リライト

ハレンチ学園演劇部オーディション(原作:青瓢箪さん)

改題 : 背徳と羞恥の狭間で身悶えよ




「次の方。どうぞ」



 なんだ今のヤツは。羞恥心のかけらさえ見せることが出来ず、ただ泣くだけなんて。

 泣きゃぁいいってもんじゃない。


――今年の一年生も不作か。


 半ば諦めモードで、次のヤツが入ってくるのを待った。

 ガランとした進路相談室。

 入ってくるなり、俺の方をガン見してやがる。


 背は高く百七十くらいありそうだ。黒髪、ストレート、ロング。

 細身なのに胸と尻も丸みを帯びていい感じだ。


 ……これはイジメ甲斐がありそうだな。

 俺の本能が、そう言っている。


 慌てるな、俺。

 これから、入部テストが始まるのだから。

 堂々と白日の下で、じっくりといたぶれるチャンスなのだから。

 こんな楽しい時間を無駄にはしないさ!


 * * *


 俺、鈴木ガクトは、この葉蓮池はれんち学園の演劇部部長であり、脚本家 兼 舞台監督 兼 演出家でもあるドS野郎だ。

 俺が気に入った部員のことは、たっぷり可愛がってイジメて色気を引き出してやるので、我が部ウチ艶女アデージョ養成機関とも噂されている。


 俺こそがご主人様調教師なのだ。

 この手でネットリとイジメてやるぅぅぅ!


 野郎どもの期待も背に受け、俺は本日の放課後、演劇部で行われる入部テスト品評会を行っている。


 単に容姿端麗なだけではダメだ。

 羞恥心を見せながらも、背徳の世界に酔いしれる。

 そんな可能性を持つヤツを求めているのだ。


 ……あの二重の目も気に入った!

 お前の可能性Mっ気、俺が引き出してやるぜぇ!


「坂東エリカさん。中学でも演劇をしていたんだ、経験者なのですね」

「はい!」


 ほぉ、いい返事だ。


 素直で従順な犬を思わせる、この態度。

 そんなにもウチの部員俺のペットになりたいのか?

 そうか、それなら


「なんだ、そんなこともできないのか?」


 とか


「ほら、ちゃんと自分の口で言ってごらん」


 なんて具合に可愛がってやるぞ……。

 渦巻く妄想を隠し、事務的に言葉を続けた。



「それでは坂東さん。今から入部テストを行います。机の上の紙に書かれた事柄を自由に表現してください」


 目の前にある小机の上には裏返しにされた紙が三枚並んでいる。


 さて、どんな反応をするのか。


「考える時間は一分で、演じる時間は二十秒です。まずは一枚目、左からどうぞ。では……始め」


 ヤツは俺の指示のままに、左の用紙をとる。

 書かれた文字を目にした途端、さっと表情が変化していく。



『美しく青きコンドーム』



 ふっ、どうだ。驚け。


 女は思わず顔をあげた。

 何事もなかったかのように、俺はその視線を受け止める。


 そうだ、その表情だよ。


 音楽の教科書にも載っている、ヨハン・シュトラウス2世の代表曲。

 ブラームスやワグナーにも愛され、オーストリアにおいては「第二の国歌」とまで呼ばれている名曲『美しく青きドナウ』が浮かんでいるのだろうが……もちろん、それとは違う。


 これはMとしての資質を見るテスト品評会だ。

 まずは想像力を試してやる。


 さっきのヤツは、この問題を見ただけで泣き出しやがった。


 ……中々、いい反応だ。

 驚きと共に、目元に浮かぶ羞恥の気配。

 戸惑いと微笑。さぁ、そこからお前の想像力を見せてくれ。


 驚いているだけじゃダメだ。そこから何を生み出すのか。

 まさかコンドームなんて単語が出てくるとは思っていなかっただろう。

 しかも、。そんなもの俺だって見たことがない。

 この状況で俺の視線を感じながら、お前の中の熱情パッションを表現するんだ!


 さぁ、どうする?

