第四章

ハロワールド トビーの体内

なんか、大変なことになっているらしい

 また、大鳥ビッグバードのトビーに飲みこまれるとは、思わなかったんですけど。


「本来、異界人との交流は、我たちの仕事ではないのだがな……」


 ウォーターボールウノの声が嬉しそうなんですけど。


「いいじゃねぇかよ、ウノ。どうせ、俺たちひと仕事終えて、歓楽の島に食べに行くところだったんだしな。美味い料理の店、知ってからよ……」


 ダルは、さっきから食べることばかりしか言ってないんですけど。


「よかったじゃないの。ハロに適応できててさ……」


 ラッセのコツコツ音が気にならなくなったのは、ちょっと嬉しいけど。


『それでですね、アルゴ995号。なぜ、わたくしがリンを連れて本部から離れなくてはならないのですか?』


 トビーだけが、不満そうだけど、わからなくもない。


 生首アルゴと別れたあと、外に出たと思ったらトビーにバクリ。

 なんの説明もなく、いきなり食べられたんだ。

 いや、食べられたって言ったら、トビーが怒るんだった。


 まぁ、とにかくなんの説明もなしに、トビーの亜空間体内でダルたちと再会したわけ。


 ピンポン玉アルゴ995号は、しばらくしてから説明すると言ったっきり、ずっと黒くなってだんまりを決めこんでいる。


 トビーたちの口ぶりでは、わたしと再会する予定なんてなく、ピンポン玉アルゴ995号にお願いされたかなにかのようだ。それも、詳しいことまでは聞かされていないようだ。


 非常に面白くない。

 トビーの白い亜空間体内で、フカフカのソファーに座って、ピンポン玉アルゴ995号の説明を待って、かれこれもう10分くらいはたっているんじゃないだろうか。

 時計とかないから、あくまで体感でだけど。


『アルゴさまとのリアルタイム接続圏外になりましたので、ご説明いたします』


 赤くなったピンポン玉アルゴ995号が、ようやく説明してくれる。


『実はぁ、そのぉ、アルゴさまの言動に不審な点がございましてぇ、そのぉ、あのぉ……』


 自信が足りない。

 ピンポン玉アルゴ995号には、圧倒的に自信が足りてない。


 ちょっとイラッとしたので眼鏡をクイッと上げて、ピンポン玉アルゴ995号に物申すことにします。


「もっと、ハキハキ要領よく説明するの!」


『あわわわわ……』


「あのね、もっとしっかりしてくれないと、こっちが不安になるの!」


『あわわわ……』


「こっちは、常識通じない世界に来て、不安なの。世話係か何か知らないけど、もっと自信持ってしっかりしてもらわないと、困るの!」


『あわわわ……』


 言い過ぎちゃったかな。


 おぉとか、ダルとウノの感心するイケボの二重奏が聞こえたけど、赤と青の点滅繰り返してるピンポン玉アルゴ995号に言い過ぎたかも。


『あわわわ……』


 思えば、このピンポン玉アルゴ995号ってかわいそうなやつだ。

 わたしよりも年下の男の子の声だし、初仕事だし、それも急遽わたしの世話係になったわけだし、なんかいっぱいいっぱいなのもわかる。


 ついイラッとして言いすぎちゃったなぁ。

 どうしよう。


 コツンッ


 ラッセが頭を叩いた音がトビーの亜空間体内に響いた。


「ねぇ、999号、あんたさぁ……」


『995号ですぅ』


 もう、かわいそうなピンポン玉アルゴ995号は涙声だ。


「しょうがないじゃない。あんたらみんな同じ形してるんだもん」


『そんなぁああ』


 やっぱり、他にもアルゴなんとか号っているのかぁ。

 そりゃあそうだよね。


 コツコツッ


「あのね、あたしたちは、あの変態アルゴが、なんか怪しいって聞いたから、こうして付き合ってやってるの」


 コツンッ


 完全に青くなパニくってるピンポン玉アルゴ995号は、ビクビクと小刻みに上下左右に揺れる。


『そうなんですぅ。アルゴさまがぁ、調べるのに時間かけるとかぁ、田村凜子さまにおっしゃるからぁ、絶対にぃ、何かたくらんでいるんですよぉ』


「え、聞いてたの?」


『もちろんですぅううう』


 なんか、ピンポン玉アルゴ995号の何かが切れちゃったプッツンしたみたい。


 青くなったまま、誰にも口を挟ませない勢いで息継ぎなしでしゃべり始める。――そもそも、息してないんだろうな、ピンポン玉だし。


『わたくしどもアルゴシリーズは、もともとアルゴさまの手足で耳と目で、口だったんですぅうううう。261号以降の自律思考型になったわたくしどもも、アルゴさまの一部なんですぅう。ほとんど共有可能なんです。というか、アルゴさまが、共有不可にしない限り、自動的に情報が共有されるんですぅうう』


 一つだけわかったことがある。


 ピンポン玉アルゴ995号は、苦労してるんだなってことが、よくわかった。


 それにしても、すごい勢いでしゃべるしゃべる。口撃力高いラッセですら、口を挟めないでいる。


『だからぁ、おかしいんですよぉおお。時間をかけてしっかり調べるとか、おかしいんですよぉおおお。だってぇ、アルゴさまはぁ、超高性能な人工知能なんです! 田村凜子さまと不完全なボディで対話している間も、並行してハロワールド中の闇の暈ダークハロの顕現予測演算をこなして、ハロ使いに指示を出したり、避難区域に避難指示出したり、たった一つの事象に時間をかけて調べるなんて、おかしいんですぅうう。変態だけど、すごい演算システムなんですぅううううう。変態だけどぉおおおお』


 なんとなく、すごいやつってのはわかったけど、なぜ変態を強調するんだろう。確かにハァハァしてるのは、変態だったけど。変態だったけど、わたしの話はしっかり聞いてくれたはずだったのに。


『だからぁああああああ、皆さまにお願いしてぇえええええ、アルゴさまのリアルタイム同期の接続の圏外まで離れてから、相談したかったんですよぉおおおおおお!! 先輩たちの情報からしてもぉおお、アルゴさまが何か企んでいるときは、大騒動になるんですよぉおお。ほらぁ、863日前の同時多発侵略する者インベーダー出現の事件も、予測してたのに侵略する者インベーダー同士でやりあってもらおうかとかで、ハロワールドが大荒れだったじゃないですかぁあああああ』


「あ……」


 短いイケボたちの四重奏カルテットが、なぜかことの深刻さを物語ってくれた。


『だから、皆さまに相談してなんとかしたいんですよぉおおおおおお』


 うん、なんか、大変なことになっているらしい。

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