第10話 お片づけ

玄関のドアを開ける


すると、そこには莉乃が笑顔で立っていた。


「おかえり、お兄ちゃん!いらっしゃい、薫さん」


莉乃は笑顔で歓迎してくれた。


「う、うん・・・」


「わぁ、これがライトの妹さんかぁ、初めまして、その通り、私は薫だよ?お名前は?」


彼女は、そう言うと莉乃は大きな声で


「私は菅原莉乃です!小学5年生です!」とても、元気に答えた。


薫は少し困惑した様子だった。


「す、菅原?」

我が家の事情もこの時は知らなかったのだから、当然の反応だった。


莉乃も少し困った顔をして、複雑な感情を表にした


妹は「ウチ、ちょっと複雑な家でして・・・」と事情を話そうとする。


僕は慌てて、間に入り「莉乃、その話はしなくていいから!」


と話を遮る。


「うん・・・」


すると、薫は右手人差し指で顎を指し、何か考えている様子だった。


そして


「そっか、ライトの家も色々あるんだね・・・」


と察したようだった。


この時の僕らは、3年の付き合いだったが、互いの家庭環境の会話はした事がなかった。


「う、うん・・・」


僕は言う


すると、彼女はリュックから、お菓子の入ったお土産を莉乃に渡した


「はい、これ莉乃ちゃんへのお土産」


すると、莉乃は感激した。


「わぁ!これ!今、話題のリキュームのチョコレート」


『リキューム』のチョコレートは、この時とても希少価値があり、テレビで話題になるほどのチョコレートだった。


「手に入れるの大変だったから、大事に食べてね。」薫は笑みを浮かべ言う。


「ありがとう!おねぇちゃん!」


そして、薫を部屋に招き入れると、絶句した。


この時の僕は、それはなぜなのか気が付かなかった。


彼女は何か決心した顔をし、僕にこう言った。


「ライト、いつもこんな感じなの?」


「いつも?う、うん・・・」


今、思えば彼女が絶句するのも当たり前だ。


部屋は散らかり放題、朝片付けをしなかった為に皿が山積みになっている。ゴミ袋も玄関前に置かれて異臭が漂う。


彼女は後頭部をポリポリとかき、こう呟いた。


「まずは、掃除だな~」


「へ?」


「正直、こんなに汚いとは思わなかったよ。と、言うことはライトの部屋も相当汚いでしょ?」


そういうと、直感的に僕の部屋のドアを開け部屋の様子を見た


「やっぱり・・・」


薫はがっかりした顔でそう呟くと、僕の部屋の中に入って行った。


部屋は、シャツなどが散乱し、机は書類やノート、教材、漫画など色んなもので山積みになっていた。


ベッドはグシャグシャ、そして、CDや本などが無造作に置いてある。


そして、部屋は所謂『オタク臭』のような匂いがしていた。


「これじゃ、勉強なんて無理だよ」


「ご、ごめん・・・」


すると、彼女は開き直ったように気合いを入れた


「よしっ!」


そういうと、僕の机を片付け始めた。


その行動に、僕はびっくりした。


「ちょ・・・ちょっと!薫ちゃん!何してるの?」


「見て分かるでしょ?お片付けだよ。今日は、この家を片付けします。」


そういうと窓を開け手際よく、彼女は片付けを始めた。


それを見て


(自分もやらなきゃ・・・)


という気持ちが呼び起こされる。


隣からガサガサと物音がする、様子を見に行くと


莉乃もそれを見てか、自分の部屋を片付け始めた。


(これは、僕もやらざる得ない・・・)


