第2話 父の初めての弁当

 「ええっと、ご飯は冷凍庫で……これは、チンでいいだろう。これを二杯くらい詰めて、あとは、何を詰めれば……」

 私は、冷蔵庫の中をのぞいた。きちんと整理された冷蔵庫の中には、割高なアレルギー専門の食材が並んでいるが、料理に疎い私は、どれをどう使っていいのかよく分からなかった。


 とりあえず、自分のいつもの弁当を思い出してみる。ご飯に、ウィンナーに、卵焼き(これは透にはだめだ)、ピーマンの炒め物、煮物……。そんなところだろうか。私は、冷凍ご飯、昨日の残り物の肉じゃがを出して、レンジに入れた。レンジがブンブン音を立てて食品を温めているうちに、アレルギー用ウィンナーと、ピーマンを出した。ウィンナーは、切って炒めればいいだろう。でも、ピーマンはどうやって切ったらいいのか?縦に切るのか、横に切るのか?

 

 私は、まな板と包丁を出したが、料理はほとんど作ったことがないので、手が震えた。

 ウィンナーは、いつも緑がそうしているように、少し斜めになるように意識して切った。切ったはいいが、置場所がない。まごまごしていると、いつの間にか咳をする緑が傍に立っていた。

 「それは、そこの小さなボウルに入れておけばいいわ。火が通りやすいように、切れ目も入れてね。それから、ピーマンは縦に切った方がいいわよ。わたは出してね」

 「わた?」

 「ピーマンの種よ」

 「わかった、わかった。寝てなさい、うまくやるから」

 「心配だわ……」

 緑は、不安そうに私を見つめつつも、本当に具合が悪いらしく、寝室に戻っていった。


 私が言われたように用意をしていると、透が起きてきた。そして、キッチンに立つ私を見て驚いていた。

 「ちょっと、母さんはどうしたんだよ」

 「母さんは、風邪だ。今日の弁当は、父さんが作るから」

 透は更に目を丸くしていたが、やがて憮然として吐き捨てるように言った。

 「親父の弁当なんていらないよ。食べないからな」

 「バカ!部活もあるだろう。腹ペコで集中できるものか」

 「いらないったらいらないんだよ!」

 透は、背をそむけてキッチンから出ていってしまったが、それでも私は腹の虫を抑えつつ、弁当を作り続けた。


 結局、ウィンナーは炒め過ぎて焦げてしまい、ピーマンは種がうまく出せず、いっしょに炒めてしまい、胡椒を振りすぎて辛くなってしまった。肉じゃがは煮詰まった。しかし、私は四苦八苦しながら、透の「ドカ弁」にご飯とおかずを詰めた。そして、アイロンのかかったナプキンを出してきて、いつものように包んだ。自分の弁当も作り終わり、透の弁当箱をダイニングテーブルの上に置いて、私は出勤した。




 

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