第13話 得手不得手


「3限目はプールだ。10時までに更衣してプールサイドに集まるように。以上だ!」


「はぁーー疲れたーー」

「その後にプールとかまじめんどくせえ」

「サボっちまおうかな」


榊の授業が終わり、連絡を伝え榊が出ていった瞬間、教室からは疲弊の声が上がる。


「とりあえず更衣行くぞ」

「おう」

「俺はサーボリー」

「俺も」

「私も濡れるの嫌だしいいや」

「ねえーー」

ザワザワ

各々言葉を漏らしながら散らばっていく。


「、、、、、、。」

(結構みんな自由なんだな〜)

(水着、、、、、)

(この間体操服と一緒に支給されたの持ってきたけど)

過半数が出ていき教室が静かになったあと玲奈は席を立ち上がる。


「更衣、行く?」

「!」

「プール更衣室の場所まだ知らないよね?案内するね?」

玲奈の前に現れたのは奈々子と桃花だった。

「ありがとう」



ーーーーーーーーーー

ーーーーーー


ガヤガヤ

ここは女子更衣室。

生徒の数だけ棚があるのか温泉にある更衣室よりもはるかに大きいスペースが設けられている。


「あープールなんてめんどくさいー」

「ホントよね〜」

その中で愚痴をこぼしつつも授業を受ける生徒達は水着へと着替えていた。


そんな中

シュンッ

パサッ

「よし!」

制服が一瞬で水着に変わる子がいた。


「いいよねー。こういう時早着替えの魔法使える子って」

「早着替え、、、」

(物質交換の魔法。そんな使い方もあるんだ)


特に着にくいわけでもなく普通にどこにでもある紺色をしたスクール水着ではあるがやはり水着に着替えるのはめんどくさいと思うものだ。


「はぁーーー」

「桃花ちゃん?」

(ため息なんて珍しい)

「あ、ごめんね。実は私プールの授業て苦手で、、、、私、、、泳げないんだ、、、」

「!」

人間苦手不得意なものがあるのは当然だが、その意外さに玲奈は驚く。

「サボったり、できたらいいんだけどサボる子達は凄い泳げる子達ばかりだから。私少しでもちゃんと出席しないと単位取れないんだ」

「桃花、、、、」

奈々子がそれを聞き心配そうに見つめている。



「今日何泳ぎしようかなー?」

「私バタフライしたい!」

その近くで桃花とは正反対に泳ぎを楽しむ声がする。


「泳げる子にとってはきっと、楽しんだろうな」

「、、、、、、、、。」

桃花の呟きは少し寂しげだ。

「はは。うじうじしてても仕方ないよね!早く着替えてプールサイド行こ!」

「、、、うん」

そういつものように笑みを浮かべる桃花だったが、付き合いがまだ浅い玲奈でもそれが空元気であるとわかるほど桃花は追い込まれていた。



ーーーーーーーーーーー


タッ

「プールー!」

「はあ、本当温室プールてのが煩わしいわ〜」

更衣室から飛び出すと様々な声が上がる。


しかし玲奈は授業そのものというよりプールそのものに言葉を失っていた。


「!!」



「おっきいでしょ?」

「普通なら考えられない大きさだよね〜」

「本当どんだけ広いのよ、この学園はって感じよね。プールだけでこの大きさだもん」

「因みに2階もあるんだよ」

「!!」

玲奈の面食らい、出ない言葉を代弁するように桃花と奈々子が声を上げる。


更衣室も広かったが比べ物にならない。

ここは本当に学園の中なのかと思うほど広大なプールが現れた。

距離は25mであるが何レーン存在するのだろうかというほど横に長い。

そして競泳プールだけでなく流れるプール、温泉、スライダー、飛込み台など種類も豊富である。

空いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。



ピーーーーーッ

呆然とくれている玲奈の耳に笛の合図が聞こえる。

「集合の合図だよ!行こ!」

そして3人はそのまま集合場所へと向かった。



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


点呼、準備運動をした後、生徒達は男子と女子に別れ、教師の前へと座る。

「今日は50m自由泳ぎをした後、素潜りの練習をする。気分が悪くなったものは私に言いに来るように。見学も構わん。それではまず男子から、はじめ!」

ピッ

男勝りな女教師が簡単に今日の予定を説明すると、首から下げていた笛を鳴らし合図を送った。


ジャボン!!

