第3話 吃驚仰天スターター

「……はぁ」


ついため息をついてしまった。何故なぜため息をつくのかというと――


『マスター LHRが終わりました。さぁ、神風かみかぜ博士はかせの研究所に行きましょう』


「うるっさい! 今日一日ずっっと、頭の中で話しかけられるなんて誰が思うか!!」


そう、シルバライトのせいだ。授業中だろうが休み時間だろうが、頭の中に声が響く。しかも毒舌どくぜつが混じってて集中出来ないったらない。


『いいではないですか、今日一日だけです』

「俺はまだお前が信用に足るAIか判別出来そうにない……」

『信頼の四文字で出来てる私を疑うんですかぁ?』

「どの口が言えるんだ……?!」

『私の口は物理的には存在していませんよ』

屁理屈へりくつを……!」


信護しんご、お前今日おかしいぞ」

「凄いブツブツ言ってたよね」


硬侍こうじ旋梨せんりの2人に心配されるレベルでブツブツ言ってたらしい。


「何でもないよ? ただ考え事をしてただけでね」

「まさか、記憶があるになる前はクッソ痛いやつだったのかな(ヒソヒソ)」

「その可能性あるな。あっ痛たたた(ヒソヒソ)」

「何を勝手にヒソヒソポーズで言ってんだぁぁ! あと、もしそうだとしても受け入れてくれるって言ってただろ!」

「ジョウダンダヨジョウダン〜」


記憶が戻った事を言わない方が良かったか……?


『マスター。ご友人と話すのも良いですが、早く行きましょう』


シルバライトは無視しようそうしよう。


「ん? あれは……」


ふと見ると、扉の隙間を除く白輝すぴかが見えた。


「二人共、今日は白輝が待ってるようだしもう帰ろう」

「幼馴染みが待ってるもんな?」


硬侍が笑ってからかってくる。

ん? えらく上機嫌じゃないか。


「どうしたんだよ、そんな機嫌よさそうにさ」

「実はな? うちの婆さんの病気が良くなってな。嬉しくてたまらないんだ! もちろん、信護の記憶が戻ったのも嬉しいけどな」

「おお……。普通に良い話でびっくりした」

「良かったね! 硬侍!」

「おう! それじゃ、今度こそ帰るか!」

「うん」


そうして俺達は教室の前で待ってた白輝と合流して帰った。



硬侍達と別れて、白輝と二人きりになる。いや、正確には俺の中にもう『1体』いるけど。


『あの、マスター』


「あのさ、急にこんなこと言うのもあれだけど、俺って鬼面ファイターが好き……だったんだよな」

「うん、当たり前じゃない。信護に影響されて私も好きになったんだし。小学生の頃から鬼面ファイターにはうるさかったよ」

「そっか……。俺のこの思い出した記憶が本当か心配になっちゃってね」


『マスター』


「もし、自分について思い出せないことや心配事があったら、私や私のお父さんを頼ってね」

「うん……ありがとう、白輝」


『マスター無視しないで下さい!』


ここで反応したら負けだ……!

そうこうしてる内に白輝の家に着いた。あれ? 研究所じゃなかったっけ?


「こっちに変更になったの」

「まぁ、なんでもいいや」


ちょっと嬉しそうな白輝の後に続いて家に入る。ここに入るのも久しぶりだな。


「お邪魔します」

「どうぞー♪」


神風博士の姿が見えないけど、まだ仕事かな?


「お父さーん」

「はいはーい。今行くよ」


部屋の奥の方から声が聞こえる。


「ようこそ、我が家へ。信護君は慣れてるだろうけどね」

「はい。凄い久しぶりですけど」


白輝と同じ、白い髪をした男性がやってくる。白輝のお父さんであり、新未来研究所所長の神風尽博士だ。優秀な科学者で、新エネルギーの超自然エネルギーを開発した方だ。クリーンで安全かつ効率の良い次世代のエネルギーとして日本中で使われている。


