまるで怯えたウサギのように見えた。


僕はそいつの存在がいまいちわからない・・

「あいつ・・・そんなにヤバいやつなの?」

伊藤達也、一体何者なのか、この時の僕は想像も出来なかった。


震える薫を後目に、愛実は僕に説明をした。

「貴志、佐藤達を束ねるリーダーだよ。早弓君、あんた、貴志達に虐められて、からかわれてる、あれマシな方だったんだよ・・・私なんて・・・」

そういうと、愛実は下を向き、悔しかったのか握り拳を作って悔しそうな表情を浮かべる。


僕は問う

「・・・私なんて?何されたの?」

この状況に僕は赤面症であることを忘れていた。そして、これから彼女が発する言葉に、僕は驚愕した。


「無理やり、伊藤と付き合わされてやりたい放題されてるよ・・・現在進行形でね。」


僕は耳を疑った・・・そして、愛実が言う「やりたい放題」の意味が分からず、具体的に何をされたのか聞こうと試みた。


「やりたい放題・・?」


「言っちゃうと・・・悪戯だよ・・・その現場を写メまで撮られて、それを使って脅されている・・・『言うこと聞かないとネットにばら撒く』ってね・・・」


最近、知ったその言葉・・・僕は怒りが込み上げてきた。


僕の大切な人を二人も、そんな怖い目に合わせている伊藤という存在が僕は許せなくなっていた。それと同時に、僕は外壁を拳を握り叩いた。


(何故だろう・・・悔しい・・・憎い・・・貴志も、佐藤も・・・そして、その伊藤とかいうやつも・・・)


しばらく、僕ら3人はしばらく無口になった。

外壁で出来た影が、僕らを包む、そして複雑ないろんなトラウマを持った僕ら3人は、絶望感を共有しながら、佇む《たたずむ》ことしか出来なかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


僕らは伊藤の話を聞いた後、しばらく動けなくなっていた。僕は怒りと憎しみ、薫は恐怖心、そして愛実は怯えたように目を伏せる。当然、その後、秘密基地など行く気も起きなくなっていた。

少し落ち着きを取り戻したのか、薫は立ち上がり

臆面を浮かべて、こう言った。


「あーもーーー!」


僕らはその発した言葉に驚いた。

「薫ちゃん?」

僕は問うと、薫は続けて言ってきた。

「私らしくない!これじゃだめだ!」

愛実はそれを聞いて驚いていた。


薫は外壁を平手で叩き、気合を入れる。

その光景に何か覚悟を決めたような表情をする

そして、意外なことを言い出した。


「これはチャンスなんだ!『あいつ』というトラウマと向き合うチャンスなんだ!」


僕は絶句した。


「こんな雰囲気、嫌だ!私は決めたんだ!『あいつ』に振り回されず、自由に生きるって!」


そういうと、彼女は路地裏を出て、秘密基地に足を延ばそうとした。

「ちょっと!どこに行くのよ!」愛実は血相を変えて言う


その言葉を聞いて、彼女は足を止めると振り返って

「・・・秘密基地よ・・・」


「秘密基地?」愛実は問うと続けて、こう言った。


「仕方ない・・・本来なら、私とライトと莉乃ちゃんの秘密基地にしようと思っていたけど・・・来なさい。佐々木さんも」


彼女は愛実の腕を強く引っ張った

愛実は戸惑った

「ちょっと、私と関わるとあなた達が困るっていって・・・」


そう言った次の瞬間だった。


「うるさい!行きたいの?行きたくないの?!このまま、ただ、抵抗もしないで、何も変えないでやられたい放題で!それで悔しくないの!あんたは!」


その言葉に、愛実は悔しい気持ちを滲ませた。

そして、言葉を返すように愛実もまた目から涙が浮かび、感情的になる


「あたしだって、嫌だよ!このまんまじゃ!いつまでも玩具みたいに扱われて、悔しいよ!」


「じゃあ、来なさい!私がみんなを守ってみせる!」


その言葉を聞いたとき僕の心は不思議と悔しい気持ちになっていた。

心の中で『守られているだけではいけない・・・』そう思っていた。

そして、僕の表情は次第に憤怒の表情に変わる。


次に発した声は、二人を驚倒きょうとうさせた。


「『僕が』みんなを守って見せる!」


大声で発したその言葉、僕は覚悟を決めて、そう言った

鏡の前で誓った思い、そして、複雑に絡み合った気持ち、男としてのプライドと言うものだろうか、僕を駆り立てた。


そして、決めた。彼らに対して『復讐』することを・・・
















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