第28話 お持ち帰りになった女の子は…?
「まとめるたって。その話しは、そんなに簡単なものじゃないんじゃないのかい? 尾田さん」
俺の言葉に、目を輝かせていたはずの先方も、しゅんっと悲しそうな表情になっている。
そんな彼の横で、水科が俺に言う。
「まとめる必要なんかないですよ。始まりから終わりまで。きっちりと、話して下さい」
胆の座った、ものの言い方には俺も苦笑しか出ない。
どうにも、俺はこの水科には、勝てる気がしない。無理矢理に、ねじ伏せることが可能だったとしてもだ。
理論的に、という状況下での話しだけどな。
「本当に良い性格した担当編集者だわ。ムカつくね」
◆◇
「っはー~~だるっ」
俺はハンドルを握って首を横に振った。
嫌でもない現実世界に戻る為に、トンネチの中をひた走る。そんなお疲れの俺の耳に、何か音が聞えた。
何かが、こう、蠢くような、もぞもぞとした音だ。
「?」
俺は不審に思って、トンネル内部でウインカーを点けて車を端に停めた。
向こうからは誰も来ないと分かっていても。万が一とも思ったからな。
「おい? ダンマルなのか?? 全く、兄ちゃんを困らせるなっての」
俺が声をかけても返事はなかった。絶対に、いるはずなのに。返事がないってのは、本当に腹が立った。
俺は聞えるように大きくため息を吐いてやった。
そして、俺は運転席から下りた。
やれやれと、手を伸ばして、後部座席のドアを開ける。
「ダンマルっ!」
「っぴゃ!」
勢い開けたドアの中、後部座席に毛布に包まった。子供が身体をビクつかせた。多分、ダンマルよりも幼いだろうし。そんなもんだから、俺も誰とも知らない子供に、何をどう怒れば、言えばいいもんなのかを悩んだ。
「……おい。どこの餓鬼だよっ」
俺は腕を伸ばして、毛布を剥ぎ取った。
「……人間? なのか。あンたは……」
真っ黒い髪が肩まで伸びていて、前髪もぱっつん、眉毛の長い大きな瞳の中は藍色で。それに俺が映っている。ファッション誌に載る様な、テレビドラマにいそうな。可愛らしい女の子だ。
「うん。ここから出たいのっ。貴様に協力をして欲しいのじゃ!」
どこか上からな口調だったが、このときの俺は気にはならなかったんだな、これが。
真剣な表情に、にじりよって来て、俺の膝を掴む小さな手。
しかも、小刻みに震えているもんだ。
「いいけど。金はあんの? 私は運転で金を稼ぐ商売をしていますよ?」
俺はかまをかけて丁寧に、客に語りかけるように話しかけた。俺はタダ働きはしない主義だ。
これから家に帰るとしてもだ。払って貰わなきゃわりに合わない。
「っか、カラダで払う! なら、どうじゃ!」
「っか、……らだぁ~~??」
「うむ! そうじゃ‼」
「……――身体かぁ?」
俺を掴む手は小さいし、伸びてる腕も細いし、明らかに。
JSでしかない体形だし、体格も未発達も、全部が犯罪に思えた。
しかしだ。
「うぅん」
契約はなされたと俺は、ドアを閉めて運転席に戻った。しかしだ、難所はある。
このトンネルの関所でもある。マクベスとコーリンの
(っま。なんとかなるかな)
アクセル全開で、俺は愛車を走らせた。
「おい。一旦、椅子から下りろ」
「? ん」
俺はボタンを押した。すると、どうだよ。後部座席が上に開いた。
中は空間で、何も入ってなんかいない。普段はお土産の品を買って、この中にいれて、外へと密輸をしてたりする。
今日は、買っていないから、運よくも、空の状態だった。
「で。とっとと入ってくれる? お嬢ちゃん」
子供は慌てて中に入った。
俺も確認して後部座席を締めた。
息を整えてバックミラーで、自分の表情を確認をする。
動揺をしていないか、瞳孔が大きくなっていないか。
心臓音も、脈も。平静を保たないといけない。
原則として《17丁目》に入った生き物は出られない。
いや、出られるが。
申請やら、理由などといった紙を部署に提出して、許可通行証を発行してもらうことが原則だ。
それらを全部無視しての、この強行作戦を実施する。
明らかに、背徳行為であることに変わりはない。
番人でもある親しくなった奴を――騙すんだからさ。
「よう! 今日はもう帰るんかい? フジタぁ」
「ああ。明日は勤務が早いからさ。ゆっくりと風呂に浸かるさ」
のんびりと話すのは牡鹿のマクベスだ。フムクロ同様に話しやすい
「っひ、非常事態が起こっ――!?」
何かを言おうとしたコーリンの口を、マクベスが手で覆い隠した。顔はにこやかなままなところも、フムクロのような仕事意識の高く、誇り高い戦士。そのものだ。あとは、この状況下は紛れもなくチャンスだ。
突っ切る為の、何かの力が発動したに違いない。
「何? 何々??
「いいから。ほれ、
「はいはいっと。もしものときゃあ俺を呼びな。辺りを火の海に変えてでも、金次第でやってやるよ。知り合い割引でさ」
俺も、敢えて話しにノリながら、クラクションを鳴らして、トンネルから出た。
そこの光景は山中から見える人工的な光りが輝いていた。
ドン! ドドン‼
「あ。忘れてたわ」
俺は後部座席を開けてやると、女の子が勢いよく飛び出た。
全身から汗が噴き出ていて、髪を伝って汗が垂れていく。
「し、死ぬかと……思った、のじゃ~~っつ!」
そして、車のフロントガラスから外の光景を見た瞬間。
女の子の動きが強張ったのが見えた。
「何? 帰って来たし、家はどこ? 送るよ」
俺はバックミラー越しに女の子に聞いた。
その質問にも、女の子の身体が大きく揺れた。
どうしてここまで、リアクションがスゴイのかと俺も息を吐いた。
しかし、それでも、家を教えてくれなきゃどうにもならない。
こんな女の子を連れて家に帰った日にゃあ。
こういう日に、やっぱり家から自立するべきだわ、と思っちゃうわな。
「身体をあげるから、一緒にいてくれまいか?」
◇◆
「「!?」」
俺の話しに鼻息が荒くなって、顔を真っ赤にする水科と先方の2人。そりゃあ、そういう反応をするのか。業界的に、エロい展開ってもんだもんな。
明らかに、そんな感じの雰囲気の。それに男の
「まぁ。想像に任せますから。野暮なことは聞かないでくださいよ?」
俺は間にキリトリセンを切れ込んで。そう一蹴した。
連れ帰ってしまった女の子のせいで、俺の人生は一変をさせはしなかったが。
敢えて言うなら、女の子の人生が一変してしまった。
ああ。そうだよ、俺のせいだよっ!
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