4章4節:処理依頼

 副会長に呼ばれ、リリーシャス達がついていくと行き先は生徒会室であった。

 扉が開かれ、大きなテーブルがあり、左側に会長、書記、会計。右側にクロードとシャローネが向き合う形で椅子に腰掛けていた。

 そして、会長は何やら書類を書いており、今回の話には参加しそうな雰囲気はなく、書記がいきなりこのような言葉を発する。


「俺、帰ってもいい?」

「・・・・・・ジベ先輩。雰囲気が台無しです」


 会計が呆れ声で対応する。


「いやだってさ? 俺、脳筋じゃん? 此処居てもどないしろと? 暴れろと?」

「はぁ、仕方ないですね。お供します!」

「よしきた」


 そう言いながら書記と会計が立ち上がる。


「ボコリますよ」


 低い声で言い放たれた副会長の言葉に、2人は無言のまま再び座り直す。慣れているのか、会長はこのやり時を聞いて静かに笑っていた。


「はぁ、おふた方は彼らの方に腰掛けてください」


 リリーシャス達は言われた通り、クロード達がいる右手の空いた椅子に腰掛ける。

 そして、此処に来た時からの疑問を口にする。


「レストさんは?」

「あの人は天才さんが受けている実地研修のお手伝いですよね。此方も重要ですので引き続きそちらに回って貰っています。ですので、今回はあなた方4人に受けてもらう事になります。必要でしたら手隙で話が通せる人員、26位のアレシアちゃん辺りに通しますけど、どうしましょう」


 会計から簡単な説明と提案が出される。


「そちらは今回の内容次第ですわね」


 とはいえ、先んじてあのような提案が出されると言う事は、相当面倒な事になっているのだろう。

 しかも元上位陣である人物のを寄越すと言う。嫌な予感しかしない。


「今から説明します」


 副会長は咳払いをし、説明を始める。

 今回の実地研修は12位、ミリー・リスコットの暴走体の処理。場所はBY-29地点、魔物軍の前線基地周辺。

 彼女と行動と共にしていた41位、リン・フェタは死亡。

同じく行動を共にしていた86位、ケイラ・ストレージは片腕を失った状態で帰還。しかし精神が不安定となり復帰は難しい状態となっている。


 なんとか聞き出せた情報によると、暴走体は中、遠距離は元より近距離にも対応し、防衛能力も高く、抗ったリン・フェタの攻撃をもろともしなかったとの事。特に右脇から生える3本目の腕と背中から生える羽には注意が必要。

 しかし、技量そのものは変わらずと言った所で魔矢の操作はほぼ不可能な点は一緒。


「こんな所ですが、リリーシャスさん。ホンの提案は受けますか?」


 リリーシャスは考えていた。

 彼女が扱っていたのは必中極装ひっちゅうごくそう-フェイルノート。能力として放たれた魔矢が相手の魔法能力を無効化するというもの。万能ではないが十分強い部類の神装武具。


 本来の彼女ならば、上位陣とはいえ此方は複数人。倒す事は自体は容易い。だが、暴走体となると話は別。特に限っては少し気になる所がある。


「・・・・・・受けますわ。といいますか、なぜわたくしに? クロードさんに聞くべきだと思うのですけど」

「あ、それは僕が提案したからね。リリーシャスに聞いた方がいいって」


 彼は優しい口調でゆっくりとそういった。


「えっ、クロードさん。貴男は曲がりなりにもわたくし達を束ねる立場ですのよ!?」

「でも、僕達の司令塔はリリー。君だよね。だから僕は僕より良き判断が出来る君に頼んだだけだよ」

「むっ・・・・・・」


 信頼されている。とも取れ丸投げされているとも取れる返答であった。

 性格から考えれば前者なのだが、よく勘違いされている要因でもある。


「分かりましたわ。では勝手に進めますわよ。他に手隙の方は? 例えばマルコスさん達。他にはフェイさん達を始めとしたフリーの上位陣や元上位陣の方々」


 此処で机に突っ伏して寝てしまった書記のいびきが聞こえ始める。


「何方も実地任務や養成中で無理ですねー。特に元上位陣と言いますか、2年は月1パーティーの準備や予定を開けるために出てる人が多いですから尚更居ません。動かせると言えば、先ほども言いましたけどアレシアちゃん。後はリアナちゃんや一応、ノエミちゃん。それとメソロトル3姉妹くらいですかねぇ」


 そう言いながら、会計であるホンは立ち上がり毛布を取り出すと寝ている書記に毛布をかける。

 追加で提示された人達は元上位陣もしくは現上位陣の5人。確かに出した条件には合致している。

 前者2人はリリーシャスでは舵取りができない。状況によってはシャローネでも無理だろう。


 3姉妹は、彼女たちが所属しているガーレットの連中とは不仲というより、いがみ合っている状態でお話にならない。2年のカネッサ・メソロトルならば協力でき、信頼もおけるのだがおいそれと派遣してくれるとも考えにくい。