「さっそくだが、話をする為に見てもらいたいものがあるんだ。ついてきて」


そういうと、なにやら厳重げんじゅうそうな扉の方へ行く。


「お父さん、ここって……研究室だよね? 危ないから入っちゃいけないって言ってた」

「そうだよ」

「正直、気になってました(わくわく)」

「そんな期待されても困るよ……?」


神風博士が扉のロックを開けて中に入る。それに続いて俺と白輝も入る。

そこは、結構広くて機械類が転がっている。全部、神風博士がつくったものだろう。


「あっ、ちょっと待っててね」


何かを思い出したように部屋から出ていく博士。どうしたんだろうかと一瞬思ったが、すぐ目の前の光景に夢中になった。


「これだけあれば、変身アイテムの一つでも出てきそうだなぁ(わくわく)」

「あんまりいじらない方がいいよ……」

「なんだこれ」

壁にボタンを見つけた。押しちゃおうかな……。

『マスター、もう押してますよ!』

「うわっ! びっくりした。いきなり話しかけるなって……へ? 押した?」


大きい音がして、目の前の壁に入口のような穴が出現した。


「おお……凄い……」

「凄いじゃなくて、勝手にいじらないでって! まあ凄いし知らなかっけど……」

『そうですよマスター!』

「すいません……」


白輝にはまだしも、シルバライトには屈辱くつじょく的だ。


「入ってみたい」

「駄目だよ。取り敢えずお父さんが来てから……って」


ちょっとのぞいてみたけど、通路みたいなのは無さそうだな。


「ちょっ……とってうわっ!」


1歩足を踏み入れたら身体が軽くなる感覚がして――知らない場所にいた。


「どこだここ……? それに自動ドアがある……」


取り敢えず目の前の自動ドアを入ってみる。そこには大きなテーブルや巨大なモニターがある。


「おおー……んがっ!!」

「いたた……博士? ごめんなさ――いっ!? きゃぁっ!!」

「うわぁ俺の腕ぇぇぇぇぇ!?」


桃色に光る少女が鳩尾みぞおちに突っ込んで来たと思ったら、腕がメカっぽくなってた。何を言ってるか分からないと思うが、俺も何をされたのかさっぱり分からなかった……。


『この感じ……マスター、その子はSECTです』


あっそうなの? じゃなくてね!


「腕がどうなってんだこりゃ……」

「あの……誰ですか? ボクはあなたを知らない……」


目の前には、俺と結構歳が離れた少女がいた。僕と言っているが、どう見ても男には見えない。


「えっと、俺は賭頼とらい信護しんご。神風博士に呼ばれて来たんだよ。間違えても不審者ふしんしゃじゃない」


まあここには勝手に来ちゃったんだけど……ね。


「……ボクはメルカ・ニーカ。メカニックだよ」

「メカニック? ということは、この腕も君が?」


それしか考えられないけど。


「うん。それは……ボクのエレメントのせい……」


本当にSECTだったなんて……。


「SECTってこと、俺に言って大丈夫だったの? SECTに対して良く思わない人もいるのに」

「本当に神風博士が呼んだ人なら良いと思った……でも違ったら……」


警戒心をはらんだ目で俺を見る。


「絶対に違わないから大丈夫だよ。後々証明出来るから」

「じゃあ、神風博士とちゃんと会うまでその腕を治さない」

「いいよ。会ったら治してね。しっかし驚いたよ! 腕がメカっぽくなるなんて。この状態で虹害獣と戦ったら有利になりそうだ! それに、俺もメカとかロボットは好きだしね!」

そんなことを言ってたら、メルカと名乗った少女の顔がみるみる明るくなっていった。

『マスター、まさかこれを狙って?』


そんな訳無いだろ。普通に話しただけだよ。

鬼面ファイターの次にロボットは好きかな。


「ふぅん……ちなみに、どんなのが好きなの?」

「えーっと……人が乗る巨大ロボットも好きだし、人が装着するタイプのも好きだよ」

「やっ……へぇぇボクもそういうロボットが好きだよ。特に着るタイプは造りたいくらいにね」


造りたいくらい? とても喜んでいるようだけど、まだ警戒はしているようで遠くにいる。


「あと、鬼面ファイターとかも好きなんだけど……知ってる?」

「知ってる。カッコいいと思うよ」


なんて英才教育を受けているんだ……この子は将来有望だな――そう考えていると、俺が来た方向から誰かが来た。


「人の家を何勝手に動き回ってるのかなぁ〜?」


神風博士だ。勝手に入ったこと怒ってるかな……?


