エンジョイしなけりゃ、損だ
何か大変なことになっているらしいのは、わかった。
なんとなくわかったのは、アルゴという変態は、面白そうだからってことで、不定期的に確信犯になるってこと。それも、
「わたしは、ピィちゃんの手がかりがほしいだけなのに」
非常に面白くない。
ずっとトビーの
だって、あーでもないこーでもないのイケボの
コツンッ
あーでもこーでもないが、白熱してきたところで、ラッセが頭を強く叩いた。
いつのまに学習したのか知らないけど、
「リンが追いかけていた男が怪しいなら、あたしたちが探し出せばいいじゃない」
「その考えに、我も同意するが、どうやって探し出すのだ?
「まぁ、なんだかんだっつても、アルゴがやらかしたことで、死人が出たわけじゃないし、ほっとけばいいんじゃないか」
『でもぉおお、過去には島が一つ吹き飛んだ事例がありましてですねぇええ』
こんな感じで、堂々巡りは巡り続ける。
ラッセの意見に激しく同意したい。
そして、一緒にピィちゃんを探したい。
なのに、口を挟むスキがない。
「……ピィちゃん、モフりたい」
早くピィちゃんをモフりたくて、手がワシャワシャ勝手に動いてしまう。虚しいから、やめようとしても、無意識のうちにピィちゃんを求めて手が動いてしまうんだ。
「ハロー、ワールド。ピィちゃんのためなんだから、勇気出すんだよ」
勇気出して、荒々しいイケボの
「あ、あのぉ!」
ギュッと拳を握りしめて、立ち上がる。
『まもなく、目的地に到着しますので、排出準備を開始します』
なんてタイミングだ。
握りしめた拳をどうしてくれるんだ。
「うっしゃぁあああああ!! 美味いもん食うぞぉおおおお!! ややこしい話はそれからだぁあああああ」
うん、ウノがダルを脳筋呼ばわりしたのは言いすぎだったんじゃないかって思ってたけど、脳筋までじゃなくても単純なやつってのは間違いないかもしれない。
拳を振り上げて、
「ま、せっかくだし、ちゃんとリンも歓楽の島を楽しんでもらわないとね」
「う、うん」
今気がついたんだけど、ラッセの口の中はサメみたいに細かい牙がずらりと並んでいた。キラーンって効果音が聞こえてきそうなくらい、ピッカピカに光ってる歯は、なぜか
色ガラスの体よりも、硬そうで怖い。
ゴクリって自分の喉が鳴ったの、わかったよ。
『
今度は足元から
よくよく考えれば、産卵される女子高生って、わたしが初めてじゃないかな。
完全に殻に包まれて真っ暗になると、トビーのカウントダウンが聞こえてきた。
『10、9……』
なんだか、ワクワクしてきた。
一回目は、わけがわからなくて嫌でしかたなかったけど。
『3、2、1、
なんだか今は、楽しい。
このとんでもない異世界を、エンジョイしなけりゃ損だ。
排出の浮遊感は一瞬。
殻が割れたら、言ってみたい
「ハロー、
誰かに聞かれたら恥ずかしいから、小声でつぶやいて光に目がくらまないように閉じていた目を開ける。
「えっ」
驚いた。
まるで夜の繁華街だ。
「ほへぇ」
まず語彙力が死んだ。
本当に多種多様な種族がいる。
緑の肌の天使みたいな翼のある人が頭の上を飛んでいった。
薄紅色の空は、藍色に染まっている。頭上高く浮かんでいる
太陽も月も星もないのに、
何より驚いたのは、この島だ。
「ふへぇ」
重力とか引力、なにそれ美味しいのってくらい普通にゴツゴツした岩男たちが、ガヤガヤ喋りながら壁歩いている。
至る所にある落ち着いた紫色に統一された橋や階段とか、どこをどうしたらってくらいめちゃくちゃだ。
まるでエッシャーの絵の中に入りこんだみたいだ。
瞬きも忘れて奇妙な街を眺めていると視界にひょっこりと、赤い
『田村凜子さま、あのぉ……わたくしも、リンと呼ばせていただきたいのですが』
「うん、いいよ」
何だそんなことか。
『あわわわわ! ありがとうございますぅうううううう!! 嬉しいですぅううう光栄ですぅううううううう……ふぎゃ』
騒々しく飛び回る
「さっさと
『あわわ……はい、わかりました』
ちょっと申し訳ないけど、少しくらい楽しんでもいいよね。ピィちゃん。
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