その合図に合わせ、生徒がプールの中へと入る。

レーンは長くあるが今日は6レーンを使用している。

ピー!

生徒達が水に入ったのを見計らうと教師は次は少し長く笛を吹き、それを合図に生徒達は泳ぎ始めた。


「うわ!みんなすごい!」

「かっこいい!」

待機待ちをしている女子達から歓声が上がる。


「うぇええええい」

バシャシャシャシャシャシャ

その中で1人猛スピードでクロールをしている者がいる。

「あー、、、あれは泳いでいると言っていいのかって感じだね」

それを見た奈々子が半分呆れた声を上げる。

「彼って確か、、、、」

「うん!体育の100m走でブッチギリだった瞬足魔法の使い手だよ」

玲奈の言葉に奈々子が答える。

「バタ足って確かに足使うから魔法使ったらああなるけど、泳ぎとはいえないよねー」

(確かに、、、、)



ピッ

「次!」

1走者目全員のタイムを持っているボードに書き写すと教師はまた合図を送った。

じゃぶんっ


「きゃーー!!!翔くん!!レンくーん!!」

女子達の歓声にスタート地点を見ると、そこには入水した翔とレンの姿があった。

「!あのふたり、、、、、」

「相変わらず人気だね〜」

「、、、サボってないんだね」

玲奈はふと思ったことを口にする。

レンはともかくとして翔が授業に参加していることは実際珍しいのである。


「ああ、あのふたり魔法のタイプとか全然違うから優劣つけづらいんだけど、水泳においては2人とも魔法使えないから本当の意味での競い合いができるんだよ」

玲奈学園に来る前から2人を知っていた奈々子が説明する。

「なんだかんだお互い負けず嫌いだもんねー」

「ふーん、、、、、」

確かに炎は水の中では効力を発揮しない。

雷も使おうものなら水の中に入っている全員が感電死してしまう。

魔法が使えない、素での実力が問われるというわけだ。


そして玲奈は翔を見てふと思うのだった。

(今日は衰弱してない、、、、、)



「きゃーーーー!!!!かっこいいー!!!!」

「2人とも頑張ってーー!!!」

泳ぎ出した2人に再び女子から高い歓声が上がる。

2人ともクロールで他のレーンを泳ぐ4人をぐんぐん引き離していく。


そして

ダンッ

ゴール地点に勢いよく手を付き、水から顔を上げる。

「ふぅ」

「はぁ」

泳ぎきって乱れた呼吸を整えるように2人は大きく息を吐く。

ほぼ同着。

若干今日は翔が早かった。という具合であった

「相変わらず早いね、翔」

「、、、、、、、。」

レンは楽しそうに翔に声をかけるも翔は言葉を返すわけでもなく、そのままプールサイドへと上がった。

ザバッ

「、、、、、、、、。」


バチッ

その時、玲奈と目が合った。

「、、、、、、。」

「、、、、、、。」

「次!」

ピッ

少しの間睨みつけるように見つめ合うと2人はそのままフイッと顔を背けた。



ーーーーーー


そして


「じゃあ次は女子行こうかー!」

「はあい!」

「ああーやだなー」

ついに女子の順番がやってきた。

喜ぶ声、嫌がる声様々な声とともに1走者目が水へと入る。


そう玲奈も1走者目である。

ジャボン!!

「玲奈ちゃん!頑張って!」

「うん。ありがと」

(泳ぐのなんて久しぶり、、、、)

応援のもと、玲奈は泳ぐ準備を始める。


ピー!

