第二十回 ニート(座敷童)

「ははは……」

「あれ? 座敷童ちゃん? どうしました?」

「ほら、これ。お便りの中に紛れてた」

「あれ? お便りじゃないですね。ご意見ご感想ですか? いつ紛れたのでしょう」

「いいじゃん。これ、面白いよ。最近の放送は反響がいいみたいだね」

「そうですね。先週の八咫烏さんの食べ物系の話は共感や納得の声もありました」

「へぇ、そうなんだ」

「逆に一緒に仕事をしていて気づかないのはおかしいというご意見もありました」

「ははは、だよね。あれだけ違ったら気づきそうだからね」

「あとは先々週の座敷童ちゃんのお金の使い方も感触は良かったですよ」

「あ、本当に? 嬉しいな」

「それと昨日の大天狗様は夫婦間を心配する声が続出でした」

「大天狗はねぇ、治らないね。あれは不治の病だよ」

「不治の病ですか。納得です」

「まぁ、また贈り物をする記念日が増えてひとまず鎮火って感じかな?」

「天狗としての地位は大天狗様の方が上なのに、女天狗様の方が大人ですよね」

「うんうん、それはあの夫婦を見たことがある全員が思っている」

「夫婦のパワーバランスが取れていて女天狗様が納得しているのなら私はいいと思います」

「まぁ、夫婦の問題は当事者達が解決するしかないからね」

「はい。では大天狗様の安否はひとまず置いておくとして、お便りにいきましょうか」

「うん。どうぞー」

「えー、ラジオネーム『永世自宅専属警備員』さん」

「え? なに、その名前」

「嫌な雰囲気がひしひしと伝わってきますね」

「……別のお便りに変えない?」

「いや、一応手にとったものは読もうと思っています」

「あ、そう……じゃあ、どうぞ……」

「戸惑いがすごいですね。えー『初めてお便りを出します。僕は学生時代から今までいい思い出はありません。いじめられたこともあったし、なんとか就職できた会社でも毎日苦しくて辞めてしまいました。今は自宅に引きこもって滅多に外を出歩きません』」

「辞めてしまいました、って書いてあるところを見るとまだ手遅れな感じはしないよね?」

「そうですね。『僕は自分自身がダメな人間だということはわかっています。ですが世の中に適応して生きていくことはできそうにありません。いわゆる社会不適合者というものなのだと思います。今は食べさせてくれている親の身に何かが起こることを毎日おびえながらゲームをし続ける日々です』」

「えっと、どう反応すればいいの?」

「私もよくわかりません。『こんな僕ですがやはり親孝行とかも考えますし、生きていくのにお金が必要だということもわかります。だから座敷童さんにお願いがあります。座敷童さんの幸運の力で僕に宝くじの一等をください。できれば三回くらい一等が当たって欲しいです。そうすれば僕も死ぬまで安泰だと思いますので、お願いします』だ、そうです」

