第12話 私が望んだもの

キーーンコーーンカーーンコーーン


その場で立ちすくんだままの玲奈に授業開始のチャイムが鳴り響く。


「新入初日の魔法別授業をサボるとは、感心しねえなあ」

「ーっ!」

何処からともなく聞こえた声に玲奈が驚いた瞬間、

シュタッ

中等部の制服を着た男性が木の上から降りてくる。

(木の上から、、、、)

(全然気づかなかった)

立ち上がりニヤッと笑みを浮かべる男性はとても綺麗な顔立ちをしていた。

黒髪に深くかぶった黒のニット帽姿。右目の下には黒いスペード型のマークがついている。

「相楽だ!」

「罰則印の相楽だ」

「近づくな!殺されっぞ」

並木を挟んだ向こうの道で中等部の男子たちがその姿を見てコソコソと会話している。


「おいおい。聞こえてんだけどー」

気にしないというように軽い調子でその男性は声を上げた。

「やっべ!地獄耳かよ」

「逃げよーぜ」

たたたたた


「全く失礼な奴らだ。殺しなんてしねえっての」

慣れたというように呆れた声を上げる。

「、、、あなた、は?」

その様子をじぃと見ていた玲奈が声を出す。

「ん?俺か?俺は相楽 翼。つばさって書いてよく、な!中等部3年だ」

そう言えば名乗って無かったなと言わんばかりに明るい笑みを返してくれる。

(1つ年上、、、、)


「それにしてもお前さっきのはなかなかナイスだったぜ。」

「、、、?」

「新入早々上級生に刃向かうなんてさ」

二カッ

そう告げる翼の顔は凄く楽しそうだ。

「あれは、、、別に、、」

「気にすることないさ。ああいうバカにはあれぐらいしねえと懲りねえからな。丁度いい。俺もそうだったからな」

「、、、罰則印?」

「そ。これな。知ってたか」

そういい翼は右目したのスペードマークをトントン叩く。

罰則印。それはその名の通り罰則を破ったものにつけられる印のことである。

「まあ間違った事はしたと思ってないし、後悔もしていない。別に気にもしてないしな」

「、、、、、、、。」

「そーんな気落ちすることでもねえよ」

少し気落ちしたような玲奈の頭を翼はポンポンと叩く。

「それよりお前こんな所で何してんだ?マジでサボりか?」

ぶんぶん

玲奈は首を振る。

「、、、、、。」

「?」

黙り込んでしまった玲奈を不思議そうに翼が見つめる。



そして

事情説明ーーーー


「ほーー。何処でもいいって言われてどこに行くか悩んでたわけか」

こくん

玲奈は無言で頷く。

「そりゃねえわな。どこでもほど難しいもんはない」

「、、、、。」

「お前何の能力持ってんだ?」

「、、、、氷」

「ああ、そういやさっき水凍らせてたもんな。でもそれなら潜在魔法系、、、」

翼はその言葉を発した瞬間曇った玲奈の表情を見落とさず、全てを察したと言わんばかりに言葉を続けた。

「なるほど、、、」ボソッ

「そっか。わかった!」

パンッ

翼は拳を作ると手のひらにぶつけた。

「えっ?」

(まだ、何も、、、)


「俺んとこ来いよ」

「!!、、わっ」

そう言うとグイグイと玲奈の手を取って歩いていく。

「えっ?えっ?」

「人間誰しも言いたくねえことぐらいある。無理には聞かねえよ。言いたくなったら言いな」

「、、、、、。」

トクン

翼の根から出た言葉に思わず心が温かくなるのを感じる

(なんだろう)

(不思議、、、)

(この人になら何でも話せそうな気がする、、、。)



ーーーーーーーーーー


「さあ、着いたぜ!ここが俺達のクラスだ」

校舎内の大きな扉の前で2人は立ち止まった。

少しオロオロと目を泳がせている玲奈に翼は安心するように優しく声をかける。


「心配しなくてもここにいるやつらは謎だらけ秘密だらけの変わり者集団だ。でもその分この学園で一番仲間を大切にする。ある意味一番まともな奴らだ。さっきのお前みたいにな。」

「!」

「基本的時間も気にせず仲良くワイワイやってるだけだからきっと仲間が増えて喜ぶと思うぜ!」

「ここってもしかして、、、」

「そ。特別魔法クラスだ!ようこそ後輩!!」


扉を開けると外に大きく光が漏れる。

「ただいまー!帰ったぞー!今日は新入生を」

「翼!!!!」

「ぐふぉおお」

カコーーーン!!

