第11話 罪を超えて、着いた場所

「ダンマルちゃんは、当時は俺よりも小さな、……そうだな? ああ。幼稚園児並みの身長しかなかったんですよ。そもそも、アイツの種族自体がチワワ的な小さな種族だったので」


 あの時は、本当に今までないぐらいに頭に血が昇ったんだ。


《怒りで我を失う》


 俺は意味を改めて知った。


「愛玩動物的な感じだったのかな?」

「まぁ、そんなとことです。どの世界にもあるようですよ? 闇取引きと、……密猟がね」

 俺は、当時の自身の行動に恥ずかしくもなった。怖いモノ知らずの、若い少年を絵に描いたような俺だったからだ。勿論、俺はありとあらゆる手段を用いた。

「俺は事件や、犯罪などといった起こす人間が大嫌いです。軽蔑すらします」


「!? っき、嫌い……かぁ。そっかァ」


 ◆◇


 まず、俺はグォリーに頼んだとかの態度じゃなく。

 口汚く、異界人を罵って、泣きじゃくって、探させたんだ。

 その時のグォリーは酷く動揺したが、俺に当たり返すことも、罵り返すことも何もしないで、寄り添うように、ただ、俺の指示に従い。他の仲間に声を掛けて、居場所を探せたんだ。

「俺も行こうかぁ? 戦力はあるに越したこともないだろう、フジタよぉう」

 優しく、俺に言葉をかけたが。

「いらない」

 俺は、拒絶をして断った。

「誰も、俺のやり方を視ないでくれっ」


「強さに甘えんなよ? フジタぁ。それは諸刃の刃になんだ。痛みは、いつか自身に返ってきちまうもんなのさ。あんましと驕るなよぉ?」


 この言葉が一番、今も胸に残る言葉かもしれない。

 今でも、その言葉に縛られているからだ。

 だから、この一件以来、俺は殺さずの《研究》をした。

 

 同時に、如何にして完膚なきまでに叩き潰すかを、だ。


 19歳の若かった俺は習った全ての方法を用いた。

 一帯を火の海に変えた。

 たった1人で行ったのは――《虐殺》という言葉が正しい。


 自身のタクシー会社の制服も、真っ赤に煤で汚れてしまった。

 顔も同様にだ。手からも、おびただしくも相手の血が垂れていた。

 滑った感覚は、たまに記憶に甦って、何度も何度も、手を洗っても流れもせずに、皮膚を削り剃っていった。

 

 だから。

 俺の手には、一切の指紋がない。


「手前っ! 畜生がぁアアアア‼」


「っく、来るんじゃねぇ! っぶ、ぶっこ、ぶっ殺されて、って、って、ってぇのっか、かぁあぁ?! アぁ!」


 上擦って言葉の語尾を震わせて、俺を威嚇するのは、カモメのように鳥っぽい奴だった。

 俺を見て震える様に、

「やってみろよォうぅおオ‼ あァアッッッッッ‼」

 俺は身体を震わせて、強く吠えるように言い返して。


「チッ!」


 指先を鳴らして、辺りの空気を火花に変えて、カモメ同様に、逃げ惑うアイツらを殺傷した。惨たらしくも、2度と、この地に花や、ぺんぺん草すら生やさない勢いで。後先も、全くの無計画での犯行だ。

 ガチキレの俺に声をかけたのは、


「おいおい。なぁにぃを熱くなっちゃってのよぉ。息子フジタちゃんよぉう」


 俺の父親フムクロだった。

 今回の事件それを、グォリーの頼んだのも。彼に知られたくなかったからだ。

 彼の顔に泥を塗る行為、背徳行為だと分かっていたからだ。


「!? ぁ……お、親父ぃ……っつ!」


「あァ~~あ。父さん、悲しいなァ? 息子が、こんな惨たらしい虐殺を行うなんて。教育に、失敗しちまったのかなぁ、おりゃあ


「っち! 違うっ、あんたは何も、失敗なんか、なんかっ! して、なんか……ぃ、いねぇ……っご、めん、さい……っだ! だって! こいつら、っさぁ! っだんま――……」


 パン!


「言い訳なんざ、要らねぇんだよ。フジタぁあ!?」


 頬を軽く叩かれた俺の膝がぽっきりと折れて、跪いてしまった。地面も、遺骸と血で染まって、酷く悪臭と、黒煙で入り交じっていた。

 光景を目の当たりにして理性を取り戻した俺は見渡した。

 涙で揺れた世界は残虐極まりない現実を俺に見せる。

 

 戦争痕のように目を覆いたくなる光景だった。


「惨状を死ぬまで覚えてろっ! お前さんは、最も醜い犯罪者として生きるんだっ! この未来サキ永劫にだっ‼」


 叱咤の後でフムクロは俺をダンマルの収監されていた牢獄に連れて行ってくれた。

 暴行され、大怪我を負っていたが、ダンマルの命に別状はなかった。


「っふぃ、じふぁらぁ?」

「! あ、ああ! いる! ここにいるぜ? っだ、ダンマルちゃん」

 震える手を俺は掴んだ。


「おふぇを、いっひょにつふれっへっと」


「……っは?」


 言葉は聞き取れなかった俺は、思わず、怪訝な顔をしてしまったが。

 どうにも、それは「俺も、異世界に連れてって」なんだと、フムクロに訳された。

 でも、まだ若いダンマルを日本に連れて行く訳には、いかないと思っていた俺に、

「覚悟があんなら、教えてやんよ。お前なら、すぐにでも、全ての業を束縛し、拘束する闇の禁術をなっ!」

 苦笑交じりに、俺にフムクロは指先を擦る。


 質問の応えは。


 ◇◆


 「私ね。こう見えて、大量殺人鬼なんですよ。あれの事件以来、無謀な争いは避けてますが。まぁ、今は殺さずを極めているから。血は流れても、誰も死にません。年の功かもしれませんね……はははっ」


 俺は苦笑交じりに、アクセルを踏み込んだ。

 旭川空港まで、あと少しの距離だ。看板の距離も短くなっている。


「……まりなも、同じなの。犯罪者、……馬鹿なことを、やっちゃったんです。ねぇ、尾田さんは、気づいていたでしょう?」


 俯いて顔も見えなくなった彼女に、俺も隠すことはしない。

 真実が、いつだって1つだとするなら。


 人生だって――1つしかないんだから。


「三井まりな、26歳。横領と殺人未遂によって指名手配、って写真付きで放送されてましたよ。これのナビ用テレビで拝見しました」


 俺のような罪人がどうして、彼女に手を差し伸ばしてしまったんだ。

 何て浅はかで、馬鹿な行為かとフムクロやダンマルなら、そう言ったかもしれないないが。

 タクシー待ちの彼女の顔は酷く青ざめていて、泣き顔に近くてさ。


 俺も、女の泪には弱いからさ。


「お客様はですね」

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