見事な作品。まずは10話まででも読んでほしい。

ひとことでいえば「凄いものを読んだ」という感想(身もふたもないな)。

初めは、それぞれ事情を抱え、葛藤して迷いながらのキャンパスライフを描く青春小説を読んでいたはずが、読み進めるうちに「一体俺は何を読んでいるのだ?」と、我に帰らざるを得ない状況に困惑する。
それは「予想を裏切る展開」というお決まりのフレーズではなく「別の何かが侵食してくる」というような感じ。
物語の様相がガラリと変わるというよりは、じわじわと気がつかないうちに姿を変え、変わったものは自分の望んでいたものではないのにそこから抜け出られない。

中盤を職場の昼休憩に読んだのだが、あまりに引き摺りこまれすぎて、休憩後にデスクに戻ってもしばらく現実との境目がわからなかった。
で、じゃあ引き摺り込まれすぎないように、と少し読むのを控えていると、頭の中で読み進めたまでの場面がループし、先を読まずにはいられない。
読了した今、ようやく一旦解放されたような感覚がある。

とにかく凄いものを読んだ。

そして熊本くんやみのりちゃんが(そして“奴ら“もだ)、自分の生きるこの世界の地続きに存在しているのではないか、と思わせられる。いつでもそれは僕らの身近にひそんでいるのだ。そんな気にさせる小説。

まだお読みでない方は、ぜひ一度10話まで読んでみてください。
続きが気になったら20話まで。
21話からも物語に入り込めたら最後までどうぞ。
きっと最後まで読んで良かった、と思えます。

その他のおすすめレビュー

高野ザンクさんの他のおすすめレビュー29