第14話 すれ違う心

コオオオオオオオオオオ


突如プールの底が光り出す。

そして

「!」


気がつくと見えていた底がわからなくなり、どこまでも水の中へと変わってしまう。

まるでどこまでも続く水の中に閉じ込められたかのような感覚ー。


(水深が変化した?)

(あの先生、水の能力者か)

(それにしても、、、深い)

(底が見えない)

「、、、、、、、。」

(これこそ本当に底のない闇の中みたい)

玲奈は底のなくなった深いそこをじっと見つめた。


「!」

一方で他生徒達は慣れているのか特に反応していない。

(みんな慣れているのか深くなったことなんて気にしてないー)


そうして周りを見渡していると

「!」

空気の魔法を使い、自分の作った空気球の中に顔を入れ、平常通り呼吸をしているものや

あらかじめ上で酸素を自身の体に取り込み、風船のように酸素で膨らんだ体でゆっくりと空気を抜いて息をしているものもいた。

(やっぱり水泳同様能力を使ってる人もいるんだ)


「!」

そして魔法とは別のものを使っている者も。

パクッ

口を開け、飴玉を頬張る生徒。

モグモグ

玲奈はそれに思い当たりがあった。

(あれは、裏流通の空気飴)

説明しよう。

空気飴とは名前の通り舐めている間その空気を補給できるというものである。

(不正とかどうなってるのかな、この学園)


そう思った矢先脳裏にある者の姿が映る。

バチバチバチ

電気を司る榊である。

(あっ、、、、、)

彼の授業で不正は許されないし、見つかった時点で命の危機を感じる。

玲奈は察した。

授業によるのだと。


(あの2人は、、、、まるで寝てるみたい)

玲奈が目を向けた先、そこには腕を組んで目を閉じじっとしている翔とその隣で同じく目を閉じ頭に手を回して悠々としているレンの姿があった。


(そうだ!桃花ちゃん!)

ジャボッ

ふと思い出し、玲奈は大勢を変えて当たりを見渡す。


(どこ?)

キョロキョロと顔を動かし桃花を探す。


そして

「!」

(いたっ!)

3時の方向に桃花を見つける。


「ーっ、ぶくぶく」

桃花は苦しげに口から息を出している。

水に入ってからどれぐらいがたったのだろうか。


(桃花ちゃん!)

グンッ

玲奈は慌てて桃花の元へと駆け寄る。


「ん、っ」

(桃花ちゃん!)

玲奈は桃花の肩を少し揺らす。


「(玲奈、ちゃん、、、?)」

目の前に玲奈が現れ、桃花はキョトンとしている。

「(無理しないで!限界だよ上がって!)」

水の中で会話ができないため玲奈は指で上を指し上がるようにジェスチャーで伝える。

「(う、うん)」

桃花は頷くとそのまま首にかける石に手をかけた。


「(テレポート)」

「?」

「!」

しかし石は反応しない。

「(発動、しない、、、、?)」

魔法石は魔法を閉じ込めた石。

使える回数はあれど、本来なら使用者が触れれば勝手に発動する。

使い切れば消滅してしまうし、こんなことは起こるはずがない。


「(なんで!?)」

「っ」

桃花も玲奈も驚きを隠せない。


「(テレポート!)」


シーーン

何度触れても石は発動しない。


「(テレポー、、、、っ)」

ごばっ

「っ!」

戸惑い、限界の来た桃花はそのまま口に入っていた空気をすべて吐き出してしまった。

「(桃花ちゃん!?)」

「」

呼吸ができなくなった桃花は水の中の無重力空間でただ浮いている。

「(しっかりして!)」

「んーー」

玲奈は必死に桃花の肩を揺らす。

しかし反応は返ってこない。

このままでは死んでしまう。

「(しっか、、、、)」


その時、

「!!」

微かに人の邪念を感じる。

バッ

慌ててその方を見やると


ニヤニヤ

横に並び、不敵な笑みを浮かべる男女の姿があった。

(まさか、、、、あの人たちが、、、、)

玲奈は何が起こったかだいたい予想がついてしまった。

「、、、、、、、、。」そして仕方がないというように決意を固めた。



ストップウォッチを片手にプールの中を見守る教師。

ぶくくくくくく

すると水面に大量の気泡が現れた。

「ん?」

そして

ザバア


「ぷはっ!」

「ゴホッゴホッ!!」

顔を出したのは玲奈と玲奈に抱かれる桃花の姿。

2人は酸素を求めるように大きく息をし、桃花は飲んでしまった水を口から吐き出した。

「橘!梅宮!どうした?」

その姿に教師が慌てて駆け寄る。


ポイッ

玲奈が桃花の体を支えていない方の手でプールサイドへとものを投げる。

カツーン!!