そう思い、部屋の掃除を始めた。


1時間後・・・


徐々に散乱していた『物』が綺麗に整理され、あの汚かった部屋が見違えるようにさっぱりしてきた。


リビング、僕の部屋、そして莉乃の部屋。


薫は満足そうな笑みを浮かべ


「ふう・・・あと、掃除機と拭き掃除だね。」


僕は遠慮したい気持ちになり


「い、いいよ。後は僕がやるから」


と言う


しかし、彼女は僕の顔を覗き込むように見てくると


「『今』のライトじゃ出来ないと思うよ?」


と挑発をしてきたように見えた。


僕は少しカチンと頭に来た。


「ぼ、僕だって掃除機くらいかけられるさ!」と顔を赤くして言う


そういうと、彼女は笑みを浮かべ


「じゃあ、やってみようか」


と言ってきた。今考えれば、これが彼女の『やり方』だったのかなと思う。


彼女が挑発をする、そして、僕は必ずと言っていいほどムキになり行動を開始する。


まるで、彼女の掌で踊っているようだった。


僕は掃除機を掛ける。リビング、自分の部屋、莉乃の部屋とすると足元がすっきりとした気持ちになった。


彼女は終わった部屋から、その間に、床を雑巾で拭いてくれていた。


掃除機を掛け終えると、少し疲労感が僕の体を覆った。


「ふう・・・終わった」と小声で言うとそれを見て薫は


「やればできるじゃん!」


彼女は僕の肩を叩き、それを見て喜んでいた。


「ま、まぁね・・・」僕は照れを隠しながら返答する。


しかし、我が家には一番の問題が残されていた。


『トイレ』である。


(まさか、そこまでやらないよな・・・後で、やっておくか・・・)


そう思っていた時だった。


彼女はトイレのドアの前に立つ


(まさか・・・)


そう思った時、既に遅かった。


薫はトイレのドアを開け、びっくりした表情をした。


そして、大きくため息をする。


「やっぱり、ここもか・・・」


言葉で言い表せないほど、汚いと言うことは記しておく・・・


母親が最後に掃除したのはいつだったのか、僕は知らないくらいそこは掃除していなかった。


彼女は両手を使って、パンッと顔を叩く


「よし!やるか!」


僕はその発言に驚いた。


「えっ、いいよ。これこそ後で僕がやるから」


「ううん、私にやらせて、だから、ライトゴム手袋貸して」


「いいって!」


しかし、いくら言っても彼女は言う事聞かず、半ば強引に素手でやろうとしていた。


その姿を見て、僕は急いで洗面台の下にしまってあるゴム手袋を用意する。


「わ、わかったから!素手でやるのはやめて!」


そうすると彼女は笑い出した。


「あはははは!ライト、慌てすぎだよ。それに思った通りに動いてくれた。」とまんまと彼女の仕掛けた『罠』にハマってしまった。


そして、僕が油断した時に、持っていたゴム手袋を奪い取り、ゴム手袋を手に装着した。


「さて、本当にやりますか、ライト使わない掃除用のスポンジとトイレ用の洗剤持ってきて」と一度、彼女はトイレの水を流す。


僕は指示に従うと、彼女はこれまた手際よく、トイレの掃除を開始した。


10分ほどで、みるみると言葉に出来ないほど汚かったトイレが綺麗になっていく。


「よーし、これで終わりっと」彼女は最後にトイレの水を流して、トイレ掃除を終えた


僕は、それを見て感動した。


それと同時に謝罪したい気持ちになった。


「ご、ごめん・・・トイレまで掃除してくれて」


「んーん。ライト、まだ掃除終わってないよ?」


「えっ?あ、あとどこをやるつもりなの?」


そう問うと、洗面台と風呂場を指さした。


そこは毎日、僕は掃除していた。


「あ、あそこは、毎日掃除しているから大丈夫だよ。」


「どうかなぁ、ちゃんとチェックしないとね」


そういうと彼女は洗面台をチェックし始めた。


「おぉ!本当だ。ちゃんと出来てるじゃん」


彼女もまた、感激していた様子だった。


そして、風呂場もチェックする


壁、天井、風呂窯の中と順番に見ていく


「けっこう、カビ生えてるね・・・」


彼女は、そういうと僕を見て


「カビ取り洗剤あるかな?」と尋ねてきた。


僕はそう言われると、いつも洗剤の入っている洗面台の棚を見た。


しかし、確認してもカビ取り洗剤は見つからなかった。


「ごめん・・・切らしてるみたい」


「そっか」


「で、でも、いいよ。トイレまでやってくれたんだし、これ以上やらなくても」


僕はそういうと、彼女はニコッと笑った。


「じゃあ、買い物に行こうか!ライト!」


「えっ!」


僕は彼女の徹底ぶりと、やる気に驚いた。

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