合図が頭上で響くのを確認し、玲奈は顔を水につけ泳ぎを開始した。


「、、、、、、、。」

水の中に入れば外の音は聞こえない。

静寂と自身がかく水の音ー。

そして体に触れる水の感触に玲奈はふと考える。

(水、、、、)

(水は暗闇と似てる)

(もがけばもがくほど足を取られて)

(そのまま沈んでいく)


あっという間に25mを泳ぎ着るとそのまま体を拗らせ折り返す。

(泳ぎ続けなければ)

(生きられない)


トンッ

ぷはっ

手を付き顔を上げる。

すると

わあああああああ!!

「!!!」

先程の水の中から一転、賑やかな声に思わず玲奈は目を向ける。

「玲奈ちゃんすげえ!!」

「凄い!!!1番だ!」

「顔も可愛いし魔法もすげえし、その上運動神経もいいとか」

「悪いところがねえじゃんか」

泳ぎ終わり、見ていた男子達が歓声の声をあげた。

「フン!まぐれよ」

そんな中、未だ順番を待つ伊藤が不服そうに声を上げている。

「素直じゃねえなー伊藤は」

近くに座っていた仁が面白げに笑みを漏らす。

「うるさいわね!」

「それに比べて、なんだあれは」

「プッ、笑っちゃいけねえけどあれはひどい」

プールサイドに上がった玲奈のそばにいる男子達からの声に玲奈はプールを見やる。

「!」

バシャバシャ

他の5人がもう折り返しに入っている中、手や足をうまく動かせず前に進まないで15mほどで足をついている桃花の姿があった。

「頑張れ!梅宮」

「はいっ」

教師の声に返事をするとまた顔をつけ、泳ぎ始めるもすぐにまた足がついてしまう。

そんな様子を玲奈は心配げに見つめていた。

「、、、、、、、。」

(桃花ちゃん、、、、)



「はぁ、はぁ」

やっと泳ぎきり、50m、スタート地点へと帰ってきた桃花。

その息は乱れていて、本人もとても疲労している。

「お疲れ様」

頭上、プールサイドから手が伸ばされる。

伸ばしたのは

「!玲奈ちゃん、、、?」

そう、玲奈であった。


ザワ

その光景に一部生徒がざわつく。

それを気にすることなく玲奈は桃花をプールサイドへと引き上げ、桃花も感謝の意を伝えた。

「あ、ありがとう」


「橘、、優しいな〜」

「あんなやつほっときゃいいのに」

「やだー」

くすくす

「、、、、、っ」

聞こえてくる陰口に桃花は下を向く。

「、、、、、、。」

玲奈はそれに眉を寄せた。


ーーーーーーーーー


ーーーーーー


「それでは!素潜りの練習を開始する。水中で何分息が続くか、何分耐えられるかを測定する。能力を使っても構わんが、あくまで肺機能育成と水中での訓練ということを忘れるな」

予定通り次の活動「素潜り」へと進む。


「私の合図で全員水に潜るように!息が続かなくなったものや体調が悪くなったものは先程配ったテレポートの魔法石を使用し、プールサイドへ出るように。」

教師の言うように生徒達の首には白い石が輝いている。


くすくす

「くく」

「やめろって

説明の中小さく聞こえる話し声ー。

何を話しているかまでは聞き取れない。

「?」

「桃花大丈夫?」

奈々子が心配して桃花に声をかける。

「う、うん。潜るくらいなら、きっと」

「無理しないでよね」

「うん!ありがとう!」



「それでははじめ!」

「、、、、、、、。」

玲奈も心配げに見つめるも

ニコッ

といつもの桃花の笑みが帰ってきた。


そして

大きく息を吸い

じゃぶんっ!!!

全員が水の中へと入った。



「、、、、、、、。」


(この時気づくべきだった、、、、、)

(そうすれば、あんなことにはならなかったのに、、、、、。。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る