第31話 ご都合主義とモテ期到来のエピローグ

『エピローグ』




 放課後の教室。

 教室内は夕暮れ色に染まり、幻想的な空間と化している中、俺はとある人と向かい合って、見つめ合っていた。


「これは秘守義務なのだが、先生な、実は宇宙パトロールチーム『ジェネシス』の元隊員だったんだ。だから、こうして、先生はお前と話さないといけないと思ったんだ」


 俺こと本城庄一郎と担任の先生と個人面談をするには、なんていうかロマンチックすぎるシュチュエーションで似つかわしくない。


「そんな衝撃の事実をさらっと言われても困るんだけど」


「本城、正直に言え。お前、この宇宙の支配者クラスと仲良くはないか? あるいは親友とかそんな事はないか?」


「……え?」


 担任には、俺が召喚獣アプリでナンバー1の強さだっていう事がばれているのか?!


「まだ皆には知らせてはいないのだが、明日、転校生がまたうちのクラスに入ってくるんだ。この意味が分かるか? 昨日、お前の許嫁が四人も! 四人も転校してきたというのに、明日もう一人来るというのだ。これを異常と言わずになんというのか! 何か裏取引がないようならば、宇宙の法則が乱れているんだろうな」


「はあ」


 あのアプリの話じゃなくて、俺はそっと胸をなで下ろした。


「しかも……し! か! も! だ!」


 担任はことさらに強調する。


「先生はな、お前と東海林志織とかがカップルになる事は、学校公認という事にする予定だったんだよ。お前達が一夜を過ごした後、ホテルからお前達の部屋の白シーツを回収して、学校内で公開する事でなんとか丸く収めるよう俺が取りはからっていたのに……」


「いや、そんな事したら炎上するだろ!」


「……なんでそんな事を言ったか分かるか? 明日うちのクラスにくる予定の女子と今さっき面談したのだが、その女子もお前の許嫁って話だったんだが、どうなっているんだ? お前、下半身がゆるゆるすぎじゃないか?」


 俺は鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしているに違いない。鳩に豆鉄砲を撃った事はないが、きっとそんな表情をしているはずだ。


「……誰?」


「泉田璃子という名前だが、覚えてないのか?」


「いずみだりこ? いや、初耳だ」


「手を出し過ぎて忘れてしまったのか。やれやれ、とんだジゴロ野郎だ」


 先生はあきれ顔でそう言ったが、知らないものは知らないのだから、どうしようもない。


「お前が何を考えているのか先生は全く分からないが、東海林志織にもきちんとフォローするんだぞ。甲斐性というものをみせなければならない時が男にはあるんだ」


「……はぁ」


 またジオールが手ぐすねを引いていたりするのか?

 そうだとしたら、何かしらの前振りがありそうなものなんだが……。



 * * *



「見つけました!」


 女がらみの事で約一時間ほどしこたま絞られて、ようやく解放された。俺は疲れ切った足取りで、校庭をとぼとぼを歩いていると、そんな声が聞こえてきた。


「本城庄一郎様!」


 誰だ? と思って声がした方に顔を向けると、白いシンデレラドレスに身を包んだ少女が俺の方へと駆け寄ってきていた。

 俺は小首をかしげた。

 見覚えが全くない。

 同姓同名の誰かと勘違いしているのかと思ったのだが、向こうは俺の顔を知っているようなので、その可能性は低そうだった。


「誰?」


 シンデレラドレスの少女は俺の前で立ち止まると、息を整えるように目を閉じた。


「本城庄一郎様は私の事を知りはしないと思うのですが、本城庄一郎様が魔王ンガルディールを討伐された事で命を救われたオリエラと言います。あの日、本城庄一郎様がンガルディールを討伐していなかったら、私はリリングルグンルを統治していた王族の生き残りとして、その次の日に公衆の面前で串刺しにされ処刑される運命にあったのです」


「魔王ンガルディール? 覚えているような、覚えていないような?」


 どこの世界の、どんな奴だっけか?

 もしかしたら、レプリカとの戦いで見かけたかもしれないが、全然覚えてない。

 それで俺に何の用があるっていうんだろう?


「私を本城庄一郎様の傍に置いてください! 妾であろうと、召使いであろうと何でもします。もし必要ないようであれば、元の世界にもう戻れない身空ですので、この場で自害します。決して、本城庄一郎様のお荷物にはなりません」


「自害とかされる方がよっぽどヤバイんだが……」


「どうかお願いします。オリエラの願いをお聞き届けください」


 このまま断ったりしたら、本当に自害されそうだから、家で話だけでも聞くか……。

 元の世界に戻らないのか、戻れないのかは分からないけど、そんな感じみたいだし。


「分かった。いったん話を聞こう」


 仕方なくオリエラを家まで連れていくことにしたが……。



 * * *



 家のドアを開けると、どこか見覚えのある少女が玄関のところで正座をしていた。


「お願いです! ここに置いてください!」


 俺の顔を見るなり、少女はおでこが地面に付きそうなくらい頭を下げた。


「……生きて……いた?」


 その少女の顔を俺が忘れるはずはなかった。

 ミスカルダルで、安楽死施設前で行き倒れていた少女だ。

 俺たちがAIを壊しに行っている間に安楽死施設に行って、死んだんじゃ……。


「あの日、ドンゴさんが滞納した税金分のお金で私を奴隷として買い取ったのです。ですから、私は奴隷として生きる事になったんです」


「……あ」


 そういえば、あの飲食店でサヌが妙な事を言っていたな。

『見かけなかった?』とか、『見間違いだったのかな?』とか。

 なるほど、ドンゴの事をみかけなかった? とか、ドンゴらしき人を見間違えたのかな? と言っていたのか。

 あのとき、ちゃんとサヌに訊いていれば、俺は勘違いせずに済んだのか……。


「詳しい話はそっちの部屋で聞くから」


「はい!」


 俺は靴を脱ごうとして妙な事に気づいた。

 靴がたくさんありすぎるんだが……。

 なんか十人近くいないか?



