訓練

次の日の朝、早速俺たちはこの国の騎士団長と魔術師団長と共に訓練を始めた。

騎士団長と魔術師団長の名前はそれぞれ、クレア・サンテミリオンとグラン・ヴァリアー。

二人共レベルは90後半で今の俺らでは到底勝てないだろう。

皆それぞれが魔法組と戦士組に分かれて訓練を始める。

ちなみに俺は戦士組だ。

俺の魔法がばれたら即ゲームオーバーだし、職業は禍々しいけど有り得ない職業ではなかった。

俺の職業『死騎士(デスナイト)』は、光の攻撃に対して耐性が低いが闇の攻撃に対して絶対的な耐性を持ち、自分が光の攻撃を使えない代わりに闇の攻撃の威力が5倍という、ある意味チートな職業だ。

俺は魔法を人前で使うわけにはいかないため、戦士組に入って攻撃スキルを覚えて強くなりつつ、夜に森にでも入って魔法の訓練をする。

これが、ひとまずの計画だ。

と、ここでクレアさんから話があった


「今日から君達の教官を務めることになった、クレア・サンテミリオンだ。君達は主に前衛で敵の攻撃を受け止めながら中衛で攻撃をする。前衛がいなければ皆が大きなダメージを受け、中衛がいなければ決定打を与えられない。少しでもズレれば実戦では死に直結する。そうならないためにも、私は君達を厳しく指導していく。それでは、始めようか!」


まず俺たちは基本的な立ち回りや、筋力トレーニングなどをした。

その後グランさんが城に戻り、俺たちはクレアさんに全員集められ、ある訓練をした。

それは、魂の奥底に眠る武器を呼び出すというものだ。


「これは、『神器顕現』というものだ。神器はそれぞれが違う形や能力を持っていて、精神の強さや本質によって進化する。いわば、自分の本性だ。例えば私の神器はこれだ…【召喚(サモン)‼滅竜剣バルムンク‼】」


すると、クレアさんの体から魔力が勢いよく吹き出し、やがて右手に集まり剣となった。

気付くと彼女の右手には一振りの剣が握られていた。

剣身は淡い紅色で握りから鍔にかけて赤い竜が巻き付いているおり、竜の額には十字架が刻まれている。

まさに「滅竜剣」だ。


「まずは、自分の魔力の流れを見つけろ。見つけたら流れを辿って魔力の元を探すんだ。」


とりあえずやってみる。

まずは、身体の奥に意識を向ける。

すると血液のように身体をめぐっている流れを見つけた。

そこから、さらに深いところへ意識を向けると心臓のように鼓動している、何かを見つけた。


「そしたら、心の中でこう唱える。『我が魂に告げる!我の喜びは汝の喜び!我の怒りは汝の怒り!汝!我が召喚に答えよ!』そうすれば自分の神器の姿と名前がわかる」


するとすぐに近くで大勢の驚く声が聞こえた。

碧山達だ。

どうやら、碧山が聖剣エクスカリバー、緑間が聖斧ミョルニル、赤城が聖杖ケリュケイオン、紫原が聖刀アスカロンをそれぞれ顕現したらしい。

これは、伝説の初代勇者達の神器を上回る力だとクレアさんが言っている。

いかにも「勇者とその仲間」って感じだ。

周りが興奮しすぎてとても煩い。

俺は周りの音をシャットダウンして鼓動する何かに呼びかける。

すると内から黒い魔力が溢れ出した。

溢れ出た魔力は目の前で蠢きながら集まり、自分の身長程もある二振りの片刃の長剣となった。

刀よりも厚みがあり、普通の長剣の何倍も鋭い。

片方の剣身は鈍く光を反射する漆黒で刃が手前に向かってノコギリのように小さな刃が無数にある。

斬るというより削るとか抉るという感じだ。

真ん中には亀裂のようなヒビがあり紅い光が炎のように揺れている。

鍔と握りは黒く、鎖が巻き付いている。

もう片方の剣は造りは変わらないが、剣身が血のように紅くヒビからは光を吸い込むほどの闇が渦巻いていた。

完全に顕現したにもかかわらず溢れ出る魔力は剣身から次から次へと滲み出て止まりそうもない。


「なんだありゃ⁉」「おい、あいつおかしくねぇか?」「なんか目の色変わってない?」「うわマジだ真っ赤じゃねぇか!」「白目も黒くなってる~」


どうやら俺の外見が変わっているらしい。

これでまた怖がられるな…まぁ、秘密がある俺にとっては邪魔はいないほうがいいだろう。

決して!決して!悲しくない!!悲しくないからな‼

俺が心の中で泣いて(?)いると、クレアさん凄い形相で向かってきた。


「お、おい!お前!な、名前は何という?」


「黒木幸助です」


「よ、よしコウスケ。それはお前の神器か?」


「そうですけど?」


「その神器の名前は分かるか?」


「えーっと…黒いほうが『絶剣ヴェンデッタ』紅いほうが『死剣リベリオン』。意味は、復讐と反逆ですね。」


「なにか身体に異常はあるか?」


「特にありません。」


「そ、そうか…ならいいんだ…」


「はぁ…分かりました。」


クレアさんはそのあと何も言わずに城に戻っていった。


心に途轍もない恐怖を抱いて…。


—――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なぁ駿一…お前何かわかったか?さっきの黒木の神器について」


「分からない。…ただ巨大な力を感じたよ。あれは僕らの神器と同等かそれ以上だ」


「俺もそう思う。だが俺はそれ以上に何かを感じたぜ…」


「あたしも。あれはたぶん恐怖とか絶望とかの感情だよ」


「私は恐怖とかよりももっと大きいものを感じたわ。あれはきっと『憎悪』よ」


「俺らの精神力を削るって…どんだけでけぇ感情だよ」


「コウちゃん、なにか過去に何か辛いことがあったのかなぁ?それとも、このクラスに何か恨みが有るとか?とにかく怖かったよ。…でもなにか力になりたいな」


「とにかく今後は黒木の行動には注意しつつ、あまり刺激はしないようにしよう。特に凛。あまり黒木にかかわるなよ?」



「おう」


「…」


「ええ」


「分ったかい、凛?」


「…うん」


(……コウちゃん…一体どうしちゃったの?…)





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