扉を開けた瞬間、勢いよくバケツが翼の顔面に飛んできた。

直撃した翼はひっくり返る。

「今何時だと思ってんだ!!とっくにチャイムはなっただろうが!また木の上で昼寝でもしてたんじゃないだろうな!」

そこには男勝りな綺麗な女性が2人立っていた。

「、、、!!」

その目の前の光景に驚くと共に、目の前にいる顔が同じ2人の女性を見て絶句する。


(こ、こわ、、、い)

(それに同じ顔が、、、2人?)

「み、美雪、、」

ぷるぷると手を挙げ、その女性の名を呼ぶ翼は何とも情けない。

「ふんっ!」

「流石美雪ちゃん。翼をノスなんて朝飯前だね」

メガネをかけた男性が美雪の後ろから顔を出す。

「にゃろう、、、クソメガネ」

「失敬な。清水と呼んでくれるか」


「ん?」

視線に気づいたのか美雪が玲奈に気づく。

「可愛い子〜。この子だあれ?」

美雪がすこしかがみ、顔を近づける。

「!」

「だ、から、、言ったじゃねえか。新入生だって」

ムクっとフラフラしながらも翼が起き上がる。

「ーってぇ。こないだ中等部に転入してきた子だよ」


「「「「「新入生ーーーー!!!???」」」」

そこにいた全員が声を出して驚いた。

ビクッ

そのあまりの大きい声に玲奈は驚く。

「早く言いなさいよ!」

ゴツン

美雪は翼の頭にゲンコツを落とした。


「えーー??何年生?」

「中等部2年です」

「わあ!一個下だー!」

「本当可愛いー」

「綺麗な顔ーー」

「名前は?名前は何ていうの?」

次々といろいろな生徒が玲奈に駆け寄り話しかける。

「あ。そういや俺も名前聞いてねえわ」

「相っ変わらず抜けてるわねえ、あんた」

「うっせえ」

「痴話喧嘩は寄せ、熟年カップル!!」

「「誰がカップルだ!!」」

「、、、息ピッタリじゃねえか」


「で?で?名前は?」

「橘、玲奈です」

「わあー!!玲奈ちゃん?可愛い名前ー」

「玲奈ちゃんて呼んでいい?」

「、、、、は、はい」

「そんな固くならなくても大丈夫だよ!」

「そうだよー!とって食やしないって」

「ねえねえ!何の魔法使えるの?」

「あ、それ聞きたーい!」

「ここに来たって事はそれなりに珍しい魔法なのかな?」

「、、、、。」

皆の目線が集中し、答えを待っている。

「、、、、氷、、です。」

「氷?そんなに珍しくないね」

「どちらかと言うと潜在魔法、、、」

「、、、、。」

みんなの反応に言葉を失い、視線を伏せる玲奈を見て、生徒達は

「はいはーい!能力の話はここまでー」

「解ー散!」

パンパンと手を離し生徒達は散っていく。

「えっ?」

「ごめんね。嫌なこと聞いちゃって辛かったよね?」

「い、いえ、、、」

「言いたくなかったら言わなくていいからね」

「誰にだって話したくないことの1つや2つあるわよ」

「!」

思ってもみなかったその言葉に玲奈は言葉を失う。

どこへ行ってもとりあえずは何の魔法かを色々な手段を使ってでも聞こうとするのが当たり前だと諦めていたから。


「お前は1つや2つじゃねえよな」

「なにーーー?」

「ここに来た以上君はもうここの仲間の1人だってこと忘れんな!」

「そうそう。言いたくなったら言ってね!どんな能力でも私達は全然受け入れるから」

「welcome welcome」

「器が広いで有名なんだぜ、ここは」

「いつでも頼ってね」

「これから宜しくねー」


玲奈はそのクラスの光景、雰囲気にも驚きを隠せない。

あたたかい、だけではない。

みんな魔法も性格もバラバラなのに素で生きている。

媚びや嘘を感じない。

「な?言っただろ?心配ねえって。ここは仲間を家族同然に扱う。問題児も変人も多いがここは俺らに言わせりゃ最高の居場所さ。やりたいことも言いたいことも言える自由がモットーのクラスだからな!」

