第8話 無垢

 私は黒髪をうしろでまとめて、ヘアゴムで留めた。お店のシャッターを開け、エプロンを着て、空を見上げる。伸びをして、爽やかな朝の空気で肺を満たす。


「おはよう、ハルちゃん」


 ウォーキング中のおじいさんが、今日もかすれ声で私に挨拶をしてくれる。私も元気いっぱいに「おはよう」と返事をする。


 また、新しい一日が始まる。清々しい気持ちが胸を満たす。



 店頭で花の個数を数えていると、私を呼ぶ声がした。振り返れば、相変わらず黒一色の、私の愛する人がそこにいた。彼はわけもなく笑い、つられて私も笑う。


 日々は忙しなく過ぎてゆくけれど、変わらないものがそこにある。私たちは深い絆で結ばれている。そんな私たちを見守るように、白いバラが風に揺れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

innocence @SUMEN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