第4話 覚醒煌剣エレメントソード

次々と景色が移り変わり、俺はとある場所に着いた。

すると、紫の光が出ていた転夜さんの体は元に戻る。


「これは……ワープ?」

「ああ。これが俺のエレメントの転移てんいだ」


そうか、これでさっきは急に出てきたんだな。


「さぁ、早速お出迎えだぞ」


転夜さんが向いた方に俺も向く。そこには、破壊されたであろう家の残骸ざんがい瓦礫がれきが大量に転がっていた。

そして――昨日のとは一回りも二回りも大きい虹害獣こうがいじゅうの姿が。それはまるで、巨大な熊のようだった。


「虹害獣には、こんなに大きいヤツもはいるのか?! 見上げる程じゃないか!」

「何言ってやがる。これより大きいヤツなんて何体もこれまでほうむってきた! それと、じっとしてんじゃねぇ!」


そう言うと、敵の近くへワープする。

俺は――まだ動いていなかった。それどころか、敵がこちらを狙っていることにも気付けなかった。


「うあっ!!」


動かない俺に対し、虹害獣はその巨体から想像出来ない速さで平手を食らわせる。俺の身体は、転夜さんがワープした方へと吹っ飛ばされてしまった。

文字通り、体がバラバラになりそうだ……!!

そんな俺へと転夜さんが近づいてくる。


「おい……何やってんだ? 早く動けよ」


動かないわけじゃない。動けないんだ。

虹害獣に……昨日のとは比べ物にならない程の圧倒的あっとうてき威圧感いあつかんを感じてしまう。


「…………」

「まさか……怖気おじけづいたってんじゃないだろうな?」


仮面を被っている為に表情は読み取れないが、少なくとも良い顔はしていないだろう。


「……違いますよ」

「何が違う? 昨日したっていう変身もしていない。止まったまま。怖気づいた以外何だっていうんだよ、あ?」

「……昨日は、白輝を守る為に必死になっていた……今は冷静なんですよ。自分の置かれていた状況をよく理解していなかった……俺は間抜けだ」


弱気になっている暇なんて無いというのに、皮肉なことに身体は恐怖ですっかり震えてしまっている。


「ふん……なんだ。結局はここまでの男だったってことか。虹害獣におびえてすぐ逃げる腰抜け野郎が!」

「別に逃げてなんか……いませんよ……!」

「オラァ!!」

「がげぇっ!!!!」


腹に蹴りをブチ込まれる。

クソ痛てえ……!


「逃げているだろうが、目の前の敵から。じっとして傍観ぼうかんしていようが、戦う意思を無くして背中を向けて走ろうが、結局は居ないのと同じだ。テメェは今ここにいる意味も価値も無い。失せろ!」

「ふん……腹が痛くて逃げたくても逃げられませんよ……!」


こんだけ焚き付けられて……!!


「はっ! じゃあ、そこで虹害獣に殺られるんだな。俺は一切助けん」

「うるせぇですよ!!」


黙って見てるなんてできるかよ!!!


「そんだけ言うなら、転夜さんは相当強いんでしょうね! もう吹っ切れた! あぁやってやりますよ!!」


俺はゆっくりと立ち上がる。


「誰に向かって言ってやがる。俺が何体殺したか知らねぇだろうが」

「ふん、どうせ2桁にも満たないんでしょうね」


今なら……いける!


鎧装機甲がいそうきこうオン!」


身体中が活性化するのを感じる……それと同時に結晶体が体表たいひょう露出ろしゅつする。

そして――


「フィジカルチェンジ! セクトマンッ!!」


――俺は変身する。

その直後、全身の結晶体から青白い光があふれ、辺り一帯が光で満たされた。


「ううっ……!!」


相変わらず身体中が熱いが、昨日程ではなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


[Beginning Mode]


光が収まると同時に、俺は変身を完了した。

最初に変身した時には分からなかったけど、こんな電子音声鳴ってたんだな。鬼面ファイターのようじゃないか……!


「どうですか、これが俺のセクトマンですよ」

「まるでバケモノだな。苦しそうにしてくせに、それで戦えるのかよ。それに名前もダセェ。なんでSECTが入ってんだよ」

「名前はちゃんと理由があるから文句は言わせませんよ」

「はっ、どうでもいい。 戦えんなら行くぞ! テメェ、また止まって足を引っ張んじゃねぇぞ!」

「ふん! そんなこと、俺が先に倒しちゃいますよ!」


転夜さんはワープして次々と居場所を変えることで撹乱かくらんしながら銃を撃っている。コアを潰す為のくいのような物を打ちだしているようだ。次々と虹害獣の身体に突き刺さっていく。しかし、どれも効いていない。


「チッ! 前のより小いせぇくせに、やけに頑丈だな! なら……コイツでぶった斬ってやるよ!」


転夜さんは敵のすぐ側にワープして剣を振り下ろすが、硬い部分だったのか傷は浅いようだ。


「ムダに硬ぇ! イラつかせやがる!!」


虹害獣は次にこちらへと向かってきた。あの大きな爪でひっかこうとでも思っているのか。


「そう簡単に食らってたまるかよ!」


巨体故にふところに入りやすい。俺は虹害獣の腹に全力でパンチした。約9mもある虹害獣の体が吹っ飛んでいく。

おいシルバライト! 何か俺にも武装は無いのか!?


