ことりの物語
「ことりの一座が来ましたよ」
大きな釣鐘型をした小屋はまるで、そう、あたかも鳥籠のようであった。
その見世物小屋の内装は質素極まりない。椅子とも呼べないような、木製の長椅子が並べられたその先、少し高くされた舞台がある。この舞台と客席を分けるのが、白く塗られた鉄製の柵だ。
客が舞台へ寄らないようにしているらしい。この小屋の客は、子どもたちであった。
「ことりの小屋へようこそ」
この見世物小屋には、まず淑女が一人。
洒落た西洋人形のような礼装に絹帽を被っていて、象牙の柄の立派な杖を片手に気取ってみせる。その足元、たっぷりと広がる裾からは金色がちらりと覗いている。靴を履かないその足は、足ではなかった。金属の先端をもつ、木製の棒であった。足の代用であった。
その淑女の後ろ、見目麗しく着飾った子どもたちがいた。愛らしい子どもたちは男も女も関係なく、豪奢な衣装を纏う。どうやらどの子どもも足を不自由にしているらしいが、一様に美しかった。
「さあ、可愛いこまどりたちをご覧に」
ひいん。からから。
ひいん。からから。
「どうせ要らないのならばこの一座が」
ひいん。からから。
ひいん。からから。
「どうせ聞こえていないのでしょう?」
ひいん。からから。
ひいん。からから。
「行く先のない駒鳥たちの鳴き声が、男には、女には、届いていないのでしょう?」
ひいん。からから。
ひいん。からから。
「このわたくしの声すらも、届かないのでしょう?」
ひいん。からから。
ひいん。からから。
「知っていますよ、知っていますよ、己のために仕方なかった、そう。仕方なかったのです。ですからわたくしたちは、恨み言を言うのではありません、ただ、落とされた卵が孵化することは、なにもあの世に限ったことでないと、そう告げているだけなのです。山が名を捨てるまで、駒鳥は化け続けるだけなのです」
ひいん、から。から。
空を知らない憐れな淑女の鳥籠には、同じく空を知らない憐れな駒鳥が集められ、美しい羽を休めている。
やがて駒鳥のうちの一羽がその羽を広げて、紳士か淑女へと姿を変える頃になると、貧しい村へと鳥籠を広げに行くのである。
貧しい村の南には山がある。険しい道の山である。山は今も小間取の山の名を捨てることを許されず、最奥の祠の前には小さな足跡が絶えないという。
「ひいん。からから」
微笑む淑女は、いつかの駒鳥である。
「可愛い子。今夜の山には誰が鳴く?」
繰り返されるのは、山に囲われた貧しい村での物語。
こまどり ゆきさめ @nemune6
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