1-1 転機
「なっ……!?」
あのオークが、こんなにもあっけなく……。
その光景を目の当たりにしたいぬっぴは、思わず息を飲んだ。
頭に当たったのだから、致命傷だというのはわかる。が、まず頭に当てた事に驚いたのだ。
「当てた……すごい……!」
「要は棍棒封じりゃいいってだけよ」
ワタルは剣を攻撃をするためではなく、棍棒を抑えるために使ったのだ。そして防ぐ手段を奪い、銃弾を打ち込む隙を意図的に作り出した。
だからこそ、オークには銃を防ぐ余裕が無かったのだ。
……などといった冗長な説明はしない。ワタルが話す必要など無いと思ったからだ。
流れで剣を棍棒から力一杯引き抜くと、
「って事でこれで二匹!後は……」
残りの一匹を見つめ、黙り込んだ。
こっそり倒した一匹目の時とは違い、奴には先ほどの手をはっきりと見られている。同じ手は通用しないだろう。
「むう……」
どうしたものかと顔をしかめるワタル。
「まあワタルなら大丈夫でしょ」
「……」
ハシンスの軽口が聞こえる。大丈夫じゃないと言えば嘘にはなるが、苦しい状況ではあるのだ。
今でこそオークも牽制しようと構えているが、いつあちらから来るか分からない。その前に早く対処しなければいけないのである。
「あ、でも待てよ……」
その時、ふと気がついた。
残る銃弾は11発だ……。棍棒の様子を見たところ、そこまで頑丈なものでもなさそうだ。
それに、銃弾は高価だからあまり浪費はしたくなかったのだが、よくよく考えればオーク一匹の報酬で充分買えるじゃないか。
ならもうやる事は決まった。
「……よし!」
その瞬間、おもむろに銃をオークへ向け、3回、引き金を引いた。
飛んだ銃弾は3発。鈍い光を持つ鉛が、オークへと襲いかかる。
しかしやはり棍棒で受け止められてしまった。
それでもワタルはひるむことなく、続いてもう4発撃ち込んだ。
また棍棒で受け止められる。
しかし同時に、棍棒からぼろぼろと木屑がこぼれ落ちた。
見るからに、明らかに、棍棒が壊れかけていた。
「あっ……!」
木屑を見て、思わず声を上げるいぬっぴ。彼女にはがむしゃらに乱射しているように見えていたが、その光景でワタルが有利である事を悟ったのだ。
「とどめェーッ!」
ワタルが最後にと棍棒へ銃を向ける。
しかし、上手くはいかなかった。
グォオオォォ!
ドカァン!!
「うわっ!?」
オークが鳴き、力一杯に地面を踏みつけたのだ。
轟音が響き、空気が揺れる。
「おぉお……!?」
洞窟の中、逃げ場のない衝撃波が周囲を包む。
足元が安定しない。耳も痛い。もちろん銃の狙いなど定まるわけがない。
「わっ……!?」
思わずよろめくワタルに、ここぞとばかりか棍棒が素早く振り下ろされた。
「わっ…………!」
……パァン!!
あられのようち浴びた銃弾、いつから使っているかわからないほど経ちに経った年季……。
浅黒く変色するまで使い込まれた棍棒は、叩いた衝撃で粉々に砕けてしまった。
「いっ……!」
頭に直撃したワタルを、ピリピリと痺れるような頭痛が襲う。
「ったぁ……お……!?」
それでも素早く立ち直り、ワタルは剣を持ち直した。
目の前には武器を壊したオーク。
奴の手には小さな持ち手しか残っていなかった。
それを確認すると、ワタルは剣を大きく振り上げ、さらに大きく飛び跳ねる。
「死ねェェーーッ!」
そして、飛んだ勢いのままオークへと剣を振るった。
もう壁はない。
鋭い刃が、緑色の肉を切り裂いた。
……
「クエストクリア、おめでとうございます!」
集会所にて、受付嬢が透き通る声で言ってくれた。
「やったねワタル!さすがだよ!」
いぬっぴが大喜びでワタルの肩を揺らす。
「へへへへ、報酬報酬」
当のワタルは、ギラギラと目を光らせながら頭の悪そうな言葉しか喋らない。
「そんなに凄かったんですか?私も見たかったです」
「まあ、ラフラスがああなったからワタルが活躍したようなもんだし……しょうがないよ」
一歩後ろではラフラスとハシンスがわいわいとしている。
ラフラスも全快し、4人は無事討伐報酬を受け取れるようだ。
「やっぱりワタルってすごいよ!こんな事私たちだけじゃ出来なかったもん!みてこの額!」
尻尾を大きく振りながら喜ぶいぬっぴ。
突き出したその手にはたった今受け取った金貨の袋が下がっている。
「へへ、これだけあれば色々できそうだな!」
「わ、思ったよりすごい入ってません?」
「浪費は、浪費はしないように、ね?」
3人でいぬっぴを囲い、わいわいと騒ぐ。
防具、武器、食料……。パーティを潤すには十分すぎる額だ。騒ぎ立てるのも仕方がなかった。
もちろんそんな大金である。こんな公の場で騒ぐわけにもいかないだろう。
そのためワタルは、
「ここで騒いでたらアレだな!まずは俺んちに帰るか!」
「「「了解ー!」」」
まず持ち帰って一息つく事にした。
外へ出ようと玄関に足を運ぶ一行。
彼らの頭の中では、大金をどう使ってやろうかと妄想が膨らんでいた。
衣服を揃えてやろうか、それとも強い武器をこしらえて更に稼げるようになろうか。
すべて宴やらで使ったら流石にもったいないだろうか。
そうだ、思い切ってギルドを増員するのもいい。
こぼれ出る笑みが止まらなかった。
様々な妄想を脳内に張り巡らせながら玄関のドアを開けるワタル。
すると、目の前に全身をローブで纏った人物が一人。
「おっと、失礼」
今は昼。集会所は賑わっている時間だし、もちろん来客も来る。
ドアは狭いのだからここはマナー良く……。そういった心遣いでワタルは何気なく道を譲る。
しかしその時、ローブから少しばかり隠れた顔が見えた。
「あっ……!?」
その顔を見逃さなかったワタルは、思わず声を上げる。
ローブの人物は鋼のように冷え切った瞳で、ワタルを睨んでいた。
そして、次の瞬間。
1発の銃声が鳴り響いた。
気がつけば、
銀の銃弾がワタルの胸を貫いていた。
「ワタルっ……!?」
「…………っ!!」
「観念しろ。ナンバーC351号」
彼女はローブを脱ぎ、冷たい瞳で言い放った。
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