4章5節:沈黙の前線基地

 暴走。神装武具には少なからず発動する可能性がある。

 精神不安、逆境により力を求めすぎた結果等理由は人によって理由は異なり、理性が多少残ってる場合もあれば全く残っていない場合もある。

 だが総じて暴走した人は、人の成りをした化物と成り果てる。


「で、こうなるまで暴れる分けね」


 ディード達は目的地であった前線基地に到着していた。だが、迎え入れてくれる魔物も魔族もいない。

 そこは大小様々なクレーターが幾つもあり、至る所に魔物の死体が転がっていた。

 建物にも大小それぞれの穴が幾つも開いており、中も相当酷い事になっている事は容易に想像する事が出来た。

 何かが暴れた後。というに相応しい惨状となっていた。

 ギャスとリザ之助は信じられない。と言ったげな表情を浮かべていた。


「どうすっかねぇ。とりあえず中探すか。何かあるかもしれねぇ。アリス。日没までさほど時間がない。リザ助と一緒に外頼む」

「分かった。兄さん気をつけて」


 「わーってる」と返し、呆けているギャスのしっぽを掴んで中に入っていく。


「わっ!? 何するギャ!?」

「っは、掴まなきゃ掴まないで勝手に行くなとかほざくだろうが」

「そりゃそうギャ! っていうかしっぽ掴むなー!」


 言い合いをしながら中に入っていく彼らを見届け、アリスは周囲を見渡す。

 彼女はクレーターや建物の壊れ方に違和感を感じていた。壊され方やでき方が、横からの攻撃ではなく上からの攻撃によるもの。

 弧を描くように放てば可能だが、暴走している時に出来るのだろうか? 味方を、相棒を殺してしまうほどに錯乱している状態で。


「にしても、すごい有様ですね」

「暴走者は能力が底上げされているから、この程度は当然。って言ったら怒る?」

「いえ、怒りませんが」

「そっか。暴走者は加減も知らないし、する気もない。個体差はあるけど大抵生きてる者を見つければ殺すしね」


 アリスは周囲のクレーターと死体の状態を再度確認し始める。


「何度も相手取ってる風な口調ですね」

「してるし、殺してるし神装武具のコアも幾つも破壊してる」


 アリスは1人旅をしている時に偶然であった個体、学園に入って処理した個体。何体も何人も殺してきていた。暴走者だけじゃない。人や魔物を何人も何体も。

 戦闘が普通となり、生活の一部となり、感覚が麻痺していると思う節があった。


「そうなんですか。やっぱりお強いですね。あ、私も何か手伝いを」

「いやリザさんは周囲の警戒をお願い。それに辛いでしょ」


 外にあり確認できる死体のほとんどが、心臓もしくは頭を正確にうち貫かれていた。

 アリスは空を見上げるとこう呟く。


「空から狙ったか」


 砦の外壁に目線を向けるも、外壁には魔矢が当たったことによるクレーターがなかった。

 縮地と空雪を駆使し、一旦外に出て外壁を確認するも見当たらない。外壁内に戻り、建物の壁にも向けるが此方にも確認ができなかった。

 弧を描いて遠距離から攻撃したのならば、建物の壁や外壁にも同じく、魔矢によるクレーターの1つや2出来ていなければおかしい。


「アリスさん。1つ聞いてもいいですか?」

「ん? どうかした?」


 彼女はリザ之助に目線を向ける。


「怒るかもしれませんが、なぜ暴走するような神器を使ってるんですか?」

「・・・・・・私はリスクを承知で使ってるってだけ。宗近が無ければ死んでた場面もあったし、そもそもこれじゃないと大立ち回りしづらいからね」


 刀に目線を一旦落としこう続ける。


「私以外も、リスクを承知で使ってる人は勿論、神装武具にすがらないといけかった人。自分は暴走しないと慢心している人や暴走自体を知らない人、使ってる理由は様々だよ」


 そして、圧倒的に暴走しやすいのは慢心している人や存在を知らない人。

 一節によれば、神装武具の種類によっても変わるらしいが、詳しくは知らなかった。


「ありがとうございます。アリスさんは心もお強い人ですね。私は暴走する事を知っていたら怖くて使えないと思います。少なくとも今は使えないですし、これからも使えないと思います。私は弱い者ですから」


 そういうとリザ之助は愛想笑いを浮かべた。


「そうかな。リザさんなら此処ぞって時は使いそうだけど」

「私は臆病者ですから」


 彼は目線を落とし、黙りこける。


「リザさん、量産型は起動させといて」


 と言い残すと、外壁の上へと跳び上がり、物見まで跳び上がると周囲を見渡す。

 見渡した限りでは砦とその周辺のみが酷い有様であった。

 砦内部に視線を落とすと、やはり宿舎と思しき箇所への攻撃が重点的に行われていた。酷い箇所は建物の原型がないほどに。


『アリスさん』


 急に通信が飛び、リザ之助を急いで見る。


「どうかした!?」

『あ、いえ、ふと思ったんですけどこれって暴走するんですか?』


 安堵のため息を付き、こう答える。


「いや、しないよ」


 そして答えた時、ふとこれまで考えたこともなかった疑問が頭を過る。

 なぜ、暴走しないのか。なぜ、同じコアを使った代物なのに暴走しないのか。


『良かったです。これは安心して使えますね』

「え、あぁ、そうね」


 思わず、歯切れの悪い返事をしてしまう。

 リーチャが言っていた神装武具と、そうじゃない道具の違いもこの辺りが関係しているのだろうか。もっと根本的な違いがあるのではないだろか。一般的に考えられている"暴走しない"事は間違っているのではないか。と、考えるも答えは一向に出てこない。


 ゆっくり彼女に問いかけてみたいものの、今は会うことが叶わない。許されない。

 小さく舌打ちをすし呟いた。


「今は考えるだけ無駄か」


 顔をあげ、再び周囲を見渡すと微かに村があることを確認する事が出来た。


「ギリギリマーレント領・・・・・・かな。此処から2~3キロって所。リザさん村見つけた」

『村、ですか? あっ』


 彼もとある事に気がついた様な素振りが見えた。


「多分、襲われてる。兄さんも聞こえてるよね」

『ああ、聞こえてる。もうちょいしたら戻るからソレまで待っててくれ』

「分かった」


 生き残りが居るとは思えない。だが、万が一ということがある。

 彼女は物見から降りるとリザ之助の所まで歩いて行く。


「生き残ってる人、居るといいですね」

「うん。けど絶望的だと思う」


 この砦の有様を見れば、村に存在しているしれない自警団が相当強い。とかでなければ全滅は火を見るよりも明らかだった。

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