 どんなシチュエーションにするんだ?

 単純に考えれば、これから♡なことに臨むために相手の男が用意した、それを恥ずかしそうに見て見ぬ振りをするというのが王道。他のヤツたちも同じようなことをした。

 でも、お前はそんなつまらない演技をしないでくれ。

 俺が求めているのは、内面からにじみ出る可能性Mっ気なのだ。


 なぜコンドームが美しいのか。なぜコンドームが青いのか。

 そう、これは♡なことに使うのではなく、ことを意識したコンドームのはずだ!

 そこに気づけるのかっ!?


「時間です」


 あくまでも冷静に告げる。


「準備はいいですか?」

「はい」


 俺は目を細め、ヤツを注視する。

 ヤツは真剣な眼差しで見つめ返してくる。


 やるのか!やれるのか!

 この俺が見届けてやる!!


「では」


 俺は、パン、と手のひらを打ち合わせた――



 * * *



 ――二十秒後、再び俺は手を打った。



 ……素晴らしい。こいつは本物真性Mかもしれない。


 俺は大きく息を吐いた。

 まさか、こう来るとは。


 シチュエーションは、公園の陽だまり。

 何も知らぬ純真な乙女のように、コンドームに息を吹き込み風船のように膨らませる。

 周りにいる人々に見せびらかすかのように、美しく青い風船コンドームと戯れながら、悪戯っぽく妖しい視線を投げかける。


 俺には完璧にその情景が見えた。


「……良かったですよ」


 興奮を押し隠し、努めて冷静に言う。

 俄然、ヤル気が出てきた。


 安堵の表情を見せるヤツに、間髪入れず次なるお題を下す。


「それでは、坂東さん、二枚目をどうぞ。考える時間は三十秒です」


 段々とインターバル時間を短くしていく。

 より本能的な反応を見たい。


 ヤツが中央の紙を取り、お題に目を通す。




『オリンピックのエキシビションで、全身トラ柄のセクシーな衣装で登場し、観客を魅了するも、途中で衣装が破けオッ〇イぽろりを全世界の視聴者に見られてしまったザギトワ』



 どうだ、このタイムリーなネタはっ!



 しかも「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に出してもおかしくないぞ。

 ちなみに、タカさんはドSな対応の中に優しさが見え隠れしていて、俺は共感シンパシーを抱いているのだ。



 そう、ザギトワといえばお前たちと同じ十五歳。

 十五歳にしてあの妖艶さを身に着けた彼女が、ぽろりだぞっ!?

 世界中の何十億という目に晒されるなんて……これぞ、究極の露出プレイだ!


 さぁ、どうする?


 これでお前の実行力を試してやる。

 オッパ〇だ。オッ〇イぽろりしたザギトワだ。

 やるのかっ!やれるのかぁ!


