其ノ六
大方の予想通り、「ミステリーダンジョン」と名付けられたお化け屋敷では、華名は恐がる素振りすら見せなかった。
「まぁ、妾は元々、妖退治のえきすぱーとじゃからな。あの程度の児戯に心乱されたりはせぬわ」
そう言えば、稀代の陰陽術師だっけか。
「うむ。そうじゃのぅ、生前……という言い方もナニじゃが、当時は全長七間ほどのくちなわと対峙したことや、文字通りの「百鬼」夜行を祓ったこともあるぞよ」
七間……って10メートル以上じゃねーか! それに、格闘技の百人組手ですら大変なのに(一応、中学時代は柔道部だったから、身に染みてる)、百体もの鬼をひとりで相手どるとは……。そりゃ、パチモン如き怖がるわけないわな。
──と、その時は俺も思ったんだ。しかし……。
「うにゅ~~(@@;)」
「ほら、冷たい緑茶買って来たぞ。飲むか?」
「か、かたじけない、兄者。いただこう」
グッタリとベンチに横たわって目を回していた華名が、弱弱しく身を起こす。
「しかし、まさかジェットコースターが、華名の弱点だとはなぁ」
カナの場合は、むしろああいう絶叫系が大好きなんで、コイツも平気だと思って誘ったんだよなぁ。カナとしての記憶があるせいか、華名自身も最初は満更嫌そうではなかったし。
ところが。
ガタン、ゴトンとコースターがレールを登るにつれ、隣席に座った華名の顔がひきつり始め、トップを超えて落ち始めた瞬間に早くも絶叫。以下、何度となく悲鳴を上げて、降りたときには疲労困憊でぐったりと言う有り様だったのだ。
「い、致し方なかろう。妾がこれまで生き、転生してきた過程でも、あのような高さより高速で滑り落ちる経験なぞなかったのじゃから」
そらそうかもしれんけどな。
ん? でも、お前さん、確か元は龍だろ? 空を飛んだ経験くらいあるんじゃあ……。
「うーむ、流石に人になる前、龍だった頃の記憶は少なからず曖昧でな。
それに、兄者はくるまの運転免許を持っていたと思うが、運転がものすごく下手な者の横に座ってどらいぶに行きたいと思うかえ?」
そいつは御免蒙る! なるほど、気持ちはおおよそ理解できた。
「そういや華名ってさ、空を飛ぶ術とか使えるの?」
「さすがにそれはムリじゃな。一時的に重力を軽減して清水の舞台から飛び降りても平気になる程度ならなんとかなるが」
などと雑談しているうちに、華名の体調も回復したようなので、今度は比較的おとなしいアトラクションへ。
さして新味のないそれらの数々に、目を輝かせてはしゃぐ華名。
これまでは多少は距離感と遠慮もあったのだが、こういう人間臭い(というか普通の女の子っぽい)面を見せられると、眼前の少女が精神的には百歳を超える大陰陽術師だとは、認識しづらくなる。
「ほら、キョロキョロしてるとはぐれるぞ」
そのため、人ごみを歩く時も、ついいつもカナにしてるような態度で手を繋いで歩くことに。
「あ……」(兄者の手……あったかい)
「子供扱いするな!」と怒るかとも思ったのだが、意外にも華名は、そのままギュッと手を握り返してきた。
そして、最後は定番の大観覧車に乗る。
「おお、夕焼けが映えてろまんちっくじゃのぅ。さすが、兄者、わかっておる」
「ま、デートのお約束だし、な」
「! 今日のが「でぇと」なのか?」
そう改まって聞かれると返答しにくいんだが……。
「仲の良い男女が外に遊びに行くことを称してデートと言うなら、そうなんだろうさ。
そういう意味ではカナとは何度もデートしてるし、お前さんも知ってるだろ?」
「──兄者は女心をわかっておらぬのぅ。ほかの者がでぇとしておるところを、いくら詳細にびでおで見せられても、それででぇと経験が豊富じゃとは言わぬであろう?」
ふむ。確かにそいつは道理だな。
「(……それに、こういう場面で、いくら実質的に同一人物とは言え、他の女の名前を出すのも、えぬじーじゃ)」
「ん? 何か言ったか?」
「いーや、何も。あ、あそこが妾達のウチのあたりかの」
「さすがに判別できんが、方角的にはそうかもな」
……と、言うようなのんびりした会話を楽しんで俺達は観覧車を降りる。
そのまま遊園地を出て、途中の蕎麦屋で夕飯をとってから、俺達は家に帰ったのだった。
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