エピローグ 断罪者の矜持
四つの剣は極めて高速で衝突を繰り返し、激しい火花も頻発した。ふたりはまさに、踊るように互いに刃を向ける。その速度こそ人智を超え、燃え上がるような熱と凄まじい魔力がぶつかりあい、遺されたふたりだけの戦場を彩っていく。
エルマの細身の剣は、アクウォスの幅広の剣の一撃を緩く受け流し、エルマの流麗な太刀筋は、アクウォスの剛直な受けによって止められる。その度に互いから魔力が曝露され、周囲に衝撃が迸る。
距離をとったエルマから、氷の弾丸が放たれる。アクウォスは即座に炎の矢を放ち、それを無力化した。たちこめた霧に乗じてエルマはアクウォスの背後をとるが、切りかかる寸前に火柱が彼女を突き刺した。
焼け焦げた肌は即座に修復される。互いに、互いの魔力をぶつけ合い、傷を瞬時に癒し続ける。人理を超えた戦闘が、休む間もなく続いていた。
「楽しいわね、アルベール」
「そうか、俺も、そういう男だったのだな」
アクウォスは剣を交差させ、エルマの剣を受け止めた。エルマは妖艶に微笑んだ。
「でも、もう終わり」
引き金を引いて魔力が爆発し、一瞬虚を突かれた両の剣は、その衝撃に耐えられずアクウォスの手を放れた。流麗な細身の剣は空に放たれた両手をたちまち捕らえ、一気に両断する。
アクウォスが叫び声をあげ崩れ落ちた。剣を拾おうにも両腕はなく、再生する間は当然ない。
エルマはそのまま、血塗れの剣をアクウォスの喉に差し入れた。彼女の全身が震え、甲高い笑い声が響く。
エルマの勝利は、揺るぎのないものになったかに見えた。
《お前の負けだ》
刺し貫いたアクウォスの頭部は、未だに不敵な笑みを浮かべている。
エルマの顔が若干不穏にひきつる。
《機式魔術秘義『
アクウォスの発動句とともに、彼の身体が光り輝き、濃い青の魔力光が明滅する。
「えっ」
宿命を背負う星石から授けられた、無限とも錯覚できるほどの魔力が、アクウォスの心臓に収束し、
《融けろ》
エルマは、アクウォスの弾ける音を聞いた。
解き放たれた魔力は坑道の残存する部分を全て破壊し、溶融させ、灰すらも遺さないほどに焼き切った。一瞬でふたりは瓦礫に包まれ、それすらも消えてなくなり、潰れたはずの坑道に新たな地割れが生まれた。
その地震はルーヴェル山麓の集落でも観測され、数名のけが人が出たと記されている。
消えてしまったふたりの消息については、まだわかっていない。ただ、ゴルタビア王国の南部で、傭兵団が国境付近の森で薄気味悪い女の笑い声を聞いたという話を旅人が記している。
Ophiuchus (Web Edit) ひざのうらはやお/新津意次 @hizanourahayao
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