『ありますよ。その胸の内に』


え、何? どういうことだ?


超常ちょうじょう動力どうりょく多重たじゅう適応てきおう機構きこう内蔵式ないぞうしき煌剣おうけん。その名はエレメントソード』


それはどうやったら使えるんだ!?


『鎧装機甲と同じです。強く念じれば胸部のコア・ジェネレーターから出現します』

「へぇ、それじゃあ! エレメントソード!!」


強く念じて叫ぶと、胸部の結晶体ごと剣のつかが射出された。それを俺はあわてて掴む。すると、つばが展開してまばゆい光と共に剣の刀身が生成せいせいされた。


「これが何とか煌剣エレメントソードか。よし、こいつでやってやる! おぉぉッ!!」


試しに虹害獣の体に生えているとげを斬ると、一切の抵抗無く斬れた。


「うおっ、斬れ味が良いってレベルじゃないなこれ……」

『マスター、驚異的な切断力の代償だいしょうとして身体能力や各出力が大幅に低下しているので注意して下さい』


え、何故?!


『エレメントソードは、メインのエネルギー増幅ぞうふく装置そうちであるコア・ジェネレーターの能力を利用しています。そのため、長時間に渡ってとても高い性能を保ちながら使うことができます。しかし、その代わりに全体的な能力が低下してしまうということです。理解できますか?』


なんとなく分かるよ…っ。

シルバライトの説明を聞いている最中にも復活した虹害獣が襲ってくる。

今あの爪でやられたら痛手を負ってしまう!


「おい! コアは見つかったか!?」

「そういえば、見つかりません! ……いや、ありました! 掌です!」


肉球のようにも見えるが、よく見るとコアだ。


「そこか! まずはヤツの攻撃を防ぐ!」


そう言うと転夜さんは立ち止まり、押し潰そうとする虹害獣の攻撃を正面から受け止めた。そして虹害獣と共に高い位置へとワープし、蹴った勢いで虹害獣を地面へ叩きつける。


「その剣でコアを潰せ!」

「はい!」


俺は走り、虹害獣のコアに向けてエレメントソードを突き立てる――はずだった。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」

コアからの電撃を直に受け、俺は倒れてしまう。そしてそのままつかまれ、両手のてのひらに挟まれて強烈な電撃を食らわされてしまう。


「ぐがががががががッ!!」

「何やってやがる! チッ!」


クソッ! 何とか……脱出しなければ……!


『一時的に肉体を強化するリインフォースがあります! 使って下さい!』


ああ!


「ぐがッ……! リインフォース!!」


[Physical Drive]


またどこからか電子音声が聞こえ、俺の体は更にパワーが上がったようだった。


「ぐッ! はぁッ!」


そのパワーで虹害獣の掌から抜け出し、虹害獣の片腕を切断した。


「今度こそ!」


虹害獣のコアにエレメントソードを突き立て、破壊した。

虹害獣はすこしばかり苦しんだ様子だったが、すぐに調子が戻った。


「はっ、自力で抜け出せたのか」

「もう足は引っ張りませんよ」

「いい心がけだ」

「足でまといと言われるのはムカつきますからね」


虹害獣は片腕をゆっくり治しながらも、もう片腕で向かってくる。


「次は俺が援護しますよ!」


俺は周りの建物を踏み台にして虹害獣の頭へと近づく。虹害獣と目が合ったが、気にせず頭を切断する。

目が見えなくなった為か、激しく暴れだす。つまづいて転んだ隙に転夜さんが掌に近づき、コアに思い切り蹴りを入れて破壊した。

その時の転夜さんは心底憎そうな顔をして睨んでる――ように見えた。

俺達はすぐに虹害獣から離れ、様子を見る。


「よし、決めます!」

「ふん、やってみろ!」


エレメントソードを一度胸部に収納する。昨日とは違い今度は胸部にエネルギーを集中させ、再びエレメントソードを射出、展開する。膨大なエネルギーを受けたエレメントソードは青白く輝きを放っている。


『考えましたね。ファイナルフォースブレイカーの分のエネルギーをエレメントソードへと集めるという……そんなことしなくても十分だったと思いますが』


黙ってなさい! 必殺技はロマンなんだよ!

ふらふらと立ち上がった虹害獣に対して俺は大きくジャンプし、真っ向から立ち向かう。そして、大きく振りかぶり――


「はぁぁぁぁぁぁぁ! 我煌斬がおうざん!!」


――一刀両断した。


「クラッシュ・エンド!」


虹害獣は縦に二つに分かれ、爆発する。まるで、道連れしようと最後の足掻あがきをするように――散っていった。

戦う時はちゃんとサポートしてくれるんだな、シルバライト。


『この体はマスターの体であり、私の体でもあるようなものですから。自分の体を守るのは当然のことです』


分かったよ。まあ、ありがとうな。


『自分の体を守る為だったのですが、お気持ちは有難く受け取っておきましょう。……無事に生き延びてくださってありがとうございます』


言われなくても、自分の体だからね。


「……帰るぞ」

「はい」


俺は再び転夜さんに掴まり、ワープで帰った。

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