第4話

「おっ?!

やっと帰ってきやがった!

ったくよお、いきなり消えるから何事かと思っちまったじゃねえか。」

「あああ、すいません!」


ケイトさんによる緊急ダイブアウト、それから帰化手続きの最後の仕上げに半日以上掛かりました。


おまけに手続きが終わったとたん、人事院のガストンさんって人に捕まってしまいました。

まさにケイトさんが言っていた通りでしたよ。


このガストンさん、絶対、人事の部署とか間違いでしょとツッコミを入れたい。

どこかの傭兵部隊の隊長って言われた方が素直に信じられるコワモテのおっさんで(片眼にアイパッチまでしてました)、勧誘されているのか脅迫されているのか、もうどっちか判らなかったです。


まあ、ケイトさんと同じ職場って事と、仕事場からダイブ施設まで徒歩で5分という立地で、異論などありませんでしたけどね。

というより、入国したその日に仕事が決まるなんてラッキーとしか言えません。


でもその雇用契約とかナントカの手続きで、さらに2時間ほど時間をとられてしまいました。


お陰で再びダイブ出来たのはもう夜もかなり遅い時間でしたが、ダイブ施設はメンテナンス時以外は24時間、365日稼働してますので問題ありません。

しかも再ダイブは、ゲーム内時間で最短なら3時間経過しただけという設定にすることが出来ます(リアル時間があまり長く経ち過ぎると、色々と規制が出てしまいますがね)。


ですので、リアルでは10時間以上経過してしまっていますが、こっち(リアルファンタージェンワールド)の世界では3時間しか経っていないことになっています。

ここではまだ昼過ぎという時間でしょうか、太陽はまだ空の高いところで輝いています。


「まあ妖精族ってのは、いきなり現れたかと思いきや、気まぐれに居なくなるのが常ってなもんだ。

今度はちゃんと居られるんだろ?」

「ええ、それはもう…。」


こちらの世界の人(NPC)から見て、私たち"妖精族"というのは、『すごい能力を持ってる者も多いが、急に現れたり消えたりするわ、とにかく今が楽しけりゃ後の事など気にしない、どちらかと言えばはた迷惑な奴』―ってな風なのが一般的な印象なのです。


「よっしゃっ!