「す、すいません! ボタン押したら入口が出てくるなんて、入ってくれと言ってるように思えてつい……」

「人が目を離した隙にまったく……紹介しようとは思ってたけど、勝手に入られちゃ気分は良くないぞ」

「うう、申し訳ないです」

「ここが……家の地下? ずっと知らなかった……」


その横には白輝もついてきている。


「白輝は知らなかったんだ」

「知らないよ、まさかこれが理由で研究室を見せてくれなかったの? お父さん」

「それもあるけど、本当に危ないのも理由の一つだ」

自分の娘にも教えていなかったなんて、ここは一体……。

「博士! この人、本当に博士が呼んでたんだね!」


それと、この子も。


「ああ、そうだよ。この2人は僕が呼んだんだ。賭頼信護君と僕の娘の白輝だ」

「あっじゃあ、すぐその腕治します」

「うん。あと、なんで敬語になったの?」

ついさっきまでは気軽に話してたのに。

「その、怪しい人じゃないと分かったら、さっきまでの話し方じゃ悪いかなって思って……」


この子は礼儀正しいし、知らない人には警戒するしでよくできた子だなぁ。


「別にいいよ、そのくらい。その方が話しやすいでしょ」

「……うん!」


俺の腕が治っていく。凄いな、これは。


「あー……そろそろ話を始めていいかい?」


そうだった、そもそもの目的を忘れてた。


『私ももうそろそろ我慢が辛くなってきました』


シルバライトは静かにしてて。


「はい、俺は大丈夫です。」

「よし、始めようか」


と、博士が言ったところで博士の電話が鳴った。


「何だ? 大事な話をしようという時に。もしもし……何!? 分かった!」


なにやらけわしい表情で話している。ただ事ではないようだ。


「信護君! まだちょっと待っててくれ! 僕はやるべき事がある。あと、動けるようにもしていてくれ」

「は……はい。動けるようにして待ってます」


一体なんだというんだ?


『もしかしたら、虹害獣こうがいじゅうが出現したのかもしれません』


まさか……でも何で博士に?


『マスターにも、知らせるように伝えていたでしょう。それと同じなのでは』


……そういうことかもしれないな。


『本当に忘れっぽいですね』


一言多いからな。


「よっと!」

「うぉわっ!」


突然目の前に年上であろう男性が現れた。


「何も無い空間から出てきた?!」

「あん? 誰だテメェ?」

「博士の知り合いの……賭頼信護です」

「はん、知らねぇな。それより俺は急いでんだ!」


いかにもガラ悪そうな感じだな。見た目で判断してはいけないって鬼面ファイターで学んだけど。


転夜てんや! 僕がすぐ届けるといつも言ってるだろう!」

「俺がこうして急いで戻った方が早い時もあるだろうが!」

「まあいい、頼む!」

「ああ!」


博士が転夜と呼んだ人物に大きなケースを手渡す。その中には、機械類が……まるで強化スーツのような物が入っていた。


『あれは恐らく、マスターの考えている通りの代物だと思われます。あまり性能は良くなさそうですが。』


何だって? 博士は、こんなものを造っていたっていうのか?


見世物みせものじゃねぇぞ!」


そう言いながら、転夜という男は強化スーツを装着そうちゃくしている。


「信護君、頼む。君も彼と共に行ってはくれないか。転夜1人ではもう辛いと思うんだ」

「……虹害獣を倒しに行くんですね」

「……ああ。全ては終わった後に必ず話す」

「分かりました」

「おい! 準備できたぞ!」


転夜という男が準備完了の合図を告げる。


「待て、この信護君を共に行かせて欲しい」

「そいつは戦力になるのか? 博士。足でまといは要らないぞ」


俺が全くの戦力外だと思っているのか、自分に自信があるのかは知らないけど、そんな風に言われると良い気分はしないな。


「大丈夫だ。その証拠に、昨日は信護君1人で虹害獣を倒した」

「へぇ。おい、信護とかいう奴。さっさと掴まれ。急ぐぞ」

「? はい」


何故掴まるのかは知らないが、取り敢えず掴まった。


「信護……気を付けて……!」


白輝の声が聴こえた次の瞬間、そこから俺の体は消えていた。

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