第6話

めでたくウチのコ、第1号は、イナリちゃんと命名相成りました!

『イナリ』と言う名前が余程気に入ってくれたようでして、コンコンと私の周りをグルグル駆け回ってくれました。

ああ、可愛い。


…まあ余りの可愛いさにイナリちゃんとじゃれあってたら、ロッソさんからまたチョップをもらってしまいました。

でも、やっぱり可愛いから仕方ないですよね!


さてとりあえずイナリちゃんから積年のモフモフ成分を少しは補充出来ましたので、そろそろ冒険へ出発しようかと思います。

―あ、もちろんモフモフはまだまだ補充し足りないので、帰ってきてからもっと撫でくりさせてもらいたいんですけどね!


さて、冒険に出発!といきたい所でしたが、村の外に出るのに何の準備もまだだったのに気が付きました。


ロッソさんにまた呆れられながらも、初期装備を揃えるのにも付き合って頂きましたよ。


なにせこの初対面印象ブレイカー(←日本の友人の命名です)な顔ですからねー。

お店の人にも、ロッソさんからの顔つなぎはとても助かりましたよ。

この人が居なかったら、きっとビビられてマトモに買い物が出来なかったですからねー。


いやロッソさん、マジいい人です。


ちなみにお店は、今いるこの広場の周りで全てです。

ロッソさんにぐるっと回る感じで一件一件、紹介してもらいました。


まず傷を直す【薬草】や【毒消草】は、なんとこの村では八百屋さんで売っていました(笑)。

店のお婆さんによれば、たまにおかずの薬味(文字通りですね!)なんかにも使われるそうです。


因みに本当の薬であるポーションの類いは、それを使う様な機会がほとんど無いため、各家庭に1本程が常備されているので充分なんだそうです。


あとこのお店のお婆さんが、初対面で私を野盗扱いして逃げたしたドレン爺さんの奥さんでした。

『うちの主人が済まないことをしたねー』といって、少しおマケしてもらえました。


つぎに道具屋さんでフィールドでの採取に使う道具、火付け道具、夜になった時なんかの灯り用のランタン、そういった物を入れるリュック―といった、冒険につかう一般的なアイテムを購入しました。


その次は服屋さんです。

このお店では雨具代りのマントや着替えの衣服(このゲームでは、ちゃんと着替えて洗濯しないと不潔になります!)、ブーツや籠手代りの革手袋などもそうですが、革の鎧まで置いてありましたよ。


私のビーストマスター職は革鎧までしか装備できないので、ここで防具を購入することになりました。

まあ革鎧といっても大まかなサイズごとに数着しかないので、どんなものにするか悩む必要もなかったです。

ビミョーに大きめだったんですが、ベルトで締めれば問題なしのレベルです。


どうやら金属系の鎧でないものは、この村では服屋さんが扱っているようなんです。


八百屋さんといい、とんだローカルルールですね。


さて最後に武器屋です!


…ただですねえ。

入った瞬間、目の前にあったのがズラッと並んだクワやスコップとか、これどうなんですかね?

いや、スコップとか鎌、ナタなんかは武器としても使えますけとね?


剣や弓矢なんかが、申し訳程度に奥に幾つかあるってのは武器屋としてはどうなんですかね?

ちょっとファンタジーIN武器屋ってことで、ワクワクしちゃった私の気持ちを返して欲しいところです。


まあクレームを言っても仕方ないので、私の武器を選びましたよ。


「…へえ、槍にすんのか。

お前さん、使えんのか?」

「はい、まあ。」


剣とかの間にひとつだけ槍が立て掛けてあったんですが、造りは悪くありません。

私の背丈よりちょっと長い位の、どちらかというと短槍の部類に入るのですが、バランスもしっかりしていました。


「…ほう、お前え、ずいぶんと使い慣れてるな。

なんか武術でも習ってたのか?」


そう言ってきたのは、この武器屋の店主で村唯一の鍛治師でもあるドノバンさんです。

ムスッとした不機嫌そうな顔をしている赤ら顔のおっさんですが、これがデフォルトなんだそうです。

なかなか親近感がわくおっさんです。


おっさんは、私が槍を手にしてその使い心地を確かめているのを見ただけでそんな事を言ってきました。


「判るんですか?」

「まあな。

俺も若い頃ぁ、そこのロッソと冒険者やってたからな。

ソレを振り回した事のある奴と無い奴の区別ぐらいはつくぜ。」

「そうなんですか?」

「まあ俺ぁ、家業の鍛治継ぐんで冒険者は途中で諦めたんだがな。

コイツは、王都じゃあけっこう名が知れ渡るとこまでイッたんだぜ?」

「へえ、凄いじゃないですか、ロッソさん!」

「い、いやいや、それ程じゃねえって。

―ドノッ!お前えも、余計なこと言うじゃねえよ!」

「くっくく…。」


テレたり、じゃれ合うおっさんの図…、うん、ダレトクですよね。

このおっさん達、二人ともこの村の出身で、幼なじみなんだそうです。

ムサいおっさんが幼なじみ同士…、うん、これまた全く要らない情報ですね。


あとは森の中で枝払いなんかに使う(サブウエポンにもつかいます)ためにナタをひとつ、それと小型のナイフをひとつ購入しました。


これで最低限、冒険に必要なものがそろいました。

ちなみにこの費用は、ゲームを始めた時に持っている資金でこと足りました。

まあ、これでほぼスッカラカンになってしまったんですけどね。


宿に泊まる宿泊費なんかも稼がなけれいけません。

できればイナリちゃんと一日中モフモフしたい所ですが、そうもいかないのが現実…いや、バーチャルでもままならないモノです。


「まあ最初なら、この村周りで薬草探しが一番だ。

数時間も採取すりゃあ、1日の宿代と飯代ぐらいは稼げるだろうしな。」


ロッソさんがそう勧めるので、最初の冒険はそうする事にしました。

八百屋のお婆さんの情報によれば、今は村の北側にある斜面で薬草がよく採れるそうです。

ついでに採ってきた薬草やハーブを買い取ってくれることになっています。


普通は冒険者ギルトに売り払いそれをギルトが卸す、という流れのはずなんですが。

『どうせばーさんに卸すんだから、俺の手間が省けるからな!』―とロッソさん。

いいのかギルトマスターがそれで。


いやはや全くとんだローカルルールです。


まあとにかく、お婆さんが言っていました、北の斜面とやらを目指すとしましょう。

一時間も森を進めば有るそうです。


「じゃあイナリちゃん、行きましょうか!」

「コンッ!」

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