1-2 追ってきた!

ローブの下は、あまりにもこの世界とは似合わない、テクノロジーを漂わせた風貌だった。


肌にぴっちりと張り付いたラバーのようなスーツ。

それのあちこちにはネオンのように光る生地が張り巡らされている。


「てめぇ……!」


弾丸を打ち込まれたワタルは、仰向けに倒れたまま、ただを睨みつけていた。


「どうせこの一撃では死なんだろう。C351号、一緒に来てもらうぞ」


はワタルを持ち上げようと、その腕を強く引く。


「っ!」


その光景を見かねたか、いぬっぴは思わず剣に手を伸ばす。


しかし、いぬっぴが剣を掴むよりも速く、の銃口がいぬっぴの眉間を狙っていた。


「やめておけ、私には勝てない」


いぬっぴの頬に冷や汗がつたう。

一歩も動かず、銃口に目を合わせていた。


「騒がせてすまないな。だが、おかげでこの悪人を捕らえることができた」


銃声を聞きつけた店員が寄ってくるが、に気圧されてしまい、声をかけることは出来なさそうだ。


「だーれが悪人だっ!いたたたたたた!」


ワタルは腕を引かれ、悶えながら引きずられている。


「ちょちょちょ、ちょっと!ワタルに何してるんですか!」


戦える相手ではないとはいえ、ラフラスも止めようと声を上げる。


「こいつは重大な規約違反をした。私はそれを罰しに来ただけだ」


「規約違反って……!?」


「貴方達に伝える必要は無い」


は止まる事なく、淡々と言葉を返し、ワタルを引きずって行った。


「ハシンス!ハシンスーッ!」


「え、あっ……」


ワタルは叫び散らしたが、それでもの足が止まる様子は無い。


「ワタル!」


気がつけば店前の地面まで引っ張られてしまっており、

ハシンス達はその光景をただただ見ている事しかできなかった。


広い場所へ出ると、はどこからか小さな箱を取り出す。


「さあ、自分の罪を悔いることだ」


「ケェッ!悔いる事なんかねーよ!」


ワタルの身体は動かないが、言葉だけは達者だった。



が小さな箱を開くと、中からは黒のような、紫のような、闇というよりは宇宙のような……とにかく「果てしない色」の、不思議なもやが出てきた。


もやは少しずつ形を変えてゆき、気がつけば穴のような揺らめく空間と化していた。


「この世界に居ては殺せんからな……。とっとと抜けてお前を処刑してやる」


「……」


この揺らめく空間は、いわゆるワープホールだ。


はこの穴を使ってこの世界へ着き、この穴からワタルを連れ去ろうというのだ。


連れ去られたら最期、元の世界に戻されるわけでもなく、ただ不法転生者として死刑を課される。


先ほどの躊躇ない銃撃から分かるように、はワタルを捕獲し、殺そうと目論んでいたのだった。


もちろん、このような危機にじっとしているワタルではない。


「でもよ……お前もしつこいよな!こんな所まで追ってきてさ」


「それが私の任務だ。無断で異世界へ行くことなど許さん」


「俺だって来たくて来た訳じゃないんですけどー!どっちかっていうと帰らせてほしいんだけど!」


「理由がなんであろうと異世界に革命を起こすことは許されん。それに帰らせたらまた来るやもしれんからな」


「革命ったって俺がフツーにやってる事をあいつらが勝手にスゴイスゴイ言ってはやし立ててるだけだよ!」


「それがダメだと言っているんだ!」


お互いに目を合わせないまま、次第に言い合いが激しくなる。


「俺が俺なりの生活して何が悪いってんだよ!誰にも迷惑かけてねーじゃねーかよ!」


「お前がここで自分を前面に出すのが私達にとって迷惑なんだ!この世界の秩序を乱すなと言ってるのがわからんのか!」


「なんで俺が異世界人ってだけで好き放題やっちゃダメなんだよ!お前どうせここの住人がここで何やってもお咎めなしなんだろ!?」


「当たり前だ!原住民が己の世界をどうしようと私達には関係ない!異世界人がやるから問題なんだ!」


「その発想はおかしいだろうよ!ここの奴らと俺が扱い違うの納得できる訳ないだろ!どう違うってんだよ!」


「お前にいう必要など無いわ!むしろ何故元々いた世界で同じように


「ワタル!」


喧々と騒ぐ二人に、ハシンスの一声が割って入った。


「む!」


その声にワタルは反応し、険しい表情がふと消えた。


「なんだ貴様!今いい所なのに……っ!?」


もその声に反応し、そちらを振り向いた。

が、直後に視界の端で捉えたワタルの胸元を凝視した。



傷が消えている。


ワタルの胸元にあった銃創は、綺麗に治癒しきっていたのだ。


「あっ!?」


「へへっ、バーカ」


の目が丸くなる。


それを見たワタルは、ヘラヘラと笑いながらの腕を力強く引っ張った。


「それっ!」


「うわぁっ!?」


はそのまま体制を崩し、勢いのまま地面をゴロリと転がる。


「よし!逃げるぞお前ら!」


その無様な倒れぶりを見届け、勢いよく飛び起きたワタルは、いぬっぴ達に声をかけると、そのまま郊外へと走り出した。


「えっ?」

「みんな!行こう!」

「え、えぇ!」


ハシンスに後を押され、いぬっぴ達も急いでワタルを追って走り出す。


「あっ!待て!」


もちろんも立ち上がり、険しい表情でワタル達を追いかけていった。

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