第5話 夏服

体育館の前を通ると木とワックスの良い香りがした。

グラウンドの桜はいつのまにか散っていてグリーンの葉がしげっている。

僕はウミノを探したがここにはいなかった。

陸上部が中距離の練習をしている。


ネットでは、ある男性芸能人が実はアンドロイドではないかと疑惑で持ち切りだ。

いや違うだろう。

まてよ、もしかして。

いやいやコストが合わない。

そもそも男性型アンドロイドは生産数が少ない。

だから非常に高価である。

それに対して女性型アンドロイドは社会のあらゆる分野で進出している。

会社の受付窓口、介護、医療などなど。

しかし主なけん引役はセクシャル産業での利用だった。

たくさん売れれば量産によりコストダウンできる。

そしてさらに女性型アンドロイドが安く売れるようになる仕組みだ。

しかし男性型の売れ行きは厳しかった。

いくらイケメンで筋肉ムキムキでも職種は限られる。

軍事産業なら、いっそサイボーグにしたほうが安価だった。

女性型なら人間の女性も介護される時、羞恥心が少なくて安心だ。

結局、男性型アンドロイドはニッチな建設現場などで使われている。

まず高所作業など重量制限がある作業現場。

そして人間の工具などがすぐ使える人型をしていること。

それらの需要を満たすのが男性型アンドロイドだ。

だから格別に危険な特殊作業などで使われている。


街に男性型アンドロイドが歩いていないのは、もうひとつ政策的理由がある。

アンドロイドと人間の女性が恋をすると少子化につながるからだ。

男性型アンドロイドも生殖機能が制限されている。

だから人間の女性との間に子をもうけることは不可能だ。

そこで世界中の国家が男性型アンドロイドに規制を設けている。


男性型アンドロイドが少ない理由がさらにある。

もうひとつ噂で聞いた話だが。

筋肉や骨格の強度の問題だ。

ほっそりとしたアンドロイドでも男性型は女性型とは違う。

細い筋肉でも大きな出力があり骨も頑丈だ。

もしもアンドロイドが暴走して人間を襲った時、男性型は制圧しにくい。

リミッターを外して暴れた場合、男性型を取り押さえるには警官数人が必要である。

女性型の場合は警官ひとりでも制圧が可能だ。

だからどちらでも良い場合、企業は女性型アンドロイドを使用する。


校舎に戻ると教室の中に白い夏服のウミノが見えた。

ウミノは僕のクラスの男子と親しげに話をしていた。

顔をグイグイと近づけながら。



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