「は? え?」

「あー……その反応は至極真っ当だと思います」

「これって何かのネタ?」

「そう思いたいですがお便りだけでは判断できません」

「親孝行したい、死ぬまで安泰がいい、だから宝くじってふざけんなっ!」

「しかも一等を三回ですからね」

「もし本当だったらこいつ人生なめてるよ!」

「自分はゲームして遊びながら宝くじ一等が三回当たるって夢物語ですね」

「こいつには絶対幸運なんか届けてやんないから!」

「座敷童としてどうなのかよくわかりませんが、人間から見ればその意見に同意です」

「過去に色々あったかもしれないけど、思うところがあるなら行動しないとダメだよ」

「もうダメになっていると言ってもいいかもしれませんよ」

「まぁ、そうなんだけど、この人これからどうやって生きていくつもりなの?」

「ひとまず親が存命の間は食べさせて貰うつもりじゃないでしょうか?」

「それで? 親の収入が減ったり親がいなくなったりした後は?」

「普通に考えれば行政の生活保護とかでしょうか?」

「えーっ! こんなやつに税金使うの?」

「生活保護に関しては様々な意見はありますからね。これも論点の一つでしょう」

「うーん、納得いかない」

「ですが外出すらしなくなった人は生活保護の申請にすら行けないかもしれませんよ」

「え? 外出すらできない?」

「家の外へ出るのが億劫になったり恐怖を感じたりするらしいです」

「精神病の類いなの?」

「外出恐怖症とかはあるかもしれませんね。その詳しくないのでよくわかりませんけど」

「ふーん、現代には色々あるんだね」

「対人恐怖症の可能性もありますから、行政に相談の電話もできないかもしれませんね」

「え? じゃあ親がいなくなったりしたらどうなるの?」

「そのまま家の中で食べるものがなくなって餓死するというケースが年に何件かあります」

「ちょっと歩けばコンビニとかあって食べるものがたくさんあるのに……」

「外に出られませんからね」

「うーん……なんだかなぁ……」

「精神病の類いは最近種類が増えましたからね。長生きしていると聞き慣れませんよ」

「外出恐怖症なんて初めて聞いた」

「一部で精神科医達のために病気の一康類を増やしたっていう陰謀論もありますよ」

「え? 本当に?」

「あくまで陰謀論です。研究が進んだことも大きな要因ですよ」

「あーっ! わけわかんなくなってきた」

「昔じゃ考えられないことも今は普通にありますからね」

「この『永世自宅専属警備員』が本当に苦しんでいるなら手助けできれば、って思うよ」

「宝くじが当たるようにしてあげるんですか?」

「いや、そもそも宝くじをこいつは買いに行かないんでしょ?」

「外出しない人ですからね」

「じゃあどうしようもないよね。何かを変えるには行動を起こさなきゃいけないんだから」

「確かに、じっと座っているだけで大金が転がり込んでくるなんてことはありませんね」

「落ちているお金を見つけたり拾ったりするのにも動かなきゃダメだからね」

「そうですね、ただし拾得物横領の罪になるので警察には届けましょう」

「それ、罪になるの?」

「はい、なりますよ」

「それ、指摘するの?」

「はい、法律ですから」

「……細かいね」

「さすがにリスナーの方々から犯罪者を出すわけにはいきませんから」

「昔はそのあたりは拾った当人次第だったんだけどなぁ」

「そうなんですか?」

「そうだよ」

「どれくらい昔の話ですか?」

「んー……江戸時代に入ってたかどうか……」

「あ、もういいです」

「え? いや、聞いたよね?」

「昔すぎですよ。参考になりません」

「もー、拾ったものを当人に返すのがいいのはわかるけどさ」

「その拾得物が世界で一番落とした人に返ってくる国が日本ですよ」

「……え? そうなの?」

「そうですよ」

「……みんなっ! 落とし物を拾ったら警察へ届けるんだよ!」

「それ、小学校ですでに教わってます」

「いやぁ、現代人もいいね」

「座敷童ちゃん、すごい手のひら返ししてません?」

「うん、今日は現代人の良さについて新発見だったよ」

「そうですか? ではその流れで『永世自宅専属警備員』さんに何か一言お願いします」

「え? えー、そうだね。ひとまず外に出ないと始まらないよ」

「確かに引きこもっていてはダメですね」

「仕事じゃなくて、散歩からでもいいから外に出るようにしよう」

「用事が無いと外出してはいけないってことはありませんから、それはいい提案ですね」

「それで外に出ることができるようになったら、仕事をして、そこから親孝行だよ」

「親孝行ができればきっとご両親も喜んでくれると思いますよ」

「宝くじを当てにしないで一歩ずつ進んで行くこと、以上っ!」

「はい、座敷童ちゃん、ありがとうございます」

「何か言えって言われてもこれが限界……」

「ですね。えー、『永世自宅専属警備員』さんもありがとうございました」

「次は親孝行できたってお便りが来ると嬉しいよ」

「そうですね。では次のお便りです」

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