 * * *



 リビングルームは勢揃いといった様相を呈していた。

 ワサ、サヌ、リリ、エーコの四人は当然いた。ジオール、舞姫、ドンゴ、リヒテンまでもがいるのは許容範囲ではあったが、何故かしら、居心地が悪そうにしている東海林志織がいるのは予想外だった。


「英雄、色を好むとはこの事ですね」


 ジオールが俺の後ろにいるオリエラを見て、意味ありげに微笑んだ。


「みんな集まってどうしたんだ?」


 おそらくは、玄関先にいたミスカルダルの少女の件でなんとなく集まったのだろう事は予想できる。

 しかし、何故東海林志織がいるのかは理解できない。


「とある世界で、いたいけな少女を奴隷として購入した輩がいてのう。なんでも、お主にくれてやるとかぬかしておる。その真偽が知りたかったのじゃが」


 舞姫がドンゴを見ながら、面白がるように言う。


「黙れ、糞狐。野垂れ死なれたら、こいつが悲しむと思って、やっただけだ。俺はいらねぇから、こいつにやるっていってんだよ」


「本当はただのロリコンです。本城庄一郎さんをだしに使っているだけですよ」


 ジオールがさらりと言うと、ドンゴがジオールを睨み付けた。


「あのとき、お前も一緒に買いましょうとか言ってたじゃねぇか、ふざけんな」


「嘆かわしい。拙者があの世界にドンゴとジオールを派遣してしまったために……」


 リヒテンが頭を抱えるようにして、首を左右に振った。


「はぁ?」


 ドンゴがけんか腰になりかけたのだが、


「そんな事よりも説明して欲しいんだが。どうして、消滅したはずのリリ達が生きているんだ?」


 と、無理矢理に俺の知りたい話題をねじ込んだ。

 あの四人が転校してきたからというもの、知りたくて知りたくて仕方がなかった話だ。


「消滅? それは違いますよ。あの四人は自らを異世界に転送させたんです。あの時、転送時に現れる光の柱が四人が包まれていませんでしたか?」


 ジオールが何食わぬ顔で言った。


「光の柱……」


 そういえば、光の柱が四人の身体を包んでいた。

 その中で、身体が光の粒となっていって……。


「……確かに。と言うことは、消滅したいというのは、俺の勝手な思い込み?」


「はい、あなたの勘違いですよ。勘違いするように演出しただけですが」


 ジオールは咳払いを一回して、


「あの召喚術は召喚士と召喚獣を他の世界へと転送させるためのものです。ですが、私が改良して、召喚士のみ転送するようにしておいたのです。異世界へと飛ばされているはずの召喚獣は飛ばされていないのですが、能力値などは異世界へと召喚された状態にあるという、ある意味裏技だったんですよ」


「……ははっ」


 俺は笑いたくなった。

 何から何まで勘違いをしていて、事実を何一つ見ていなかった。

 冷静になって分析したり、きちんと人に話を聞いていれば、勘違いしたり、間違った思い込みをしなかっただろう。

 そう……俺はコミュニケーション不足だったし、きちんと冷静に対処できていなかった。

 その辺りがちゃんとできていたら、もっと上手く立ち回る事ができていたかもしれない。


「この女子はな、家の前をうろうろしていたから中に入れてやったのだが、お前の帰りが遅いものじゃから、お主がやった事を説明しておいてやったぞ。猿の手を使った事、じゃな」


 舞姫はそう言いつつ、東海林志織の後ろに回り、背中を押すように肩に手をかけた。


「……最初は信じられなかったけど、この人たちと話していたら信じてもいいかなって思えて……。ありがとう。本当にありがとう……」


 志織は俺の顔を見ずに、赤面しながらかき消えそうなほど小さな声で言うと、涙があふれでてきたか、手で隠すように俺に背中をみせた。 


「お、おう」


 俺はどう返していいのか分からず、生返事をしただけだった。


「私は非常に気になるのですが、どの女の子を選ぶのですか?」


 志織の嗚咽を隠すように、ジオールが興味津々といった目で俺を見つめつつ、そんな事を質問してきた。


「一人選べぬのであれば、全員側室にするのがよかろう」


 舞姫が助言なんだか、火に油を注ぎたいのか分からない事をいう。


「決めらねぇなら、身体の相性を確かめてから決めりゃいいんじゃねぇか?」


 ドンゴが経験のない俺には無理難題をふっかけてくる。


「拙者が思うに、一夫多妻制の世界か国に行けばいいのではないか?」


 どう返事していいのか分からない事をリヒテンが提案する。

 ワサ、リリ、サヌ、エーコ、それに、目を赤く腫らした東海林志織や、オリエラ、ミスカルダルの少女が期待を込めた目で俺の事をじっと見つめている。


 話題を変えたくて、


「答えは出す前に聞きたい事がある。泉田璃子って人に心当たりがある人はいないか?」


 担任から聞いた名前を言うも、全員が首を横に振った。

 これは、また一波乱ありそうだな……。


「お?!」


 どこかで誰かが俺を召喚しようとしているのか、足下から光の柱が上がって、俺を包んだ。

 チャンス到来!


「ちょっくら異世界に言ってくる。答えは近いうちに出すさ」


 いずれは出すけど、今は出すに出せない。

 俺はまだ全員の事をよく知らないし、もっと知ってからの方が答えを出せるはずだと思ったからだ。


 俺は全員から白い目で見られながら、光の柱の導きによって異世界へと旅だった。






~ 第一部 完 ~


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