じゃあ今度こそ、召喚といこうじゃねえか!」

「そうですねっ!」


その点、このロッソさんという人は、妖精族に対して偏見が少ないようです。

まあ見た目は、ツルッパのコワモテなおっさんなんですけどね。

あ、でも同じコワモテでもガストンさんよかマシですね。まだ愛嬌があります。


さて、そんな上から目線なロッソさんに対する感想を脳内でしている内に、ロッソさんが召喚にお薦めの場所とやらに到着したようです。


―どうやらここは、この村の中心地のようです。

ちょっとした広場になってまして、広場の正面に教会らしき建物、そしてぐるりと広場を囲うようにお店が並んでいます。


あ、お店と言っても大層なのじゃないですよ。

みな木造、平屋建てで、田舎でおじーちゃん、おばーちゃんが細々と昔から営んでる八百屋や雑貨屋さんみたいなのが、数軒並んでいるような状況です。

お、武器屋さんっぽい店まであります、後で覗きに行ってみましょー。


そしてそんな広場の中心に、まるでモニュメントの如く巨大な岩が鎮座していました。


この岩、高さは3m程はあるでしょうか。

切り立った山のように、鋭角な円錐状をしています。

そして特徴的なのはその岩肌です。


その黒っぽい石の表面に、ほとんど岩らしいゴツゴツとした凹凸が見られません。

そして磨きあげられたみたいにツルツルで、ロッソさんのツルッパといい勝負に太陽の光を反射して輝いています。


とは言え、人の手で加工された様にもみえませんね。

なんというか自然にこうなった、という感じがします。

まあ私の感想なんですが。


この岩が村のランドマーク的なもの、または神聖なものなんでしょうか、大事そうに木枠で囲み近くに寄れないようになっています。


「どうだ、これがこの村の鎮守岩だ。」

「鎮守岩…ですか?」


ロッソさん、この岩がご自慢のようですね。

私にはただの三角岩にしか見えませんが。


「おう、この岩はな、地下深くまで一枚岩として続いてるんだそうだ。

そんでもって、地下から魔力を吸い上げてな、その力でこの村に強いモンスターを寄せ付けねえようにしてくれてるって、昔から言い伝えられてんだよ。」

「へええー。」


確かにこの村を中心に、半径20kmほどの周囲には強いモンスターが現れません。

そしてある程度距離が離れると、急に強力なモンスターがうろつき始めるのです。

まあそんなピーキーなモンスター配置になのも、この村がスタート地点として人気の無い理由のひとつなんですけどね。


「…まあ、昔、王都からえれー学者さんか来てさんざんっぱら調べあげたんだが、ただの岩だったって結論になったんだがな!」

―ただの岩なんかいっ!


心の中でツッコミを入れておきましたが、顔にその気持ちが出ていたようです。

でもガハハと笑うロッソさんはあまり気にはしていないようですね。

昔から大事なモノとされている物に、そんな箔付けを誰が言ってこようが気にはしないって事なんでしょうか。


「でも村で召喚するならよ、せっかくなら特別な場所の方が、なんか面白い奴が現れるかもしれんだろ?」

「…ですねー。」


一般的には同じエリア内であれば、どこで召喚しても同じ確率であるとは言われてるんですけどね。


…でもプレイヤー的な希望としては、やはり何か特別な場所には特別な変化を望んじゃうもんです。

そこにロマンを感じるんです。

ロッソさんもそう考えて、ここを紹介してくれたんでしょう。

ロッソさん、オヌシも解っておるのー。


いやはや本当にこんな対応、AIがしてくれるものでしょうか。

もうあまり、AIとかプレイヤーとか考えないでおきましょう。

その方が、このゲームを楽しめるに違いありません。


「―という訳で、村長特権でお前さんをこの木枠の中に入れてやろう。

普段は村民しか入っちゃいけない決まりなんだがな。」

「えっ?

そんなのいいんですか?」

「ああ、遠慮すんな!

誤解でお前さんに怖い思いをさせちまった、お詫びと思ってくれたらいいからよ。」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、絶対に岩には触れんなよ。」

「わかりました!」


ロッソさんが、扉状になっている木枠の一部を開けてくれました。

木枠と岩の間は5m程の間隔があるのですが、村の人達によって掃き清められているのでしょうか、枯れ葉ひとつ落ちていません。


ではでは!これが私の野望の第一歩です!

モフモフさん1号を召喚致しましょう!


召喚に際しては、召喚者はモンスターを3種類から選ぶ事が出来ます。

すなわち前に出てガンガン戦う『前衛タイプ』、後方から遠距離攻撃や回復・支援をする『後衛タイプ』、その両方をある程度できる『万能タイプ』の3種類です。

ただどんなコが召喚されるかは、現れるまで判りません。


まあそのワクワク感がいいんですけどね!

これもロマンです!


さて、ではモンスターのタイプをまず選択しましょう。

これはもう『後衛タイプ』にすると決めています。


なにせ最初のコですからね、そんなモフモフをいきなり戦いの最前線に出して、傷ついたりするのを見て平常心でいられる自信がありません。


え?じゃあどうやって戦うのかって?

そんなの私が前に出ればいいだけです。

"ビーストマスター"は前衛もある程度可能な、いわば万能タイプの戦士ですからね。

戦いに慣れるまでは、私がタンクやアタッカー役を致しましょう。

なにモフモフのためなら、なんら怖れるものはありませんよ。


ではメニュー欄から『召喚』を選んで、タイプを選択…。

おっと召喚に必要な魔石をチャージしないといけません。


これは初期装備品の中にあります。

現在私は、私の属性と同じ土属性の魔石を100個持っています。

使用する属性や個数で現れるコのレアリティーやら色々と左右されちゃいますので、初期召喚でつかえる最大値の100個、マルっと使っちゃいましょー!


さあいらっしゃい!マイモフモフちゃん!


私の目前に青く光る魔方陣が現れました。

ん?前の岩が一瞬光りませんでしたか?


そしてその光のなかから…


New! ヨウコ(妖狐)/土属性/魔獣族

Lv 1 ★★★

タレント:

[狐火] Lv1/10

[惑わし] Lv1/10

[危険察知] Lv1/10


「ケンケーン!」

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