第8話

スタップディアー…。


見た目、なかなかでっかい牡鹿さんですね。

体長は2mは越えますでしょうか。

見慣れたニホンジカよか大きくて、ヘラジカよか小さいくらいかな?


そして一番の特徴はその立派な角です。


アレ、もう騎乗槍と言ってもいいですよね?

ほら、中世の騎士さんが馬に乗って持ってるアレですよ。

それが頭の左右から生え、ズンと前に延びています。

先端もかなり尖っていて、あんなのに貫かれたら、一発で大穴が開いてしますね。


「イナリちゃんは後ろに控えて、タレントで掩護してもらえますか?」

「…コン?」

え?大丈夫なのかって?

心配してくれるなんて、イナリちゃんでば、なんて優しいコなんでしょう!


まあ無理そうなら、全力で逃げるまでです。

とりあえず様子見なので、安心して下さいね。


という訳で、イナリちゃんは後ろにある木の上に登ってもらい、そこから掩護と他のモンスターが現れないか警戒をしてもらいます。


―さて、初戦闘といきましょう!


ちなみにモンスターでも人でも、敵対(つまり戦闘)状態になると、相手と自分らの頭上にHPとMPのバーが出現します。

ダメージを受ければHPが減り、魔法や一部のタレントを使用すればMPのバーが減ってゆきます。


そしてHPバーが無くなれば、ゲームオーバーとなる訳です。

この辺はどこぞかのRPGと変わりません。

なんのヒネリもありませんね。


「ヒィィンッ!」


おっと!

鹿さんが斜面を駆け降り、真っ直ぐこっちに突っ込んできました!


槍を『中』に構え、左足を半身にして出し、軽く腰を下ろします。


―ビュオッ!


むっ!3mほど近づいて来た所から、急加速してきました。


…が、動きは直線的ですね。

危なげ無く槍の柄で角をいなします。

ついでに隙が見えたので、角に触れた瞬間、少し柄に力を込め、鹿さんの体勢を崩してみます。


「キュアッ?!」


ふむ、思ったより鹿さんは体勢を崩しましたね。

では…。


「はあっ!」

「ヒイイイッー?!」


振り返り際、鹿さんの脚を払いました。

鹿さんは突っ込んで来た力をまだ止められていない所に体勢を崩され、更に足払いを受けて、ドウと頭から倒れてしまいました。


「ふっ!」

―ドッ!

「ヒッ…。」


倒れた喉元に、鋭く突きをいれます。

その瞬間、鹿さんのHPバーが一気に減り、最後にバー自体が無くなります。

そしてバーが消えた後に、ドクロマークが鹿さんの上に現れました。


つまり、スタップディアーを倒せたみたいですね。


…ふむ、この鹿さん、力こそ『普通の』牡鹿より強いですが、私が対処出来ない程では無いようです。

これならなんとか戦闘でもやっていけそうですね。


…まあモフモフモンスターを手にかけたのは、少し心が痛みましたが、こればかりは仕方がありません。


「コン!コンッ!!」


おお、イナリちゃん、木からまた私の肩に戻ってきて、『スゴい、スゴいー!』って感激してくれました。

そんでもって、スリスリしてくれます。


「コン……。」

え?

でもぜんぜんサポートが出来なかった、ですか?

いやいや、そんな事で落ち込まなくていいですよ!

第一、うまい具合に一撃で倒せましたしね。


もうこうね、スリスリしてくれるだけでも充分なんですから!


それにこれからは複数のモンスターが現れたり、一撃では倒れないモンスターも出てくるでしょう。

そんな時こそ、イナリちゃんに頑張ってもらいますからね!


「コーン!」

うん、がんばる!って、もう…なんて可愛いのでしょう!たまりません!


―おおっとお!

いますぐイナリちゃんをモフりたい所ですが、そうも言ってられません。


倒したスタップディアーから、素材を『剥ぎ取り』しないとね!

『剥ぎ取り』は、時間が経てば経つほど回収できる素材が減ってくるのです。

最終、放っておくと、倒したモンスターが消えてしまうんですよ。


私は剥ぎ取り用のナイフを取り出し、倒した鹿さんに刃を入れます。

―ちなみにこのナイフ自体の質や剥ぎ取り方法、タレントのサポートなんかで、手に入る素材の質や量が変わってきます。

職業(ジョブ)なんかにも、この剥ぎ取り専門の"解体屋"なんかもあるそうです。


まあ私は、当然そんな便利なジョブを持ってませんしね。

持ってるナイフも初心者用のナイフです。


ただ動物の解体作業については、少しばかり知識と経験があるつもりです。


これに関しては教えてくれたクソジジ―おっと、失礼…祖父に、少しばかりは感謝してやっても構わないかもしれない気が、もしかしたらあるかもしれません。

……いえ、やっぱり無いですね。


鹿の解体は何度もしたことがあるので、半ば流れ作業の様に進めていきます。

…本当なら、現場では血抜きだけしっかりとして、持ち帰ってから解体をするんですけどね。


―ポワン…。


解体作業の途中で、間延びた音と一緒に鹿の身体が薄い煙に包まれました。


「おおー、こんな風にアイテム化するんですね。」


煙が消えると、そこにはもう鹿さんの身体は無く、幾つかの…うんそうですね、幾つかのアイテムがその場に在りました。

ひとまず〔発見〕のタレントで確認してみましょう。


【土魔石(微)】× 1

【土魔石(小)】× 1


【モンスターの骨(小)】× 2

【スタップディアーの骨(大)】× 1

【モンスターの毛皮(大)】× 1

【スタップディアーの肉(30kg)】× 1


……お肉が30kgて…。

これ、村まで担いで持って帰らないといけないんですよね…?

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