第6話景品交換再び……。

 無言のリスナーを除く、七名のリスナーから祝福された俺は、仁王立ちの姿勢を取る。そのまま右手を腰にそえ、左手を左目の横に持ってきてピースを作った。


 おまえは魔法少女か! と、思わず自分で突っ込む。が、これがノリにのったときの俺の決めポーズだ。カメラに向かって不敵にほほ笑む。うむ、キモい。

 不潔そうな服装。今にもフケが落ちそうなボサボサの天然パーマでこれをする。配信初期からこのポーズに慣れている三人は呆れて笑うが、新規のメンツは。


ゲスト:うげぇぇぇ、キモッ。いい歳して、魔女ッ子戦隊アカネちゃんのマネかよ。


ゲスト:チャンネル登録解除しよっかな。


ゲスト:ロリは死ね。


ゲスト:投げ銭しようと思ったが、やめました。


 今日チャンネル登録してくれた人にはウケなかった。ちくしょう。


「さぁ。今度こそお約束の景品交換の時間だ。イエス、イエス。さっきのスライムは、一匹につき、五十ポイント入った。何でなんて野暮な事は言いっこなしだ。俺は計算だけは得意だからな。そして今のポイントは――一万五千ある。おういぇい。ざっと考えて、十分で、実に、三百体のスライムを殲滅せんめつしたって訳だ。ふぅぅぅ」


ゲスト:あぁ、さっきの一方的な足踏みで、そんなに倒してたのか。


ゲスト:俺、足踏みの途中から見たからさ、思わず、何ダイエットしてんだ。コイツって思っちゃったわ。


ゲスト:にしても、良く数えてたね。


ゲスト:最後の方なんて、火の玉みたいなのがジャンプしてきたけど、熱くなかったのか?


ゲスト:俺が解説しよう。あれは、激怒したスライムの怒りの波動だ。よって実際は熱くない。


ゲスト:で、タケちゃんはそのポイントで何を交換するの? 勿論、武器かな?


 フフ、皆、好き勝手言ってくれる。やっぱ最初にゴブリンを倒したのが大きかったな。スライムは余裕だった。でだ、何を交換するかだって。そんなものは決まっている。誰がなんと言おうと。これだけは譲れない。


 おにぎりだ。それも、ツナと梅を二個ずつ。


 スマホの時間を見ると、まだ十四時を回った所だが、さすがに腹が減った。さっきはジュースだけだったからな。空腹状態で魔物に出くわしたら――考えるだけでゾッとするからな。俺はまだ死にたくはない。よって飯だ。飯にする。


 でも、まてよ。ゴブリンよりもスライムを探して倒した方が、ポイントはたまりそうだな。うん。無理は良くない。それがいい。この森の近辺で、コツコツとスライムを倒していればいつかは――魔法に手が届くだろう。

 塵も積もればヤマタノオロチっていうヤツだな。


 リスナーは今も、バトルはよぉ。とか打ち込んでいるが。無理は良くない。もう一度言おう。大切な事だからだ。無理は良くない。長生きするのが先決。うん。


「ふあっはははは。俺はトップを目指すWooToberだぜ。人生デカく、太く。小さくなんか纏まってやるか。俺が交換するのは包丁とおにぎり四個だ!」


 あれ、何でシーンとしてんの。チャット止まっちゃったよ。

 一呼吸おいて、一気にチャットは流れ出す。


ゲスト:何だよ、それ。普通は剣だろうよ。異世界産の剣を出してこそ、疑惑が晴れるってもんだろ! 頭わりぃのか!


ゲスト:うーん、でも何でおにぎりな訳? もしかしてまだ飯食ってないとか?


ゲスト:あー、タケちゃん、腹減ったって言ってたもんな。でも、おにぎり四個なら、剣も交換できるんじゃね? 何で、包丁なのさ。


ゲスト:タケちゃんには、ガッカリだよ。お姉さんは。


ゲスト:でも、異世界の剣っていっても市販品でしょ。もしかしたら、鍛え抜かれた日本の包丁の方が、切れ味が良かったり?


ゲスト:何が、人生、デカく、太くだよ。小さく纏まってんじゃねーぞ。


 俺を支持する者は半数以下か。チッ。なんだよ、俺と同じ考えは一人だけか。

 日本の刀が、世界中で高値で取引されてんの知らねぇのか。日本の包丁が、外国人のお土産ランクに入るのも知らねぇとはな。

 その理由は――日本の刀工が打った刃物が良く切れるからだ。


「リスナーの諸君。土岐長政作の包丁を舐めてもらっては困るな。きっと切れ味は抜群。刃こぼれなんて簡単にはあり得ない。よって、俺は包丁を選ぶ。そして腹が減ったからな。おにぎりだ。今度は疑われないように、最初からバッグの中身を見せようじゃないか」


 俺が宣言すると「まぁ、タケちゃんの自腹だからな。これが投げ銭だったら許さねぇけど、好きにすれば」といった、理解も得られた。フフッ。


 前回同様、WooTobe公式サイトからおにぎりと包丁を選択する。さっきと同じであれば、これで交換できるはず。よしきたぁぁぁぁぁ。


「うっし、交換したぜ。どうだ、今度はバッグの中におにぎ――あれ、入ってねぇ」


ゲスト:――――――――――――――――――――――――――――――――。


ゲスト:――――――――――――――――――――――――――――――。


ゲスト:――――――――――――――――――――――――――――。


ゲスト:――――――――――――――――――――――――――。


 ヤバっ、リスナーめっちゃ固まってる。

 何とかしないと。


ゲスト:タケちゃんよぉ、もう疑ってねぇから早くしろよ。


ゲスト:んだ。飯食うんだろ。はよ。


ゲスト:モタモタしてんじゃねぇぞ。どんくせぇやつだな。


 あれ、なんでだ。画面を見てみると、選択画面に――。


《カートの中の商品と交換しますか?イエス/ノー》


 と、書いてあった。なんだよ。複数個を交換する場合は、一度カートに入るのか。


「すまん。手違いがあったようだ。今度こそいくぜ!」


 俺はリスナーへ謝罪すると、再度カメラをバッグに向けた。よし、今度こそ。イエスを選択してポチッとな。

 今度はバッグにおにぎり四個と、土岐長政作の包丁が入っていた。

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