「はい、時間です。始め!」


 パン、と手を打った音に反応し、俺を見たとき。

 すでにヤツは女優の顔になって――。



* * *



「やめ!」



 俺が手を叩く音で、の演技が止まる。


 俺はズキズキする股間を、足を組み替えることで誤魔化しながら、部屋の外から見られていなかったことを確認する。


 ……やりやがった。


 この間まで中学生だったとは思えないナイスバディじゃないか。

 確かに、ザギトワならば、ぽろりしたとしても堂々と見せつけるように演技を続けただろう。うっすらと興奮を顔に浮かべながら、むしろ勝ち誇ったように。

 見られる喜びを知っている者だけが持つ領域ゾーンに、彼女は踏み込んでいるというのか。


 間違いない。本物真性Mだ。

 演じているのではなく、本能をさらけ出しているのだ。


「……身体が柔らかいのですね」


 あるじたるもの、常に冷静でいなければ。


 彼女が床に横になり、ザギトワのようにエビぞりになって微笑んだ時、俺は正直、心を持っていかれた。

 この場が入部テスト品評会であることも忘れ、彼女が見せる、羞恥心に包まれた背徳的な美しさに魅了されてしまったのだ。

 もうここからは入部テストではなく、俺と彼女の倒錯プレイバトルになる。


「これを今日、クリアしたのは……貴女が初めてだ」


 俺の言葉に顔を上げた彼女と、視線がぶつかる。


 あぁ。


 彼女も分かっているのだ。

 その口元が少し微笑んでいるように感じるのは気のせいではない。

 あるじたるものとしもべたるものだけが持つ共感シンパシーに不思議な陶酔を覚えた。



「それでは、、三枚目をどうぞ」


 彼女は乱れた呼吸を整えながら、最後の右の用紙を表返す。





『三つの穴による活用方法』






 そう、これこそ!


 まさしく、あの!!


 極めた者だけが、あの称号アルティメットご主人様を名乗ることが許されるという……


 SM界の究極奥義なのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 まぁ、これは俺にとっても妄想の領域の話だしな。

 こっそり見たAVに出て来るけれどな。

 そもそも、この問題までたどり着けるなんて、思ってなかったからな。


 この問題は、あくまでも理解力を試すものだ。

 この一文だけを見れば、何も意味を持たない。

 この問題と前二問との相関関係を連想すれば。


 そう、自分の中に秘めたものがなければ、何も表れてこない。

 秘めたものがあるからこそ、表現できるのだ。

 それが、この十五歳の彼女にできるのか。

 もし出来たなら……


 いやいや、そんな恐ろしいことは考えまい。

 部員ペットになろうかというものが、ご主人様を超える資質を持つはずがない。

 大体、三つの穴って言われたって、何のことか分からないだろ?

 どう使うのか?

 気持ちいいのか?

 どれが一番なのか?

 重要なのは5W1Hの、まさにHなのだ。


 うぉぉぉ!!

 俺の方が童貞だから、妄想でパンクしてしまいそうだぁっ!!


「時間です」


 だめだ。

 これ以上待っていたら、俺の方がヤバい。


演じやりますか?」


 期待と不安が半々。

 彼女はうなずいた。


演じられるやれるのですね?」


 ――そうか。やるんだな。

 ならば、見届けてやろう。

 

 彼女の視線は穏やかで、瞳は潤んでいる。

 すでに軽い自己陶酔トランス状態なのだろう。

 わずかに開いた口は、微笑んでいるようにも見える。


「では……始め!」




 ……彼女はおもむろにひざまずくと、何かをほおばるように口を開け……




 * * *




 ――ハッ。


 俺は我に返った。


 どうしたというんだ。


 俺としたことが、感傷の世界に迷い込んでしまった。


 ここは、控室なのに。

 もうすぐショーが始まるというのに、演出家がこんなことでどうする。

 考えておかしくなり、俺はふふ、と笑った。


 懐かしい、あの日のことを思い出した。

 思えば、あの出会いがすべての始まりだった。


 演劇部に入部したエリカとは、ずっとともに歩んできた。

 彼女は思った通り、素晴らしい才能の持ち主だった。本能と言えるような表現で、エロネタを即興で演じ切る彼女は、瞬く間にエンターテイメント界の新星となった。


 その星の輝きは国内だけにとどまらなかった。

 彼女の使パフォーマンスは、むしろ海外での評価を飛躍的に高めたのだ。

 エロは全世界共通だからな。


 そして、ついにこの舞台にやってきた。


 これからスーパーボールのハーフタイムショーが始まる。


 彼女を待つ、スタジアムの熱気が伝わってくる。

 ここでは、ぽろりの前例もあるから、みんな期待している。


 視線を感じて振り返ると、エリカが微笑ほほえんでいた。

 俺の可愛いペット。

 すぐにイジメたくなるほど魅力的な瞳で、俺を見つめている。


 もう、出番が来たようだ。

 

 エリカは表裏一体。

 愛するものを晒すということはM的な喜びでもあり、主導権をもって演じるのはS的な振舞いでもある。

 今日も俺に至上の快感を与えておくれ。


「さあ、行っておいで。エリカ」


「はい。旦那さまご主人様

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