投げられたものはそのままプールサイドに叩きつけられた。

「!!」


そして

パキッ

音を立てて崩れたそれを見て教師は戸惑いの声を上げる。

「!?砕けた?魔法石がこんな簡単に砕けるわけ、、、、まさか偽物?」

そう、魔法石はそれぐらいで壊れてしまうほど儚く脆いものではない。

壊れた、発動しなかったというのは偽物だということを意味していたのだ。


ザバッ

「はあはあ」

「大丈夫?桃花ちゃん」

「ん、ゴホッゴホッ、ありがとう」

玲奈は桃花を抱え、そのままプールサイドへと上がってくる。


教師は事の状況を理解出来ず、玲奈達と石を交互に見る。

「私が確認した時はちゃんと、、、、」

焦りの声を上げる教師に玲奈は淡々と真実を告げる。

「あなたのせいじゃない。物質交換の魔法でただの石に変えられただけ」

「へ?」

「!」

桃花も教師もその言葉に驚きを隠せない。

「犯人は、、わかってる」

そう玲奈が言い放った瞬間、

ジャボッ

大きな氷が2個水面に浮いてきた。

「!!」

「氷!?」

そのプールに場違いの光景に教師と桃花は驚きを隠せない。


バッ

そして玲奈が手を左から右へと振り上げると

「うわあああああ」

「きゃあああああ」

氷に包まれた男子生徒と女子生徒がプールから飛び出してきた。


ボンッ

パキッ

プールサイドへ叩きつけられ、そのまま氷は砕け散った。


「はぁ〜〜つめて〜なんだよあの氷〜」

男子生徒は両手を腕に回しぶるぶる震え

「あーん!水の外に出ちゃったー!最高記録目指すつもりがァ」

女子生徒は愚痴を宙に向かって吐いている。

「後藤!?今井!?」

「、、、、、、、。」

「この人達が、、、、」

教師、桃花が驚く中、玲奈は2人をじっと無表情で見つめている。


「全員1度上がってこい」

ピーーーーーッ

教師が強く笛を吹くと

シュンッシュンッシュンッシュンッ

全員がテレポートでプールサイドへと上がって来た。


「桃花!」

「奈々ちゃん!」

奈々子が桃花へ駆け寄る。

「なにこれ!どうなってんのよ!」

ザワザワ

状況がわからないというように生徒達からは不満や疑問の声が上がる。


そしてそんな中で玲奈が真実を語る。

「彼女は物質交換の能力者。計画者は、彼」

指を指してそう伝える玲奈に教師は本人達に確認する。

「本当なのか?」

「ちっ」

ザワ

教師の確認に舌打ちする男子生徒・後藤の反応を見て、あたりがまた一段とざわつき始める。

「、、、、、、。」

「ああ、そうだよ!」

沈黙する女子生徒・今井の隣で痺れを切らした後藤が声を荒らげる。

「!!」

「な、なんで?何でこんなこと、、、、」

桃花が後藤へ問いかける。

「なんでだァ?目障りなんだよ!お前」

「えっ?」

後藤からは声を荒らげた返事が返ってきた。

桃花は思い当たることがわからずどうしたらいいのか戸惑っている。

すると今井も同じように不満の声を上げた。

「そうよ!大して泳げもしないのにプールの授業に参加してさー!あんたのせいで授業が行き詰まるの耐えられないの!」

「まあそれはあるよなー」

今井の意見に賛同するものもいる。

「そ、そんなみんな!泳げない子だっているよお」

「うるせえぞ!奏斗」

奏斗がフォローに入ろうとするも賛同派に一掃されてしまう。

「ううっ」

ザワザワ

ざわつきが大きくなる。

「っ」

先程の言葉とそのざわつきに桃花は居た堪れない気持ちになり俯く。

「ってかなんでさぼんないの?意味わかんないんだけど。水着姿で男にアピるつもり?ちょっと可愛いからって調子に乗らないでよ!」

それに今井はさらに追い打ちをかける。

「ち、ちがっ」

「あんた達いい加減に、、、」

否定する桃花、そして聞いていられなくなった奈々子がとうとう口を挟もうとした時、

「いい加減にしないか!あと少しで死ぬところだったんだぞ!これは訓練だといっただろう!遊びじゃないんだ!命綱をすり替えるなど重罪だ」

あまりのことへの動揺と怒りに沈黙を続けていた教師がついに叱りの声を上げる。

「、、、、、、、。」

「、、、わかってましたから」

黙り込んでしまった今井の横で後藤が小さくつぶやく。

「?」

「どうせそこの新入生が助けると思ってました」

「橘、、、が、、、」

思ってもみなかったその言葉に教師は玲奈を見る。

