This is the key of the kingdom

 アルゴ変態にどうすれば、俺を勝手に原型モデルにされずにすむのか。


「実は、さっき想定外の闇の暈ダークハロが顕現して、第10892世界『地球』から転移があったのさぁ」


「…………」


 両手で抱えた俺と同じ顔がニコニコと上機嫌に言ってくれる。

 こいつの話は、無駄に長い。

 長いつきあいだが、いまだにこいつの話を短くするすべを知らない。

 結局、勝手に喋らせることになる。

 今もそうだ。


「それで、急遽、第10892世界『地球』の異界人にあわせたボディを生成したんだけど、これ、これを見てくれたまえ!!」


 アルゴの頭部の正面に出現したのは、金属の板だった。


「ハァハァ、これ、わかるかい? 吾輩ほど高性能ではないが、なかなか優秀な同胞である。ほらほら、こうすると……ハァハァハァハァ」


「まったくわからん」


 こんなくだらないことのために、押しかけてきたというのか。

 話を聞こうとした俺が馬鹿だった。


Humptyハンプティ Dumptyダンプティ……」


「待て待て待て待て! 吾輩が悪かった。君が機械に興味がないことを、すっかり忘れていただけではないか!!」


「ついでに、俺への用件も忘れていないか?」


「あ……」


 忘れていたらしい。

 アルゴは、文字通り巡る円環の頭脳だ。

 ハロワールドでもっとも有能な頭脳であるはずなのに、残念ながら変態だ。


 金属の板をどこかにしまったアルゴは、両手に抱えられた頭部で咳払いする。

 器用なやつだ。


「それで、どうして頭と体が別々デュラハンになった?」


「あー、それはだね、想定外の転移で急いでボディを生成したらこうなった」


「…………」


 そうはならんだろう。

 だが、やつにとってはそういうことなのだろうと、諦めよう。


「それで、君を訪ねた用件だけども、二つあってね。一つは、第10892世界『地球』に行っていたりしなかったかなぁって……」


「俺がどこで何をしようと、貴様には関係ないだろうが」


「それがあるのだよ。吾輩は、今回の闇の暈ダークハロは君が関係しているのではと推測している。君が、あの『犬』を探しに第10892世界『地球』に、頻繁に行っていることを知っているからね」


「……そういうことか」


 この頭脳だけは認めざるえないアルゴ変態は、女王さまが残してくれたたった一つの卵のことも、ようやく孵ったクラガリが闇の暈ダークハロにのまれて行方知らずになっていたことも、すべて知っている。クソ忌々しいことに、このアルゴ変態と一括りに三賢者と呼ばれているせいか、やたら俺にからんでくる。そのおかげで、こいつには俺の名前まで知られている。

 名前を知られてしまったせいで、こいつは遠慮なく俺の住み家に押しかけてくる。

 あー、死にたい。


 ここは、終わるはずだった奴らが未練がましくおまけのような余生を消化するための世界。

 故郷の世界を失うことは、俺がそうだったように何かしら心に傷を負うものだ。アルゴ変態のような例外もいるが、あくまでも例外だ。

 未練がましいおまけのような余生を、穏やかに消化したい。

 そのために組織したのが、巡る円環だ。

 俺とアルゴ変態、それからハロワールドの女神ナージェが作った組織だ。

 ただし、ナージェのやつは巡る円環を組織として軌道に乗ってから、ずっと眠り続けている。夢の中で彼女は想い人を探し続けている。

 必然的に、アルゴ変態の相手をするはめになっている。


 死にたい。

 頭が痛いから、死にたい。

 めんどくさすぎて、死にたい。


「アルゴ、もし地球からの転移が俺のせいだとしても、いつも通り帰還させればいいだろうが。クラガリも取り戻したんだ。もう二度と、あの忌々しい地球に行くことはないからな」


「そうなのかい? 君の『犬』が見つかったのかい!!」


 おめでとうとかアルゴ変態が脳天気に騒ぐから、死にたい。


「あー、死にたい」


 誰か、俺を殺してくれないかな。

 その前に、目の前の胸クソ悪いデュラハンを壊さなければ、死んでも死にきれないな。


「All the king's horses, 王さまの馬とAnd all the king's men,王さまの家来を集めても……」


「待て待て待て待て待ちたまえ!! 用件は二つあると言ったじゃないか」


「チッ」


 本当にめんどくさいやつだ。


「そう、侵略する者インベーダーだよ。侵略する者インベーダー


「それを先に言え!!」


 侵略する者インベーダーと聞いて、期待に胸が膨らむ。

 今度こそ、俺を殺してくれるかもしれない。

 不死の祝福呪いを授かった俺を殺してくれるかもしれない。


 死ねるかもしれないという希望に、ゾクゾクする。


「どこだ? どこにいる?」


「座標2984.25、197.83、9829.01。ちょうど、歓楽の島が流れている場所だ」


 いきなり、人が多い場所に出現してくるとは。

 今度こそ、俺を殺してくれるかもしれない。

 椅子にかけておいた灰色のマントを羽織りながら、顔が緩むのがおさえられない。


「頼んだよ、灰色の男グレイマン


「ああ、任せておけ。……Couldn't put Humpty together again.ハンプティを元には戻せない


「あ、aa,a,ah……」


 サラサラと崩れ落ちる胸クソ悪いデュラハンアルゴ


 赤い扉を開ける前に、背後の黒い扉を振り返る。


 たとえ、今度の侵略する者インベーダーがまたクソ雑魚でも、今はクラガリがいる。

 クラガリがいれば、俺は死ねる。


「行ってくるよ、クラガリ。This is the key of the kingdomこれは王国の鍵……」


 赤い扉が勢いよく開き、俺を飲みこむ。

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