4章6節:爪痕

 建物の中も外と変わらず惨事となっていた。

 至る所に攻撃による爪痕が伺える。

 「司令室とか何処だろ」と書かれ、「さぁな」と答えながらディードはギャスに目線を送る。


「ん、知ってるか? 見たいな目線送られても知らないギャよ?」

「はいはい」


 ダルそうにそう返すと食堂、爆発したのか吹き飛んでいる武器庫、休憩室の順で回っていくが特にこれと言った情報は得られなかった。が、ディードは死体が装備している弓と矢を拾っていた。


「それどうするギャ?」

「リザ之助に渡す。かさばろうが今は持たせてねぇと話にならん」


 ドアを開けようとするが、開かず蹴破り中に入る。

 すると、その部屋は作戦室のようだった。攻撃が激しかったのか部屋が穴だらけになっており、見受けられる資料も同様に穴だらけになっている物ばかりに見えた。とは言え、使えそうな情報があるかもしれないので、今にも床が抜けそうな箇所を半透明の壁で補強し物色を開始する。


 見つけた資料は順に周辺の環境、村の防衛状況、山賊と盗賊の出現状況、人間の学園生徒の撃退であった。

 周辺の環境は文字通りこの砦を中心として調べられる範囲の物であった。それにはアリスが言っていた主が病に倒れ荒れている地域に関しても少しばかり記されていた。無論、今回の事件に関して有益な物はなかったが、何やら魔物軍が介入してきている可能性があると言う記述があった。


 すると、アリス達の会話が通信機から聞こえた後、村を発見したと言われ適当に返すと資料に目を通していく。

 次に村の防衛状況だが、どうやら砦と村が中立地帯でないにも関わらず協力していたようである。次の盗賊、山賊の情報交流していたような記述といい、仲は良好であったようであった。


 最後に今回の事件に関わってくるだろう学園生徒の撃退。どうやら何度かちょっかいを出してきている連中がいたようだ。5人組でリーダー格がそれなりに強く、何名かが犠牲になったと書かれており、もし次同じ服を来た人を見つけたら、それなりの対応を取るとも記されていた。


 「あー、これミリーって人が割食った感じだよね」とスラが書き彼は肯定する。

 仮説ではあるが、恐らくこの5人組はアリスが通っていた学園の生徒で、今回暴走した生徒がこの付近の任務に来た際対応され、暴走した。と、考えられる。根本的な原因はこの5人組にあると考えて差し支えはないだろう。生憎と名前までは判明しなかった。


「ま、こんな所か。合流して村に行くぞ」


 建物を後にし、リザ之助に弓と矢を渡した後、得た情報を交換をしながら村へと向かう。


「つまり、その暴走してる奴は空飛べるって事か」

「だと思う。兄さんみたいに壁を足場にしてる可能性もあるけど」

「普通の奴はしねーだろ。ありゃ相当余裕がなけりゃ出来ねぇし」


 ディードが愛用している半透明の壁はごく一部の人間を除いて誰でも扱う事ができる。汎用性は非常に高いのだが、反面1枚事の防衛能力はさほど高くはなく、過負荷が大きい。場合によっては数枚も貼れば他の魔法が使えない者が出てしまう。更に別の防衛手段が取れる者はそちらの方が都合が良い場合が多い。そのため、魔力操作量に余裕があっても使わない者がほとんどであった。それを足場ためだけに使うなどと言った使用はあまりされない。

 そして、ディードはその壁を幾重にも発現させられるほどに魔力操作量も魔力量もが高かった。


「で、アリス。俺の言った5人組は誰か分かるか?」

「分からない。5人組ってだけでも幾つかあるし」

「どちらにしろいい迷惑ギャ」


 と、言うギャスに対し「同感」とスラは同調しこう続けて書いた。

 「今思ったんだけどその暴走者はどこにいったのかな?」


「此処から離れたか、力を使いすぎて休んでるのどちらかだと思う。私個人的な意見だと後者の方が可能性が高そう」

「では、此処から一刻も早く離れた方がいいのでは?」

「それはどうだろうな」


 リザ之助の提案に対し、ディードが何色を示し理由を肉付けするようにスラが「離れた先で出会うかもしれないし、そもそも逆に此処に居たほうが安全かもしれない。どちらにしても、今夜は動くべきじゃないと思う」と書いた。

