俗世的でありながら幻想的。絵巻物で現代劇を見せられたような読み口

 かなり前に途中まで読んで中断し、再開出来なかった作品なのですが、今回カクヨムコンに参加しているとのことで最初から読み直しました。中断した時点で★3&レビュー確定の読み応えがあったため、正当な評価が順当に応援に繋がるだろうと考えて。その予想は当たりました。当たったのですが……

 レビューが書けない

 繰り返します。予想は当たりました。面白いです。特に文章力、というか表現力が卓越していて、和紙に水が染みこむようにすっと文字とイメージが脳内に溶けています。それでいてしっかり緩急もついており、先へ先へと読む手を進ませる求心力も備えています。

 しかし、レビューが書けない。まとまらない。あらすじに記載されているように始まりこそセンセーショナルかつエンターテイメントですが、すぐにそういった分かりやすい物語ではなくなります。俗世的でありながら幻想的でもある、絵巻物で現代劇を見せられたような読み口。この感覚を象る言葉を自分は持っておらず、その「言葉を持っていない」という言葉こそが唯一この物語を語りうる言葉であるという、禅問答のような結論すら導かれつつあります。

 なのですいません、自分でも本当にどうかと思うのですが、レビューを放棄します。とにかく読んで下さい。読めば分かる。読まなきゃ分からない。これはそういう小説です。少なくとも自分は、そう感じました。

 一つだけ考察じみたものを言えるとしたら、やはりキーワードは「本棚」なのかなと。だからこそ、あの結末なのかなと。失ったものは取り戻せない。死んだ人間が蘇らないように。願わくば彼の手に、彼が失ったものとはまた違う、新しい生命の息吹が芽生えますように。

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