第4話スローライフ、ついに始まる?

『勇者春幸魔王軍幹部ドラウ討伐!』

 

 「はぁ…。」


 国による祝福の垂れ幕を見て思わずため息をついてしまう。なぜこうなった…。俺はスローライフが送りたくて、そのためにいろいろそろえるためのお金が必要で、そのお金を稼ぐために魔王軍の幹部を倒した。


 「勇者春幸よ!市民の平和のために魔王軍幹部を討ち滅ぼしてくれたこと感謝する!敷いては国の軍に……」


 それがどうしてこうなった…。


 俺は今、ドラウを倒した報酬ということで、国王謁見という場に呼び出されている。挙句に国王軍に勧誘されるという始末だ。スローライフを送りに来たのに軍なんかに入って重労働を義務化されるなんて御免だ!


 「いや、俺そんなにばりばり働く気無いんで遠慮します。」


 「なんと!国王の頼みを無下にするというのか!」


 「けしからんやつめ!」


 周りがざわついてきた。そんなことを言われても魔王討伐なんてする気はないし、ましてや国のためなんて毛ほども思っちゃいない。生まれ育ったわけでも無い国に愛国心なんてあるわけが無いだろう。


 「まあまあ、皆の者。春幸は勇者だ。魔王軍幹部という驚異を排除してくれたまごうことなき勇者だ。そんな者を軍に入れたいという余の考えが誤っていたのであろう…。春幸は勇者である前に冒険者だ。軍に縛るのはいいことではない。」


 しかしこの国王は話が分かる人で、そんなことを言ってきた。まあ冒険者としてまじめに冒険する気はないがありがたく話に乗っておくか。


 「おっしゃる通りなのです国王陛下よ。私は魔王軍幹部を討ち滅ぼせはしましたが、まだ未熟な身…。冒険者として見聞を広めたいと思っております。国の軍への勧誘という真に栄誉なことではありますが、今回はお断りさせていただきます。」


 「おお…そうかそうか。春幸は真に立派な冒険者である。皆の者も彼に習うようにな。」


 ザッ


 臣下が国王に敬意を示し頭を下げる。俺もおとなしくそれに従うことにした。今は立派な男を演じるに限る。



 「いや~、しかし立派でしたね春幸~。まさかあなたがあんなにも立派なことを言うとは思いませんでしたよ~。これから見聞を広める冒険に出るのですか~?」


 国王への謁見が終わり街に戻る途中、ティアマトがにやにやしながらそんなことを言ってきた。


 「あれは軍への加入を穏便に断るための建前だよ。そりゃあ前世では多忙にいろんな会議に出席してましたからね。あれくらいの建前ならいくらでも言える。」


 などと自虐的に返したが、今でもあの頃を思い出すと寒気がする。幾たびも会議に出席せねばならず、そのたびにプレゼンの準備をし、プレッシャーに押しつぶされそうな日々。それに比べれば、寛大な国王からの軍の加入を断ることなど簡単だ。


 「まあ、そんなことだろうと思いましたよ。私としてはちゃんと冒険者として各地をまわって魔王軍の壊滅なんてことをしてくれると嬉しいのですが。初めからスローライフを送りたいとの要望で転生させたので、それを強いることもしません。」


 ティアマトは物わかり良くそう言った。


 「そういうことだ。まっ、金も入ったことだしこれでスローライフを送る準備がやっとできるな!」


 ようやくだ。ようやくスタート地点。しかも自分で稼いだ金なのだ(能力値を最大にしてくれたのは女神ティアマトだが)。


 「そうですね!私もあなたに自給自足の生活を送る上でのアドバイスを送るように本体から切り離された端末なので精いっぱいがんばります!」


 こうして俺はティアマトから農業や畜産に必要なことを教えてもらいながら、必要なものを揃えていった。自給自足のスローライフを送りたいとは言ったが、前世では多忙な仕事マンだったので、ティアマトが教えてくれる情報はどれも新鮮でためになった。そして…


 「マイホームだ!!!!!!」


 ついに念願のマイホームを手に入れることができた。場所は、人がまったく来ないような森の奥だ。外観は、いかにも村のはずれにある一軒家といった感じで、中は結構広い。外には畑にできる土地と、家畜用の小屋があって、牛と豚、野菜の苗などすべてそろえた。


 「これから夢のスローライフだぁ!」


 そう叫んだこの時の俺はまだ知らなかった。そんなに簡単には、スローライフなんて送れないことを…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

前世で多忙だった俺は、異世界で余生をのんびり送ります。 雪霧 @yukikiri3880

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