「その辺りの人達は無理ですわね。リーチャさんは? あの子が居ればリアナさんとノエミさんが動かせますけど」

「今、5日ほど徹夜食らって寝込んでいるよ」


 書類を書き終わったのか背伸びをしながら生徒会長が答えた。


「何がありましたの!?」

「あの馬鹿・・・・・・フェイトに付き合わされて少々ね。後は分かるだろう?」


 情報部部長、フェイト・ステベフェス。大方、彼女に頼んで半強制的に一緒に、生徒の情報更新を行っていたのだろう。ということは彼女の側近2人も現在はベッドの上だろう。


「あーそれはご愁傷様としか言えませんわね」


 この調子だと恐らく情報部は現在崩壊しているだろう。恐らく、あの大量の負傷者は情報部の方々。


「それでノエミちゃんがブチ切れて、情報部に乗り込んで半殺しの山で処理が大変ですよ~。ほんと」


 彼女は現在謹慎処分を食らっているのであろう。だから、さきほど一応とついていたのだ。

 そして、生徒会も謁見や統制等々色々とやることが山積みで今回の件には出れない。


「全くもって予定調和としか言いようがありませんわね。分かりました、5人で行きましょうか」


 そう言うと、立ち上がる。


「チェック」

「むぅ!?」


 目線をシャローネとミラの声がした方に向けるとなんとチェスをしていた。


「ほんと、なんと言いますかマイペースと言うか。丸投げと言うか!!」


 その後、リリーシャスの雷が落ちると一行は生徒会室を後にした。

 1時間後正門前で集合とし、各自自室に戻って出発の準備に取り掛かる事となり、寮に歩を向ける。

 アレシアは出発時に合流予定と言う事になっていた。


 リリーシャスは項垂れながら寮に着き、自室の目の前に着くとドアを開け部屋に入る。内装は可愛く装飾された棚、2段ベッドと投射機にテーブルと小物が大量にあった。

 それとは別に、各部屋には簡易のキッチンとトイレが備え付けられており、お風呂は寮で共有。食堂もあり基本的には此方で食事を取る生徒が多い。

 基本的に1部屋で2人が住む事となっている。が、隣人が死亡した場合、新たな転入生が来たり、移動申請しなければ以後1人で卒業まで住む事となる。


 テーブルの上には1枚の紙が置かれており、「キッチンにチョコあるよ アイより」と書かれていた。

 それを見た彼女はディバインとケースを置き急いでキッチンに向かうと、綺麗にお皿に盛られたチョコレートを持って来る。


「ほんと気がきく~♪」


 上機嫌になった彼女はチョコレートを頬張りながら、作戦を考えていく。


──やはり様子見から入るべきでしょうね。まず、牽制はシャローネさんに、アレシア先輩とミラさんを組ませて潜ませる。わたくしとクロードさんで主に暴走ミリーさんの相手をして能力が分かってきた所でミラさん達を使って奇襲と挟撃を成立させつつ一気に、と行きたい所ですわね。細かい動きは後で詰めるとして。


 テーブルの前に据わると、紙を裏返し、こう書いていく。「退院早々また出ますわ。もうし分けありません。埋め合わせはまた後日。チョコレート美味しかったですわ。 リリーシャスより」と。


 リヴァインとケースを持ち上げ、部屋を後にし、その足でブラックスミスに寄りホルスターを受け取った。


「はえー・・・・・・リリーシャスちゃんも大変だねぇ」


 休憩に入っていたビアトリスにそう言われる。


「ほんとですわよ。このような飛び入りはごめん被りたいですわ」


 スカートをまくりホルスターを右足の太ももに着け、魔合弾を装填したライヒスを仕舞う。


「違和感ありません?」


 立ち上がって確認を取り「バッチリ」と答えが返ってくる。


「んじゃ、私はレストちゃんの作り直しに戻るね~」

「失敗しても構いませんわよ?」

「いや、それは私が怒られるから勘弁!」


 彼女と別れ、工房を後にし正門に向かった。

 正門には既にクロードが居り、何やら本を読んでいた。

 集中しているのか、リリーシャスが近づいても彼は気が付かなかった。


「何読んでますの?」


 本を覗き込むと、彼はびっくりし叫び声をあげた。


「って、なんだ、リリーか。びっくりしたよ」

「集中しすぎですわよー。で何ですの?」

「ああ、これは貴族方の資料って言えばいいのかな。根回ししとかないといけないからね。建前だけでも」


 彼は次期勇者候補の1人である。現在の勇者に就いている人は"代理"という形で武勇のみで決定され就いており、本来の勇者ではない。

 勇者は武勇、能力、家柄等で判断され、最終的に決定権があるのは上流貴族である。


 そのため大なり小なり根回しも必要となって来る。

 勇者候補はクロードを含み現在4名存在する。うち1人はハプスブルグ校に在籍しガーレットという青年だ。これが彼らといがみ合っている要因の1つでもある。


「あぁ、大変ですわねぇ。貴族とはいえ、期待もされない落ちこぼれは楽でとても良いですわよ」


 気が付くとリリーシャスは自分に対する皮肉を口にしていた。


「そう言うもんじゃ無いよ。僕達は頼ってる分けだし」

「と、言われましても事実ですし」

「事実じゃないね。落ちこぼれなら上位陣にいないだろう?」


 クロードは本を閉じる。


「何度も言ってますけど、あれはディヴァインのおかげで──」

「良い武器があっても使い手がダメなら弱い。使い手が良いなら強い。僕からみたらリリーは十分強いし落ちこぼれには到底見えない。まぁ、確かに素質に関して言えばないけどね」

「・・・・・・最後の一言が余計ですわね」

「ごめん」

「いえ、わたくしも今更あのようなことを言って、申し訳ありませんわ」


 2人は顔を見合わせると薄く笑う。

 その様子を観察する1人の女性がいた。

 気配と言うより、魔力反応でリリーシャスが気が付き、目線を送りこういう。


「で、アレシア先輩、いつまで見てるんですの?」

「えぇ!? いいから続けて! ささ、続けて!」


 メガネを掛けた女性が木の後ろに居り、そう叫ぶ。だが静寂が3人を襲い再びこう叫んだ。


「いいから続けてよぉ! もぉぉおおお!!!!」

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