乗客 酔っ払い

第19話 酔えば酔う程に寝る

 ありのままに起こったことを話すぜ。何が、どうしてそうなったかってのは説明なんか不可能さ。酔っぱらっていた僕に期待するだけ無理って話しだ。


 ズキズキズキズキズキ。


「あー~~……頭が痛いッ」


 ◆◇


 それは北の恵み食べマルシェに来ていた時だ。丁度、地方から旭川に帰って来ていた友達に会いに来ていた。イベントには、たまたま、遭遇したと言ってもいい。

 腹が一杯になった後に、そのまま36街に向かって酒を呑んだ。JRで来ていた俺は、乗り過ごした。ただ、次の日には、その次の日の書類を作成をしなきゃいけなかったから、絶対に帰らなきゃなんなかった。

 ベロベロの僕を瀧澤がどこからか拾って来たタクシーに僕を乗せ、家の住所を教えて手を振ったまで、覚えていたんだけど、そこまでだ。ただ、運転手が僕に声をかけてくれていたところは薄らぼんやりと記憶にあるってだけだ。


「お客様。ベロベロですね、お酒とか弱いんですか?」


「べちゅにぃ。よあくあなんふぇないろぉ」

「ははは。ああ、吐くときは言って下さいね、エチケット袋はありますから」

「はふぁにゃふぃろぉ」


 バックミラーで僕を見る運転手は、堺雅人にそっくりな風貌だった。無害な人格者のようで、物腰も良さそうに見えた。

「はふぁらぃふぁっらぁ~~」

 そのまま僕も、目を閉じたんだが。

 運転手が、何かを喋っているのが、耳の鼓膜に響いた。

 別に、盗み聞きをするつもりなんかなかったんだけど。聞こえたものは仕方がないだろう。


『ああ。ダンマルちゃん、うん。これから深川に行くところだよ。あーうん。そう』


 誰だろうかと、さらに聞き耳を、僕は立てた。


『え。《17丁目》でも仕事が? あっ~~……そぉっかァー』


 落胆に近い声を出す運転手。それには僕も苛立った。酔っぱらっていようとも、僕は客だ。金だってきちんと払う訳だし。

 なのに、どうして。がっかりしたような声を吐くのか。僕には理解が、このときまでは出来ないでいた。しかし、運転手の葛藤だったってことに気づくことに、あと少し、時間を要した。


『乗せた乗客の奴。酔っ払っているから、寝てはいるんだ……あーうん。でもさぁ、途中で起きちまったらって、兄さんも考えてる訳よ。流石に、酔っぱらった人間を、向こうに無断に一緒に入るとかはさぁ?』


 どうにも、電話の向こうに選択権があるというか。

 力関係では、向こうの方が近いような感じに思えた。そうするとだよ。そうだよ。


『《蜜眠草アレ》で、そのまま寝かせっての? いやいや。元々、寝ている人間には効かないよ? 効果は薄いはずだ……えー~~いや、あの。その……はい。じゃあ、帰るのは一寸、遅くなるかんね? ああ。あっちに着いたら、もっかい連絡すっから。ぅんじゃな、ダンマルちゃん』


 運転手は僕をどこかに、仕事名目で拉致した。


 ◇◆


 ――「《17丁目》って。あの都市伝説に近い、アレのことなのかよ! 小津雄オヅオってば。何っつぅー夢見たんだよっ』


「聞けって! 滝澤っ」


  僕は敷布団の毛布の中から、乗ったタクシーの不思議な話しを滝澤に教えていたんだけど。やっぱりというか、きんと、まともになんか聞いてくれやしない。だが、これは僕も忘れてしまいそうだから。

 親友の彼と共有がしたいんだ。


「これはただのおとぎ話しなんかじゃないっ‼」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る