 太陽は傾き、もう1時間から2時間もすれば暮れてしまうだろう。


「夜は動かない方がいいのは同感だけど恐らく、学園から誰か処理をしに来るだろうから、明日の朝には移動した方が良いと思う。運が良ければ押し付けて私達は無事逃げれる分けだし」


 「それじゃぁ、移動は確定だね。彼処の人無駄に強いし」と書かれアリスを除いた3人は「同感」と同時に答えた。

 森の近くに形成されている村が見え初め、目に入ってくる家屋のほとんどが半壊ないし全壊していた。


「まぁ、当然だよね。先行こうか?」

「いんや、一応まとまっていこう。リザ助は着いたら適当な家で夕飯頼む」

「分かりました。こんな時ですけど、今夜はグリフォンの肉を使いますよ」

「おう、了解」

「・・・・・・何処に行ってもリザ之助は調理担当ギャね」


 最後にギャスがそう呟き別れて村の探索に入る。

 砦同様此方も家屋のほとんどが壊され、死体も同様にほとんどが1撃で仕留められていた。

 幾つかの家を見て回るが、生存者が居るような気配は全く無かった。


「こりゃひでぇな。砦より攻撃受けてないか?」

 ディードがそういうと「向こうはなんだかんだ防いだりしてたかも?」とスラに返される。


「あーそれもあるか。そういやギャス」


 と頭の上に乗っているギャスに話しかける。彼の頭は気が付いたら奴の定位置となっていた。


「何ギャ?」

「お前、リザ助と付き合い長いのか?」

 黒焦げになったドアを蹴破りながら問いかける。

「そうギャね~。リザ之助とは1年くらいだギャね。他の連中は出会って次の日にあの世だったギャ」


 他の連中と言われディードは誰の事かと数秒考えてしまった。初めてあった時にもう2体魔物が居て、更に出会う前に1体死んでいたという事を思い出す。


「んで、私とリザ之助は組んで色々な所点々としてたギャけど、まぁ何処に行っても調理担当だったギャねぇ。美味しいから仕方ないかもしれないギャけど」


 1通り物色した後、民家を後にする。


「ほ~。リザ助、本当か?」


 と、密かに入れていた通信機を通して問いかける。


『本当ですよ~』

「おう、そうか。さんきゅー」

「・・・・・・無茶苦茶心外なんだけど」


 ギャスはふくれっ面になる。


「はっはっは、そう怒るな」


 周囲を見渡しながら半壊している民家に踏み込もうとした時、微かに魔力を感じた。


「・・・・・・スラ、戦闘準備はしとけ」


 「了解」と書かれ、彼はハルバードを生成すると魔力反応がするベッドに歩を向ける。


「此処だな」

「なんか、臭くないかギャ?」

「確かに」


 答えた彼の眉のシワが寄り、ベッドを蹴り上げる。と同時に小汚い何かが飛び出して逃げ出した。

 ソレが逃げる先に壁を貼ると、ぶつかりその場に尻もちをつく。


「女・・・・・・の子だな。スラ、警戒はまだ頼む」


 ハルバードを仕舞いながら近寄る。

 よく見ると、少女は小汚いなんてものじゃなく、下半身に至っては汚物にまみれていた。

 それを見たディードの顔が引きつる。


「あ"ーまじかよ。アリス、生存者がいたんだが此方来てもらえるか? 女の子で着替えさせたいんだが」

「・・・・・・るな」


 通信を飛ばし、アリスを呼んでいると少女が立ちながら何か呟いた。


「おう?」

「近寄るな、近寄るなアァァ!!!」


 急に叫んだ少女の瞳が赤く光った。すると、少女から魔力の衝撃波が発生しディード達を襲った。

 咄嗟に半透明の壁を生成し防衛行動に移るが、衝撃波は壁をすり抜け、彼の身体に到達する。


──んなっ、まじかよ!?


 彼は吹き飛ばされ、先ほど少女がいた家屋の壁にぶつかり、ソレは破壊され煙をあげながら崩れる。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」


 少女の瞳は元に戻り衝撃波が消えると、意識を失いその場に倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る