そんな玲奈の後から翼が声をかける。


『お前が望んだものはなんだ?』


(私が望んだもの、、、、)

玲奈の中にこれまでの記憶が蘇る。


『お父さんっ、、、お母さんっ、、、』

雨の降る廃墟の街を泣く泣く歩いていた。


『うわああああああん』

氷に包まれたそこで空に向かって泣き叫んだ。


『ばけものっ』

死ぬ間際の人が自分に向けてはなった言葉。


『温かい世界なんて私にはわからない』

闇をかけるもう1人の自分の姿ー。



(仲間、、、家族、、、、、)

(ありのままの私を、受け入れてくれる場所、、、)

(素の自分でいられる場所、、、)

(うるさくてもいい、、、、、、)

(賑やかで、、、、いい)


(やっとわかった、、、、)

(意識してみたらこんなにも簡単だった、、、)

(気づかなかったのは、私がそれに目をつぶっていたからなんだ、、、、)


(マスター、、、、、、、)

(ずっと私が望んでいたのは)

(温かい世界、なんだ、、、、)

「はい!」


(裏表のないこの人達が私の心に凍てついた氷を溶かしていってくれるみたい)



その喜びを噛みしめる姿を優しく見守ると翼は掛け声を上げる!

「さあ、新入生歓迎パーティーだぁ!!」

「おおおおおお!!!」


『きっとその選択が君にとっての第1歩になるよ』

(春賀先生、本当だね)

(私が動き出せば見える世界も変わるんだ、、、)