「、、、、、、、。」

玲奈は急に引き合いに出されたことに表情を変えることなく後藤を睨んでいる。

「そうだとしても!」

そして再び教師が声を上げようとしたとき

「てか一体あんたなんなの!?」

今井の持っていた不満が爆発する。

「、、、、、、、。」

「急に入ってきて、翔くんと戦って勝ったぐらいで偉そうにして」

「そんなことっ!玲奈ちゃんは、、、」

怒りの矛先が玲奈に向き、桃花は慌てて否定する。

しかし今井の猛攻は止まるところを知らない。

「ずっと気に食わなかったのよ!!最高峰のSSS階級になったかと思えば次は翔くんのパートナー?できすぎなのよ!そもそもなに?友達にでもなったつもり?こんな階級Bの子誰も相手にしないのに相手になんかしちゃってさ!」

「!!」

ズキ

その一言に桃花は胸痛めた。

階級はずっと桃花が気にしていたことだ。


今井の差別的なその発言と猛攻、そして反省の見えないその姿に教師の堪忍袋の尾がついに切れた。

「いい加減にしないか!!」

ビクッ

教師の怒鳴り声に今井は体が怯むのを感じる。

「後藤と今井は後で職員室に来るように」

「はぁ?」

そうそのまま告げる教師に同じく反省のない後藤は反発を示した。


その一部始終を見やり、玲奈は確信する。

(この怒りは不安、不満から来てるんだ)

(私への)


そして玲奈はポロリと言葉を漏らす。

「別に、、、、」

「!」

「友達になったつもりなんてないわ」

「えっ?」


ザワ

その発言に静まり返っていた周りが再びざわつく。


「、、、、、、、。」

翔もただじっと腕を組んで玲奈を見ていた。



「気分が悪いので私はここで抜けます」

「橘、、、、、」

そう淡々と教師に告げると玲奈は桃花の手を取った。

「桃花ちゃん、一応保健室に行っておこ」


しかし

グンッ

抵抗するかのように桃花の体はそこから動かない。

「、、、、、、、。」

桃花は下を向いており、表情が見えない。

「桃花ちゃん?」

「ーっ、ごめん。」

心配する玲奈に返ってきたのは謝罪の言葉ー。

「?」

「ごめんね。友達でもないのに色々世話焼いて、迷惑、かけて、ごめんねっ」

そう言い、顔を上げた桃花の表情はとても痛々しい。

作り笑顔で目に涙を貯め、必死に泣き崩れそうになる体を震えながら支えていた。

「!」

「保健室なら、1人で、行けるからっ」

バッ

そうして手を離すとそのまま更衣室へと走っていった。

「桃花!待って!」

その後を慌てて奈々子が追いかける。


残された玲奈は振り払われた手を見て沈黙にくれていた。

「、、、、、、、、。」


(巻き込みたくない、、、、)

(そう、思ったのに、、、、、)

(私、、間違えた、、、、?)


タッ

玲奈もそのまま踵を返すとプールを離れた。


『玲奈ちゃんっ!』

玲奈の脳裏に浮かぶのはいつも笑顔でかけてきてくれる桃花の姿。

そして今の悲しげな姿

『ごめんね。友達でもないのに色々世話焼いて、迷惑、かけて、ごめんねっ』



「、、、、、、、、。」

タッタッタッ



「バカ、、、、玲奈」

そんな玲奈の後ろ姿を見ながら柴乃が小さく呟くのだった。



ーーーーーーーー

ーーーーー


(バカみたい)

(バカみたい)

(バカみたい!!)


タオルで全身を包みながら桃花がどこへ行くでもなく逃げるように走っている。


(友達だと思ってたのは、ずっと、私だけだったんだ、、、、)


『友達になんてなったつもりないわ』

玲奈に言われた言葉を思い出し、桃花の悲しみはさらに強まる。

そして目からは涙が溢れ出した。

「ーっ、うっ」

「うううっ」


(玲奈ちゃんっ)



ーーーーーーーーー


点呼が終わり、全員が更衣室に入ったのを見送った後、教師は自身の放った水魔法を回収する。


ズズズズズ

ちゃぽん

プールへと手を伸ばすと水が循環し、そのままいつもの底のあるプールへと戻った。

そしてそれを見ながら教師は思うのだった。

(普通では出てこれないからテレポートの石を配ったのに、、、、)

(この子、私の水魔法の中をどうやって出てきたの?)

(あの子、、、何者、、、、?)

玲奈への疑問が教師にまで及び始めていたー。

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