「変人バンザーイ!!」

「自由に生きてこそ生きる価値があるってもんだ。」

「ハハハハ」

机を並べ15人近くの生徒が席につき、飲み物やお菓子を食べて盛り上がる。

「さあ食べるぞー!!」

美雪が食べ物をとって食べ始める。

美雪と翼の間に挟まれた玲奈は先程からの疑問を口にする。

「美雪、先輩は双子なんですか?」

「ん?」

「まさか~違う違う!こんなのが2人もいたら世界終わっちゃうよ」

「黙ろっか。翼。そっかそういえば私達の能力言ってなかったね!私は分身魔法が使えるの?どっちか本物かわかる?」

「えっ、、、ええ?」

「おい!ずりいぞ!俺も魔法お披露目するぜ!」

「俺も俺もーー!!」

「私もー!!」

体を回して軽い竜巻を起こす魔法、言った天気を瞬間的にミニサイズで作り出す魔法、とりあえず物を回せる魔法など様々な魔法がお披露目された。

「ふふ、何の役にも立たない魔法かもしれないけど、みんな楽しそうでしょ?」

確かに皆ここではやりたいように楽しんで魔法を発揮している。

「、、、、はい!」

「じゃあ、俺も見せてやるかな」

「えっ?」

「クッキーいただき♡あーん」

ピタッ

向かいに座っていた男子生徒3人の動きが急に止まる。

「ちょっ!おい!翼何しやがる!!!」

「つるつるつるー!!!」

「ハハハ、お披露目だよ!」

「てっめええ!!」

玲奈は何が起こったのかわからず狼狽えている。

「ふふ。机の下見てみな」

「?」

机の下を見るものの何かよくわからない。

机の影がただ連なり、先輩質の脚があるだけである。

「へへー。俺は影使いの能力者だ」

「影?」

「相手の影を踏んで今みたいに動きを止めたり、それはもう色々」

「人間には絶対影があるからな。影さえあれば何でもできる!影あるところに俺がいるってな!」

「何それ、馬鹿じゃないの。」

「馬鹿とはなんだよ」

「ふふ」

玲奈は2人やクラスのみんなのやり取りを見て笑いをこぼす。

「「お?」」

すると玲奈は胸の前で両手を合わせ膨らませていく。

するとピカーと隙間から光が漏れ、手をゆっくりと開いた瞬間

氷で作られた薔薇が顔を出した。

「おおおお!!!」

「すげええ!!」

「バラだーー!!!」

「綺麗!!!」

「素敵ーー!!」

「氷の造形なんて凄いわ!」

「結晶みたい!」

次々と皆が氷の薔薇に注目し歓声を上げる。

それを見て玲奈は嬉しそうに氷魔法で氷の造形を作っていった。

「じゃ、じゃあさ次はさ次はさ、、、」

楽しそうに仲間の話の中に入る玲奈を翼は優しい瞳で見守っていた。


「楽しそうですね」

ふおおおおお

小さな竜巻が舞い、年齢のよくわからない男性が現れた。

「良かった。だいぶ慣れてきたみたいですね」

「!」

突然のことに玲奈は驚き、手を止める。

「しーちゃん!!」

「おお!!やっと帰ってきたか!」

みんなはよく知っているようでその男性を明るく歓迎する。

それを見て首をかしげる玲奈に翼が説明した。

「ああ。この人は椎名先生。愛称込めてみんな、しーちゃんって呼んでんだよ!この特魔の担当教員だ」

「ははは。どうもよろしく!」

「!」

(担当、教員、、、、)

(先生もいるんだ、、、、)

「しーちゃん今度はどんな時代見てきたのー?」

「聞きたい聞きたい!!!」

しーちゃんと呼ばれたその人はその愛称からもわかるように生徒達に愛されていた。

その光景を見て驚く玲奈に今度は美雪が説明を引き継ぐように話し出す。

「しーちゃんは時空間魔法の能力者なの」

「時空間、、、?」

「そ!いろんな時代へ飛んで、時を旅しているのよ。だから一度行ったらなかなか帰ってこないんだけど、こうして今に戻ってくると色々な話を聞かせてくれるんだ」

(凄い、、、)

玲奈は驚きとともにその特殊な魔法に少し興味も湧く。


「所謂ここのゆるキャラみたいなもんだな!皆しーちゃんには教師だとか気にせず何でも話してるし、要は特魔の象徴的存在だ。」

「ははは。それは嬉しい限りです。」

椎名はにこやかな笑みで翼の言葉を受け止めると玲奈に向き直る。

「玲奈さん」

「!、はい」

突然名前を呼ばれ、咄嗟に返事をしてしまう。

それを見てまたにこやかに微笑むと椎名は優しく告げた。

「ここは変わった子が多いと言われますが本当にみんないい子で温かいクラスです。どうぞ楽しんでください」

「!!ありがとうございます!よろしくお願いします!」

玲奈はそのまま頭を下げた。

「改めまして!特別魔法系クラスにようこそ!橘玲奈さん」

わあああああああああ


クラス中が熱気に包まれ、あたたかい世界が玲奈を包む。

(どこにしようか迷ってたけど)

(私、ここに決めた)

(このクラスで過ごしていく)

(初めて自分で決めた自分の居場所)


「あ、そういや俺たちまだ名乗ってなかった」

「あ、私らもだ!」

「でもこんな一気に言っても覚えられないよねー?」

「確かに」

アハハハハハ


(突如始まった学園生活)

(私はやっとこの学園に入って自分が自分でいられる居場所を見つけられた気がします)



ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー


暗闇の一室。

その奥座に座る人影が高等部の制服を着た男子生徒に尋ねる。

「あの子はどうしている?」

「学園にもだいぶ慣れてきたようでそれなりに楽しんでいるようです」

「そうか。じゃあまだお前達の存在は伏せておけ。、、もう少し、もう少し温もりを知らせてからこちらに戻す」

「、、、わかりました」

そう小さく了承すると男子生徒はその場から消えた。

「せいぜい今は楽しんでおくんだ。玲奈、、、」

頬杖をつくと意味深な笑みを浮かべるのだったー。

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